105話 私立ビーストテイマー学園・その2
「ねえねえ、前はどこに住んでいたの?」
「その耳可愛いね。触ってもいい?」
「部活に興味はない? 色々教えてあげるよ」
「にゃ、にゃー……」
休み時間。
転校生の宿命で、さっそく質問攻めに遭っていた。
その様子を友達と眺める。
「さすがに人気だなー」
そう言うアクスは机に頬杖をついて、ちょっとおもしろくなさそうだ。
「まだふてくされているの?」
そう尋ねたのは、もう一人の親友のユウキだ。
穏やかな性格で動物が好き。
今年に入ってから知り合ったのだけど、とても気が合い、今では親友と呼べる間柄に。
「いきなり吹き飛ばされたんだぜ?」
「まあまあ、それについては彼女も謝っていたじゃないか」
「くそ……せめて、吹き飛ばされる瞬間、色々と柔らかい感触を堪能したかった!」
「そういうところがアクスはダメだよね」
「うん?」
まったく理解していないみたいだ。
悪いやつではないのだけど、困ったやつではある。
「それよりも……」
質問攻めに遭い転校生はとても困っている様子だった。
みんな、好奇心が強いだけなんだけど……
さすがに行き過ぎかな?
席を立ち、転校生のところへ向かう。
「みんな、その辺にしておこう」
「レイン君?」
「一度にあれこれ質問しても困らせるだけだろ? 気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着こう」
「「「あー……」」」
クラスの女子達は転校生の顔を見て、ようやく我に返った様子だ。
「ごめんね。私達、ちょっとはしゃぎすぎていたかも……」
「あー……自己嫌悪。やっちゃったぁ……」
「あ、ううん! そんなに気にしないで? ちょっと驚いたけど、話しかけてくれて嬉しかったよ?」
「「「……」」」
クラスの女子は、一瞬、言葉を止めて……
「「「なんていい子!!!」」」
「にゃん!?」
がばっと、みんなで転校生に抱きついた。
止めようと思ったのだけど、火に油を注いでしまったみたいだ。
でも……
「あはは」
転校生が楽しそうにしているから、それはそれでよしとするか。
――――――――――
昼休みだ。
普段はアクスとユウキと一緒に学食に行っているけど、今日は、二人共用事があるらしい。
アクスは委員長のセルを誘う。
ユウキは生徒会の仕事があるらしい。
「仕方ない。一人で行くか」
教室を出て学食へ向かう。
その途中、転校生を見かけた。
「にゃー……」
困った様子できょろきょろ。
「どうしたんだ?」
「あ! えっと……」
「あ、ごめん。俺は、レインっていうんだ。レイン・シュラウド」
「うん。私は、カナデだよ。よろしくね♪」
「よろしく」
簡単な自己紹介をして、話を先に進める。
「それで、カナデはこんなところでどうしたんだ?」
「学食に行きたいんだけど、道がわからなくて……」
「なら、案内しようか? 俺も学食に行くところだから」
「ほんと? ありがとー!」
俺が先導する形で廊下を歩く。
その度にカナデの尻尾がひょこひょこ揺れていた。
「カナデはクラスの女子と一緒じゃないのか?」
「みんな、お弁当なんだ。だから、私は学食でパンでも買おうかな、って思っていたんだけど……」
「迷った、と?」
「うにゃー……」
「みんなも案内してあげればいいのに。ちょっと抜けているな」
「あはは。でも、良い人ばかりだね」
「そこは保証するよ」
男子も含めて、クラスメイトは『笑顔が一番、楽しいことも一番』を信条に掲げている。
気の良い連中ばかりで、楽しいクラスであることは間違いない。
「でも、レインも良い人だよね」
「俺?」
「私が困っていた時、助けてくれたもん」
「あれ、助けたなんて大げさなものじゃないんだけど……」
「ううん。私はとても嬉しかったよ♪」
カナデはにっこりと笑う。
その笑顔は太陽のようで、ちょっと見惚れてしまう。
「ありがとう、レイン♪」
「えっと……うん。どういたしまして」
「それで……よかったら、私と友達になってくれないかな?」
「俺でいいのか?」
「うん、レインがいいんだよ!」
「じゃあ……よろしく」
「よろしくね♪」
俺とカナデは互いに笑い、握手を交わすのだった。