春の柔らかな日──クッキーと読書会☆
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・土曜日。清彦と夏美は今日も市立図書館に本を読みに来ていた。
柔らかく明るい日差しの中15分ほどペダルをこぎのんびりと9時頃に家を出た。
公園内の桜はまだ開花していなかったが人気のない市立公園の広い公園は明るく澄んだ空気に包まれて、
明るい朝の時間を清彦は心地良く穏やかな気持ちで満喫した。
入り口で手の消毒をして館内に入ると夏美はもうテーブル席で読書をしていた。
挨拶して小声で「何読んでるの?」と訊くと本を持つ手の向きを傾けて本のタイトルを見せてくれた。
タイトルを見ると世界の国家の状況について書かれた本のようだった。
どうやら夏美は地理の勉強をする為に自分より先に図書館に来て読書を始めたらしい。
(よっぽど社会科の点数を上げたいらしいな)と思い清彦は児童書の多くある入り口を進んで、
右側にある理数系の本の多い一角を静かに歩いて行った。
理科系の本はまだ手をつけていなかったが六年生で習う植物の本や地学などの専門知識を、
丸々一冊に収めた専門書のタイトルなどをぼんやり眺めていると世の中には普通の人が、
関心をスルーするテーマについて深く学習したいという探究心の強い変わった人がいるんだな……と思った。
何かタイトルのみを確認したところに寄ると宮沢賢治が小説や詩を書き溜めていた頃には地学の研究が、
盛んだったようだ。
この日清彦は公民系の本を手に取った。
学生向けの法律について分かりやすく語られるであろう300頁くらいで終わる文庫本を手に取った。
特に強い関心があるわけではないが関心がないからと言ってそれは読書をしない言い訳には、
全くならないことを本を読んでいく内に体得できるようになった。
今日の一時間の読書体験で清彦は関心の持ちようのない何の面白みもないような勉強にも、
○○条○項など基本的な人間に与えられた権利について語られた法律の内容などを読むと国会などの、
一見無味乾燥に見える報道番組にも少しは関心が持て社会を変える草の根運動にも、
微力ながら自分も参加できるのかも知れないな……などとぼんやりと、
そんなことを考え感じて一時間の読書を終えた。
最低限の生活の保障を謳った法律は25条だった。
ナイロンのハンドバッグに今日借りた一冊の本を入れベンチに座り勉強会の感想を夏美と語り合った。
今日は家から持ってきた石油製品で包装された小綺麗なクッキーを持ってきた。
夏美に一つ渡すと彼女は柔らかく笑い「アリガト(笑)」と言って包装紙を指で切って早速食べた。
柔らかく明るく充実した表情で気持ち良くため息をつくと、
「今日の地理の本はそれぞれの国家の事情とか問題点とか今後改善すべきポイントとか、
書かれていて数冊問題集で勉強しないといい点が取れないって言う一見絶望的な地理も勉強も、
しようによっては割に集中して問題集を解くモチベを維持できるんだなって思った☆
公民の本面白かった?」
清彦は片手でクッキーを持ち一口かじりながら、
「うーん……難しいジャンルではあるけど学生向けの本だから内容が平易で分かり易いし、
何か気付いたんだけど読書って目で流し込むだけみたいだね♪」
心地よく明るい春の日──二人は明るく心地よく甘くてサクッとしたクッキーを少しずつゆっくりかじった。
優しい沈黙した時間が広がった。
夏美の表情は明るく柔らかく、清彦は来て良かったなと思った。
普通に考えたら手の打ちようのない5科目の成績もこんな風にゆっくり丁寧に読書するなら、
改善していくことは出来そうだな……と明るく心地いい気持ちを、
春の日差しをいっぱいに浴びて優しく感じていた。
12時前に興もわかれて別々に駐輪場に行き帰宅した。帰宅後も春の明るい時間が流れた。
本を読むのって楽しいな──☆
……(続く)