春の図書館☆本を読む清彦と夏美♪
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・清和清彦は、幼なじみの九条夏美と市立図書館に来ていた。二人は学校の勉強をしやすくする為に日本史や英語などの学生向けの学術書などを借りて一時間ほど一緒に別々の本を読書し、後日学校で読書の感想を話し合っていた。
最近二人は日本史にハマっていて日本人の特徴について少しずつ詳しくなっていた。日本には死者を大事にする文化があって権力闘争で敗れた国はその子孫が大々亡くなった王族の為その土地を祀って怨霊が出ないようにしたり何でも権力を持った人同士の話し合いで物事が進んだりする……など本を読み進める内にお金や権力などの間違った思い込みがなくなっていった。
同時に社会系の勉強は関心を持つきっかけになる本で知識を仕入れればただの暗記科目ではなく割に後から何度でも社会科の知識について関連書籍でつっつける面白い読み物=社会科の知識の補強と再学習の可能性=卒業後もいくらでも勉強できる☆と言うことに気づき始めていた。
二人は普段テレビを見ることも少なくなりゲームの中毒性に気付き少しずつメディアから距離を取り始めていた。図書館で適当に今日借りる本を見繕い、二人はテーブル席で心を落ち着けて読書していた。別に大学とか行けなくても資格取っといた方が就職口のバリエーション広いし資格取得が必要な会社に就職する場合もあるし……正しい知識をつけ方を勉強するのはいきなり資格の本で勉強するよりよっぽど分かりやすく学習する機会を得る手助けになると思う♪
清彦は今日は平家物語の本を読んでいた。義経の何も考えない勢いのみの戦略は考えようによっては日本人らしい方法での勝利と言えなくもないな……と読み進めながら考えていた。
ふと横で読書する夏美の方を見るとこの日夏美は短歌の書き方の本を読んでいるようだった。顔を横に下げて書籍のタイトルを確認した。短歌は学生にも人気があるジャンルなので清彦はちょっと面白そうな本だな、と思った。こんな風に純粋な興味関心から勉強できたら何かゲームの攻略本で攻略ルートとボスやモンスターの特徴を知る行為に勉強もrealも近いのかなと思った。
詰め将棋の本や将棋の入門書を読んで戦法や戦略に詳しくなる行為だと現実の勉強を思えれば割に苦しんで反復学習しなくても数冊の読書体験で70点以上の成績は伸ばせるのかも知れない。しばらくそんなことを考えながら涼しげな目で黙々と読書を続ける夏美を見る。
夏美は目立つタイプではないが細いフレームの眼鏡をかけてのんびりと穏やかに会話する女の子だった。どことなく知的な印象を受ける夏美を見ていると今日市立図書館に来て正解だったなと思った。
二人ともそんなに頭のいい人間ではないけどこういう風に本への抵抗感を下げてじっくりと読書できる勉強仲間のいる現実は感謝すべきことだな、と思った。周りには親子連れの低学年の子供や年輩の叔母さん層などじっくりと本を選んでいた。
平和な光景だなと清彦は感じ以前は匂いが気になった館内に静かな居心地の良さを感じていた。お金を払って問題集を購入するより遠回りだけど地道な経験値を稼ぐこの方法は0円でも将来のお給金に直結するので多分自分は長い人生の中で図書館をずっと利用するんだろうなと思った。
静かな安定した静寂の広がる時間を館内で過ごした。ちょうど清彦の腕につけた端末に微かな振動が起こり一時間時間が過ぎたことを知った。
夏美の肩をつつき小声で「時間だよ」と言った。夏美は振り向いて、一瞬顔を緩ませると、腕を組んで大きく背伸びをして小さく「んー……」と唸った。そして小声で「まだ読んでないけど意外と充実するね。短歌の世界もいろいろあって楽しかった(笑)」と言って目を細めて笑った。
図書館に夏美と二人で来た今日を純粋に活字と過ごした清彦は難しく考えなくても本を読んで知識を仕入れるだけでも充実する時間を過ごせるんだな……と感じ来て良かったなと思った。図書館を出たところにある公園のベンチに座り朝方コンビニで買ったミルクコーヒーのペットボトルを飲みながら春の明るい日差しを浴びて二人で一息つくといい時間を過ごしたなと感じた。
「短歌の本面白かった?」と夏美に訊くと「うん!瑞々しい感性の現代短歌の作家さんの名前と短歌に触れる機会が出来て新鮮だった☆」そう言うと夏美は明るく微笑んだ。「平家物語どうだった?」と今度は夏美が訊いてきた。「……色々勉強になった。何か今で言うアイドルみたいな職種の人の話もあったな。」夏美はへー……と言わなかったが少しだけ目を開き関心を寄せたような顔をし「昔の人も芸術が好きだったんだね」と言って柔らかく明るく満足したような笑みを作った。
清彦はミルクコーヒーを一口飲んでハー……と一息つくと「やりようによっては頭なんてなくても勉強は出来るみたいだな。帰宅してからもう一時間読書しようと思う。今日も楽しかった」明るく笑って、今日の勉強会はお開きとなった。
家は近くだが夏美も清彦もお年頃なので一緒には帰らず駐輪所から別々のルートで帰宅した。春の明るい日差しの中で自転車をこぐとそれだけで幸せで得した気持ちになった。住宅街の景色と緩やかな自転車の走る速度で出来る春の日差しと風の心地よさ……(いい成績が取れるようになるといいな)。
二人の過ごした春の時間は柔らかく明るく思春期の大切な一瞬を照らしていた。
……(続く)