3月4日 ミシンの日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。ミシンは糸のセットがうまくできない。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。コンピューターミシンが好き。
ここはとある郊外のコンビニ。
「あの…今日の店長のおすすめコーナーなんすけど…」
「ん?ああ、店長の春物コレクションか。おしゃれな服が多いよな」
「いやたしかに出来はいいんすけど…おかしくないっすか?」
「そうだな。春物コレクションにしては少し遅すぎるかな。ああいうのって1月ごろにはもう発表されるイメージがあるわ」
「いえそこじゃなくてですね…なんでコンビニでコレクションが開催されるんすか…?」
「まあ今更だろ。おっ、これ可愛いな。田中くんに似合うんじゃない?」
「そ、そうっすかね?あ、たしかにいいっすね!これって買いたいときはどうしたらいいんすかね?」
「えーと、受注生産みたいだな。デザインとサイズを選んで注文するみたい。サイズに関してはサイズ合わせ用の試着服があるからそれで試せるそうだ」
「試着って…どこで?」
「外にプレハブの試着室があるそうだが…あれ昨日までなかったよな…?」
「コレクションのために1日で建てたんすかね…?もう何に驚けばいいかわからなくなってきたっす…」
「びっくりだな…まあコンビニでバイトしてればそんなこともあるだろ」
「絶対にないと思いますけど…」
「でもどの服もよくできてるよなぁ」
「それはたしかにそうっすね。これってデザインから制作まで全部店長がやってるんすか?」
「デザインは奥さんが主にやってるって聞いたな。店長が型紙をおこして、そこからは2人で作ってるらしい」
「はー、ほんとに多才っすねぇ。今度洋裁の仕方を聞いてみようかな」
「田中くんは裁縫とかするの?」
「人並みにはできますよ。洋服作ったりはしたことないっすけど」
「すごいなぁ。俺はミシンの使い方すらあやしいわ」
「慣れれば意外と簡単っすよ。…あれ?高橋さんの家ってミシンありませんでした?」
「ああ。一人暮らし始めるときに、店長から『ミシンは絶対にいるぞ!』って言われて、店長のお古を譲ってもらったんだよ」
「う、うーん、ミシンってそんなにいりますかね…?ま、まあただでくれたのであればありがたいっすね!」
「…格安で」
「金取られたんすか…」
「しかしせっかくだし少し使い方を勉強するか。今日はちょうどミシンの日だしな」
「ミシンの日っすか」
「うん。日本家庭用ミシン工業会ってとこが1990年にミシン発明200年を記念して作った記念日だ。日付は『34ン』の語呂合わせから」
「へー、そんな前に作られたものなんすね。どこで作られたんすか?」
「イギリスだったかな。あっちでの名前は『sewing machine』だ」
「あ、聞いたことありますよ。『マシーン』ていわれたのを『ミシン』って聞き間違えて、そのまま日本での名前になったんすよね!」
「そうそう。カンガルーと同じような名付けられ方だな。さて、ミシンの使い方だが…どうやって勉強するかな?」
「実際動かしてみるのが1番じゃないっすか?誰かに習いながら」
「そうだな。田中くん、よかったら教えてもらえないか?」
「ぼくでよければ。…でも正直ぼくもあやしいとこあるんで、もっと上手い人の方がいいかもしれないっす」
「ふむ。店長に教わるのはちょっと癪だからな…そうだ。うちの母親に教えてもらおうかな。パッチワークも趣味だったはず」
「いいじゃないっすか!親子の時間もできて、お母さんもきっと喜びますよ!」
「だといいけど。…あ、そうだ。それとは別にさ、田中くん、今度うちの親に会ってくれないか?」
「ええっ⁉︎そ、それはご両親への挨拶的なやつっすか⁉︎そ、そそそれはまだ早いような…///」
「いやそんな大層なものではないんだが…この前親に彼女ができたって話したらさ、幻覚を見始めたんじゃないかってマジで心配されてさ…カウンセリングの予約とか取られてるから、実在の人物だって説明したくて…」
「…家族からどんなイメージを持たれてるんすか…」