6月16日 無重力の日
ここはとある郊外のコンビニ。
「高橋さん」
「ん、どうした?」
「店長のおすすめコーナーに地球の歩き方がぎっしりおいてあるんすけど…」
「ああ、なんか旅行行きたいってしきりに言ってたらしい」
「えぇ…」
「しかも多分だけど自分が行きたいところは何冊も仕入れてるからな。ほら、台湾とか17冊あるぞ」
「私利私欲にまみれすぎじゃないっすか…」
「でも旅行かぁ。ひさしく行ってないな」
「あっ、じゃあ予算とか関係なくどこでも行けるとしたらどこに行きたいっすか?」
「うーん、そうだなぁ…カンボジアかな。アンコールワット見に行きたい」
「渋いっすね〜行くなら友達とっすか?それとも家族で?」
「いや、一人かな。今までも基本一人旅だし」
「あっ、そういえば高橋さん、友達いなかったっすね…いいっすよ!今度旅行するときはぼくが一緒に行ってあげますよ!高橋さんの奢りで!」
「なんでだよ!俺、旅行先で気になったところは一日中観たりするから一人の方が気楽なんだよ」
「はいはい、そういうことにしてあげるっすよ」
「うぜぇ…そういうお前はどこに行きたいんだよ」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。ぼくは一般的な発想なんかにはとらわれないっすよ!」
「ほう」
「ぼくが行きたいのはズバリ、宇宙旅行っす!」
「おー、なるほど。たしかに金に糸目をつけなければ夢物語じゃない時代になってきたもんな。言われてみればその選択肢があったか」
「そうでしょう、そうでしょう!重力に魂を縛られている人々とは違うんですよ!」
「急に赤い彗星みたいなこと言い出したぞ…そういえば今日は無重力の日だな」
「へー、そんな記念日があるんすね。宇宙遊泳に初めて成功した日とかっすか?」
「いや、語呂合わせ。『六 十 六』で『む じゅう ろく』」
「なんか無理矢理感があるような…」
「そうか?でもこの自由な発想はなんとなく無重力とか宇宙っぽい気がするが」
「はっ、そうでした!一般的な感性に囚われてはならなかったっす!たしかにこの力が抜ける感じは無重力っぽいっす!無重力ってことは制定したのはJAXAとかでしょ?」
「いや、北海道の上砂川町」
「な、なんかめっちゃローカル感が…なんでそんなところが…」
「町の中に地下無重力実験センターがあったらしい」
「おお!めっちゃすごいじゃないっすか!うんうん、ぼくは信じてましたよ、上砂川町を」
「施設自体は2003年に閉鎖されてるけどな」
「…やられはせん、やられはせんぞ」
「何と戦ってるんだ、お前は」