9月15日 ひじきの日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。ひじきご飯が好き。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。ひじきを見るとアンノーンを思い出す。
店長の息子 小説家。突飛な内容の作品が多い。子供の頃は毎日ひじきを食べさせられた。
ここはとある郊外のコンビニ。
ウィーン、ピンポーン
「ありがとうございました、またお越しくださいませ」
「…今の人ひじきの炊き込みご飯のおにぎりを3つ買っていったじゃないっすか?」
「ん?ああ、好きなのかもな」
「ひじきってそんなに美味しいっすかね?」
「あー、あんまりひじき好きじゃないほう?」
「そうっすね。食べられないわけじゃないですし、出されたら食べるんすけど、好きではないっすね」
「好みは人それぞれだけどさ、それ絶対に店長の前で言うなよ」
「なんでっすか?店長が大のひじき好きとか?」
「まあ合ってるといえば合ってるな。3年前にこの店のメンツで飲み会をやったときに、好き嫌いの話になってな。ひじきが嫌いって言った人がいたんだよ」
「3年前っすか。ぼくはまだいなかった頃っすね。ぼくの知ってる人っすか?」
「いや、田中くんが入ってきたときにはもう辞めてたと思う。それでたまたま店長も飲み会に来てたんだけど、それを聞いた店長が『3日後に店に来て下さい。本物のひじき料理をお見せしますよ』って言い出してさ」
「美味しんぼじゃないっすか…」
「3日後にほんとにひじきフェアを開催したんだよ。そのときは売り場の3分の2が店長のおすすめコーナーだった」
「そんな大規模にやったんすか⁉︎準備が大変そう…」
「前日の夜中から駆り出されて準備したよ…それ以上に大変だったのが当日だ」
「当日?シフトじゃなかったら大変なことないんじゃないっすか?あっ、料理がまずかったとか?」
「逆だ。あまりに美味すぎたんだ。客が客を呼んで昼前にはとてつもない長さの行列ができてた」
「えぇ…ひじき料理っすよね…」
「それで手の空いてるやつは全員呼び出されてな。地獄のような忙しさだったわ…」
「それは恐ろしいっす…店長の前では口が裂けてもひじきが嫌いとは言わないようにします…」
「それがいい。でも好きって言っても同じことになりそうだからひじきの話題自体タブーになったな。ちなみにその頃からのバイトの中では、九・一五事件と呼ばれて、この店の三大事件のひとつとされてる」
「あと2つ事件があるんすか…あれ?九・一五って日付からっすか?ちょうど今日の日付っすね」
「そういやそうだ。てことは今日で丸3年か…ちなみに奇しくも今日はひじきの日でもある」
「そうなんすか⁉︎それはすごい偶然っすね…なんで今日はひじきの日なんすか?」
「ひじきを食べると長生きすると言われてるってことで、敬老の日と同じ日を記念日にしたそうだ。今は敬老の日は第3月曜日になってるけど」
「食べると長生きするってほんとっすかね?たしかに栄養は豊富っぽいっすけど…」
「どうだろうな。まあ体にはいいんじゃないかな」
「うーん…やっぱりどう考えても好きになれないんすよね…店長のひじき料理ってそんなに美味しかったんすか?」
「少し味見したけど、マジで美味かったぞ。あれは行列もできる」
「そこまで言われると気になりますね…でも、また大事件になるのもなぁ…」
「そうだな…そういや料理はさすがにないけど、店長の息子さんが特別に書き下ろした短編小説もそのとき売られたぞ。たしか…『ひじきが煮えるまでに』って題名だったと思う」
「料理だけじゃなく書籍までひじきだったんすね…どんな内容なんすか?」
「ラブロマンスだよ。二転三転する2人の関係とひじきの味付け、そしてラストのハッピーエンドと美味しい夕食に涙とよだれが止まらない感動作だったな。家にあるけど今度貸そうか?」
「…相変わらずぶっ飛んでますね…ぜひ貸してください!」