104話 私立ビーストテイマー学園・その1
「うにゃー!? 遅刻遅刻ー!!!」
こんにちは!
私、カナデ。
今年の四月から、私立ビーストテイマー学園に転校することになった、高校生の女の子だよ。
元気が取り柄!
あと、明るい笑顔も得意!
え?
猫耳と尻尾?
私は猫霊族なんだから、猫耳と尻尾があるのは当然じゃない。
女子高生にそんなものはない?
やだなー、あるに決まっているよ。
おかしなことを言うね。
って、それよりも大変!
寝坊して遅刻しちゃう!
私は食パンを咥えてダッシュ。
そうしたら、曲がり角で人影が見えて……
ゴガァッ!!!
「ぎゃあああああっ!?」
あっ、しまった!?
ぶつかった人を吹き飛ばしちゃった!?
私、猫霊族だから力はあるんだよね……
てへ、失敗失敗♪
「気を取り直して、急ごう!」
私は学園に急いで……
どんっ。
「ひゃ!?」
再び曲がり角で誰かにぶつかってしまう。
でも、今度は相手を吹き飛ばすことはなかった。
代わりに私が尻もちをついてしまう。
「あいたたた……」
「ごめん、大丈夫か?」
「あ、うん。だい……じょう、ぶ?」
手を差し出してくれたのは、たぶん、学園の男子生徒だ。
なんだろう、これ?
初めて会うはずなのに、なんだか、こう……
妙に心惹かれてしまう。
視線を外すことができない。
「……」
「どうしたんだ? もしかして、どこか怪我を?」
「にゃ!? な、なんでもないよ!?」
「そうか?」
「わ、私……もう行くね!」
「あっ、ちょっと!?」
「にゃー!」
なんだか、どうしようもなく恥ずかしくなって、私は学園に急いだ。
――――――――――
クラスメイトと挨拶を交わしつつ、自分の席に移動した。
鞄を横にかけて椅子に座る。
「うーん……今朝の女の子、気になるな」
猫霊族の女の子なんて、うちの学園にいなかったはず。
でも、あの子はうちの制服を着ていた。
もしかして転校生だろうか?
だから、こんなにも気になるんだろうか?
「うぃーす……」
しばらくして、アクスが登校してきた。
クラスメイトで親友の一人だ。
「おはよう……って、なんだ、それ? ボロボロじゃないか」
「それがよぉ、聞いてくれよ、レイン。可愛い女の子と出会えそうになったんだけど、でも、気がついたら俺は吹き飛ばされて空を飛んでいたんだ」
「まだ寝ぼけているのか?」
「ちげーよっ、実際にあったことだよ!」
アクスのことが心配になる。
きっと、夢に見たことを今も引きずっているんだろうな。
いいヤツなんだけど、女の子好きなのがマイナスポイントだ。
この言動がなければモテると思うのに。
それから雑談をしていると、チャイムが鳴る。
ほぼ同時に、担任のティナ先生が教室に入ってきた。
「ほーい、みんなおるかー? おらん子は手挙げてなー。って、おらんから手挙げられないやん!」
一人でボケて一人でツッコミを入れていた。
とても元気な先生だ。
ただ、その関西弁はちょっと怪しい。
ニセ関西人なのではないかと、密かに噂されている。
「今日はみんなに嬉しい知らせや。なんと、ウチのクラスに転校生や!」
「「「おぉ」」」
「しかも、女の子! 美少女や!」
「「「おおおおおぉ!!!」」」
さきほどよりも声が大きくなる。
主に男子。
そして、クラス委員のセルが一際うるさいアクスに冷たい視線を注ぐ。
「ほな、入っておいでー」
扉を開けて入ってきたのは、女の子。
猫耳がぴょこん。
尻尾がふりふり。
軽やかなステップを踏みつつ、壇上に登りにっこりと笑う。
「はじめまして、カナデだよ。よろしくね♪」
「あ」
「あああああぁっ!!!?」
俺は小さな驚きの声。
対するアクスは、大きな驚きの声をあげた。
あの子は……
今朝、ぶつかった女の子だ。
「お前は、俺を吹き飛ばした怪力女!?」
「あの時の男の子!?」
アクスは転校生を見て。
転校生は俺を見て。
「って、俺を無視するなぁあああああっ!!!?」
アクスの悲痛な叫びが響いたとかなんとか。