106話 私立ビーストテイマー学園・その3
「今日はどうしようか?」
放課後。
アクスとユウキと一緒に街へ繰り出した。
せっかくの自由時間。
すぐに帰るなんてもったいない。
「カラオケに行こうぜ。俺の美声に酔いしれな!」
「うん、楽しそうだね。僕もカラオケがいいな」
「じゃあ、カラオケにするか」
みんなで駅前にあるカラオケ店に向かう。
「いらっしゃいませー!」
店内に入ると元気な声に迎えられた。
赤い髪と角が特徴的な女の子だ。
「部屋、空いてます?」
「ええ、空いてるわよ。三人でしょ?」
「はい」
「時間は?」
「3時間で」
「はい、りょーかい。あ、それと、ワンドリンク制だから一つ選んでね」
「えっと……じゃあ、俺はアイスティーで」
「僕はオレンジジュース」
「俺は……お姉さん、あなたをぐはぁっ!?」
アクスが拳で沈められていた。
軽いセクハラのようなものなので自業自得だ。
「あいつは烏龍茶でお願いします」
「はいはい。じゃあ、5号室で」
マイクやタブレットなどが入った籠を受け取り、5号室に移動した。
「けっこう広いね」
「だな。三人なら十分だ」
「よっしゃ! じゃあ、歌って歌いまくるぜ!」
アクスはもう復活していた。
よくナンパをして撃退されているのだけど、それで耐性がついているのだろうか?
――――――――――
「ふぅ」
部屋の外に出ると涼しい。
長く歌っていると熱気がこもるからな。
トイレに移動して用を足す。
その帰り道……
「むう……姉よ、これはどうすればいいのだ?」
「わかりません……部屋は、こちらで間違いないと思いますが、しかし、そこから先が……」
ふと、そんな声が聞こえてきた。
気になって視線をやると、部屋の扉が空いていた。
中には、ウチの中等部の制服を来た女の子が二人。
双子の姉妹だろうか?
見た目はそっくりだ。
マイクを手にしているものの、とても困った様子だ。
「どうかした?」
「えっ」
怪しいかも、とは思うものの、見過ごすのもどうかと思い、声をかけてみた。
「ああ、いや。怪しいものじゃないんだ……って、自分で言っても仕方ないか。そこは信じてもらうしかないんだけど、なんか困っているみたいだったから」
「「……」」
姉妹は顔を見合わせる。
ややあって、微笑みをこちらに向けてくれた。
「気にかけてくれて、ありがとうございます」
「確かに、我らは今、困っていたのだ」
「機材トラブルとか? なら、店員さんを呼んでこようか?」
「あ、いえ。そういうわけではなくて……」
「恥ずかしい話なのだが、どうやって選曲するかわからないのだ」
なるほど。
二人はカラオケ初心者みたいだ。
店の人はいちいち説明なんてしないから、最初の人は確かに迷うかもしれない。
「俺でよければ教えようか?」
「いいんですか?」
「簡単だから」
「なら、頼むのだ!」
「オッケー。基本、このタブレットを操作するんだけど……」
選曲の方法。
音量調整や早送りにスキップ。
採点方法などを教えた。
他にも色々な機能があるけど、最初はこれくらいで十分だろう。
「こんなところだけど、覚えた?」
「はい、ありがとうございます」
「バッチリなのだ!」
「よかった。じゃあ、俺はこれで……」
「待ってください。なにかお礼をしたいのですが……」
「よかったら、我らと一緒に歌わぬか?」
「え? でも、俺は……」
「くふふ。美少女姉妹と一緒にカラオケできるのだ、嬉しいだろう?」
「ルナ! そんな無茶を……あ、でも、実際に操作したわけではないので、もう少しだけ一緒にいてくれると嬉しいです」
「えっと……わかったよ。じゃあ、もう少しだけ」
ここまで関わったのだから、もう少しだけ手伝うことにした。
アクスとユウキは……まあ、大丈夫だろう。
たぶん、アクスのリサイタルが開催されていると思う。
なんだかんだ、アクスは歌がうまいからな。
「では、まずは我から歌うのだ!」
双子の妹のルナがタブレットを操作して、次にマイクを握る。
ほどなくして流れ始めたのは、5年くらい前に流行ったロックだ。
意外と驚く間もなく、ルナがマイクを手に熱唱する。
「~♪ ~♪ ~!!!」
うまい。
女の子だから自然とキーが高くなってしまうのだけど、しかし、それがいい。
うまく声を使い分けることで、自分流のアレンジを見事に成功させていた。
力強く、それでいて綺麗な歌声はとても心地良い。
「ふぅ……どうなのだ!?」
「うん、すごくよかったよ」
「ソラも、とてもいいと思いました」
「えへへ、そんな本当のことを言われると照れるのだ」
この子がそう言うと嫌味に聞こえないから不思議だ。
「では、次はソラですね」
双子の姉のソラがマイクを握る。
彼女の選曲は、最近リリースされたラブソングだ。
アイドルが歌っているもので、人気が高い。
ドラマの主題歌にも使われているんだっけ?
ソラは子供のように瞳をキラキラさせて、すぅっと息を吸い込み……
「ぼぇえええええ~~~」
「「っ!?!?!?」」
瞬間、怪音波が流れた。
いや、これはそんなレベルじゃない。
超音波兵器?
音という名の暴力が耳から入り込んできて、体の中をズタズタにしてしまうかのようだ。
腹に響く。
「な、なんだこれは……!?」
「ま、まさか、我が姉は歌も壊滅的だとは……あああ、頭が割れるぅ!?」
「ぼえええええぇ~~~」
こちらの様子に気づいておらず、ソラはごきげんに歌う。
歌うというか……破壊?
「ちょっと、なによこれ!?」
外にまで漏れているらしく、慌てた様子で店員がやってきた。
「いったい、どうやって歌えばこんな……はぅ」
「店員さん!?」
気絶してしまった!?
「我は……もう、ダメなのだ……」
「ルナ!?」
ルナまで倒れてしまう。
まずい。
二人を連れて、急いで避難しないと。
「くっ、でも……これは……」
だ、ダメだ。
あまりにも破壊力が凄まじい……
この破壊音波に抗うことは不可能だ。
「ぼぇええええええええええぇぇぇ~~~!!!!!」
俺はそのまま意識を手放した。
――――――――――
その日。
駅前のカラオケ店でテロが起きたとか警察が動いたとか、そんな噂が流れるのだった。