本で迷う清彦☆
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・図書館に着いた。いつも人通りのない広い公園の敷地内は静かな春の雨に濡れて休日が雨になったことは残念だったが心地よい休日の朝の暖かな空気はいつも通り明るく柔らかだった。
図書館内に入ると少人数ではあったが先客がいて各々にばらけて棚で立ち止まったりパソコンの前で図書カードを通したりしていた。清彦は理数系の本の逆側に棚のある日本史のコーナーに行った。
以前、足利義満や明治維新の学術書を読んで一通り読んだが意味や全体像が殆どつかめなかった清彦はもっと分かり易い説明をした本を手に取るようになっていた。ある特定の著者の本ばかり読むことで清彦は日本史の全体像について多少なりに詳しくなっていった。アスリートは〈トレーナー=師匠〉をつけてトレーニングするが読書についてもそれは一致していて好きな著者の目で世界を捉ることで読者はある哲学者が言ったように〈巨人=学説の背に乗る〉ようなまるで筋トレや練習試合のような自分を鍛える行為に〈読書もなり得る★〉ことを学んだ。
色々な著者の本をつまみ食い=読み?していた時は気付かなかったがF1のスリップストリームのように読書は〈相対性理論のような高速移動=高速応用力☆〉を発揮する素晴らしい力を持っているのだった。運動の好きな人が単純に体を鍛えることを辞められないように読書が好きな人もまた読書が辞められないが故にいくらでも能力=学力の伸びしろを上げることが出来る★!
そういった点で清彦は〈時間を忘却する為に読書する小説の読み専の人〉とは自分は違うことも分かってきた。今日は色々なタイトル=背表紙を眺めてみた。縄文時代の生活について詳しく書かれた本や、くずし文字の専門書など、戦争関連の本や昭和のオリンピックのカラー写真集など日本史一つで何千冊ものいくらでもほぼ無限のバリエーションで作者の目を通して本が作られることは考えてみると不思議で新鮮なことだった。
人間の考える色眼鏡で世界が=本が形づけられていく。過ぎ去った時間はファンタジーとなって歴史小説やタイムトラベルもののSFになり時代の空気と共に事実はそのままに内容の色を変えていく……。考えてみれば人間とは面白いものだ。
思った以上にどんな本を選ぶか戸惑った清彦は理数系の本棚へ向きを変えヨーロッパの歴史の文庫本を借りることにした。今日はちょっともったいない時間の使い方をしたな……と少しだけ後悔して端末が揺れたので夏美のいるテーブル席に呼びに行った。
夏美は真剣に読書をしていた。楽しかった、と訊くと明るい顔で「うん、楽しかった☆」と夏美は答えた。ベンチに座り感想会をした。清彦は何も言えなかったが夏美は「何かアメリカの人も大変な歴史があって苦労したんだなって分かった。何か半年もしないうちに大統領が交代したこともあったみたい」と言って一人感心したような、むむぅ……と唸るような目と顔をした。
清彦は(夏美、子供っぽいな)と思って内心ほくそ笑んだ。学習するにはやはり〈純真さ〉ってどうしても必要になってくる要素なのかな?などとその時は思わなかったが帰ってから今日のことを思い出し清彦は一人自室の中で内省したのだった。
この日清彦は家電の店で買った場合によっては多く取れる飴のたくさん入ったゲーム機で取った飴を夏美に渡した。どちらもコーラ味だった。春の小雨の降る中で二人はニコニコして飴をなめた。
今日も充実した時間を過ごしたな……と清彦は夏美と同じように春の明るい午前中を嬉しく思っていた。歩いて駅まで帰り12時のバスで停車駅まで戻った。車掌に礼を言った後清彦は夏美に元気に手を振った。夏美も明るい顔で手を振ってくれた。
(雨の日も良いものだな)と思い清彦はのんびりと帰宅の途についたのだった。
……(続く)