103話 ソラ先生の料理教室
「こんにちは、ソラです」
精霊族の少女、ソラはぺこりと頭を下げた。
彼女が今いる場所は家ではない。
家の裏手にある、自然豊かな草原だ。
石で囲まれた場所で焚き火をしてて、その周囲にアウトドアグッズが並んでいた。
「暑くなってきましたね。夏といえば、キャンプ。アウトドアライフ。というわけで、今日はキャンプ飯を紹介したいと思います」
テーブルの上に並んでいる食材とアウトドアグッズ。
その中から、ソラはホットサンドメーカーを手に取った。
「今日は、ホットサンドですね。お手軽にできて、なおかつ美味しい。誰でも簡単に作れるのでオススメです。キャンプだけではなくて、日常で使ってもグッジョブですよ」
ぱかっとホットサンドメーカーを開く。
「まずは、バターか油を塗りましょう。大抵のものはくっつきにくい加工がされているため、なにもなくても問題ありません。ただ、油などがあるとパリッと仕上がりますからね。バターだと風味がつきます。ソラはバターを使いますね」
ソラはバターをホットサンドメーカーの両面に塗る。
その上に適当なサイズに切られた食パンを置いた。
「今日はホットサンドなので、奇をてらうことなく食パンを使います。料理で妙なアレンジはダメですよ? 普通の食材を使いましょう」
どの口で言う。
そんなブーイングが聞こえてきそうな台詞ではあったが、ソラは気にしない。
「食パンはわりと厚めでも問題ありません。最終的に、ぎゅっと圧縮してしまいますからね。ただ、ふわふわ食感を重視したいのなら、薄めにするのも一つの手です。ソラは厚い方が好きなので、厚めにカットした食パンを使います」
続けてソラはハムとチーズを取り出した。
それらを交互に重ねてパンの上に乗せていく。
「ホットサンドといえば、やはりチーズは欠かせませんね。とろりととろけるのがたまらないです。チーズとハムは鉄板コンビですが、別にハムでなくても構いません。チーズは大抵の食材と相性がいいので、自分だけの組み合わせを探すのも楽しいですよ」
チーズとハムは多めだ。
多少量を増やしても、最後に鉄板でぎゅっと挟むため問題ない。
外はカリッと焼けて。
中は具があふれ、とろとろのふわふわに仕上がる。
想像するだけで美味しい。
「……はっ!?」
よだれを垂らしそうになっていたソラは我に返った。
「こ、こほん。これで、あとは蓋を閉じて焼くだけです。焼き加減は好みによりますが、大体、五分ほどで大丈夫です。こんがりしたい場合は、さらにもう少し、という感じですね」
ソラはホットサンドメーカーを持ち、焚き火の上に……
「……具がこれだけというのは、ちょっと寂しいですね」
もう一度、ぱかっと開いた。
「ふむ……そういえば野菜が足りませんね。野菜は大事です」
そうつぶやいて、ソラはじゃがいもの千切りと、細かく刻んだ玉ねぎを加えた。
さらに、少量のホワイトソース。
具材だけを見るならグラタンに近い。
「それと、もう少しお肉を……ひき肉でいいですね」
下味をつけたひき肉を散りばめて。
ついでにペンネも加える。
完全にグラタンだ。
「ですが、それがいいんです」
グラタンをサンド。
そして、ホットサンドメーカーでカリカリに焼き上げる。
たまらなく美味しいだろう。
ここに小悪魔的少女がいたら、きっとよだれを垂らしていたに違いない。
「まだ、なにか物足りない気もしますが……」
やめるのだ!
それ以上はアウトなのだ!?
今がベストだということを理解してください!!!
そんな声がどこからともなく聞こえてくる気がした。
「まあ、たまにはシンプルにいきましょう。では、これで焼いていきます」
ホットサンドメーカーを閉じて、焚き火の上に。
あとは五分ほど、こんがり焼き上げるだけ。
居眠りをしたとか。
ホットサンドメーカーのことを忘れて読書に耽るとか。
そんな凡ミスをすれば大惨事になるかもしれないが、ソラはそこまでドジっ子ではない。
しっかりと火力の調整をしつつ、ホットサンドが出来上がるのを待つ。
ほどなくして良い匂いが漂い始めた。
食欲をそそる匂いだ。
ソラは自然と笑顔になって……
ボォンッ!
「えっ!?」
突然、ホットサンドメーカーが爆発した。
そして、中からおどろおどろしい姿をした魔物が現れる。
「キシャアアアアアッ!!!」
「ど、どうして魔物が……くっ、ドラグーンハウリング!」
動揺しつつも、ソラは攻撃魔法を唱えた。
竜の咆哮を形作る衝撃波が魔物を飲み込み、蹴散らした。
「ふぅ……驚きました」
どうにか撃退したものの、ホットサンドメーカーはめちゃくちゃになってしまっていた。
これではもう作り直すことはできない。
「いったい、どうして魔物が……?」
ソラは知らない、気づかない。
彼女の手によって調理された食材が、なにかしらの超常的な力が働いて、悪魔合体ような事態を引き起こして魔物を生み出していたことを。
超常的な力というのは……
ソラの料理スキルだ。
そう。
彼女の料理スキルは、時に魔物さえ生み出す。
料理ではなくて災害を作り上げるのだ!
「謎ですね……」
その事実をまったく自覚していないソラは、心底不思議そうに小首を傾げるのだった。
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「まさか、メシマズスキルだけではなくて、魔物飯合体を身に着けているなんて……我が姉はどこまで突き進むのだ? お、恐ろしい……!」




