99話 小さくなっちゃった・その3
「「「うあああああぁーーーん!!!」」」
「お、落ち着いてくれ。みんな、なにも怖いことはないから……」
「「「うあああああぁーーーーーん!!!!!」」」
だ、ダメだ。
泣き止んでもらおうとしても、どうすればいいかまったくわからない。
みんなの泣き声が重なり、次第に耳が痛くなってきた。
これはまさか……
高周波を生み出しているのか?
最強種だから泣き声もとんでもない?
カタカタと周囲の食器や小物が震え始めた。
ピシッとヒビが入るものもある。
「ま、まずい。このままだと、最終的には家が……」
こんな状態で家が崩落したら大惨事だ。
いざとなれば、無理矢理にでもみんなを外に避難させて……
「あらあら? なにやら、とんでもない状況になっていますね」
「スズさん!?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはスズさんの姿が。
というか、いつの間に?
「えっと、これはその……!?」
「細かい事情は後ですね。任せてください」
スズさんはにっこり笑うと、まずはカナデとタニアのところへ。
膝をついて目線を合わせる。
それからにっこりと笑い、二人を抱きしめた。
「よーしよし。ほら、大丈夫ですよ」
「にゃー……」
「うぅ……」
「はーい、いい子ですね。よしよし」
「……にゃん」
「……あい」
あれほど大泣きしていたカナデとタニアが瞬く間に泣き止んでしまう。
す、すごすぎる……
いったいどんな魔法を使ったんだ?
その調子で、スズさんは他のみんなも泣き止ませた。
それからみんなを寝室に連れていき、寝かせてしまう。
「ふぅ……みんな、寝かせてきましたよ」
「あ、ありがとうございました……すごいですね。魔法を使っているように見えました」
「ふふ、なにもしていませんよ。これでも、子育て経験はありますからね」
その若すぎる容姿から忘れがちだけど、スズさんはカナデの母親だ。
当然、子育てを経験しているわけで……
母は強し。
なんて言葉が思い浮かぶ。
「ありがとうございます。どうしていいかわからなくて……俺一人だったら、今頃、大変なことになっていたと思います」
「仕方ないですよ。子育ては大変ですからね。普通は少しずつ慣れていくものですが、いきなりとなると、うまくいく人はまずいないかと。ところで……どうしてこんなことに?」
「それが……」
とある壺をもらいうけた。
しかし、妙な魔法が込められていたらしく、その影響でみんなが小さく。
幸い、数日で元に戻るだろうとのこと。
そんなことを説明した。
「なるほど……数日はこのままなんですね」
「はい。本当、なんでこんなことになったのか……」
「起きてしまったことは仕方ありません。これからのことを考えましょう。それに……」
「それに?」
「小さなカナデちゃんも、それはそれで可愛いですからね♪」
勘弁してください。
可愛い、っていうところは否定しないけど……
他の面で負担が大きすぎる。
これがずっと続いたら、俺は精神的に倒れてしまうだろう。
「ところで、スズさんはどうしてウチに?」
「たまたま近くに寄ったので、顔を出しておこうと。はい、これお土産です」
「あ、どうも」
「では、私はこれで」
「はい……って、帰ってしまうんですか!?」
「この後、ちょっとした用事がありまして……」
「そんな……」
たぶん、俺は今、相当に絶望的な表情をしていると思う。
だからスズさんが困った顔になる。
「うーん……大事な用事なのでズラすことはできませんが、まあ、ちょっと遅れるくらいなら」
「スズさん……?」
「いいですか、レインさん。出発を少し遅らせますから、その間にできる限りの子育てのコツを教えます。それでなんとかしのいでください」
「そ、そう言われても……できるんでしょうか?」
「やらないとダメですよ。それに、いつかはレインさんも親になるんですから。その予行演習と思えばいいじゃないですか」
「そう言われても……」
「実際に子供が生まれた時も同じような態度を?」
「っ!?」
その言葉は胸に刺さる。
そっか、そうだよな。
スズさんが言うように、起きてしまったものは仕方ない。
それに、いつか親になるのだから、いつまでも情けない姿を晒すわけにもいかない。
がんばらないと。
「色々と教えてください!」
「ふふ、いい顔になりましたね」
スズさんはにっこりと笑うのだった。
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