12月3日 奇術の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。好きなマジシャンはナポレオンズ。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。好きなマジシャンはマギー審司。
武たち 高橋の家に住み着く幽霊一家。3人+きゅうりの馬。
ここはとある郊外のコンビニのバックヤード。
「お疲れ様です。って、あれ?田中くん。今日はやけに早いね」
「ふふふ、待っていましたよ!」
「まだ夜勤開始まで30分以上あるぞ。どうした?…って俺がいうのもなんだけどさ」
「昨日言った通り家に誰も居ないんすよ。話し相手を求めてこんな早くにきたってわけです。さあ、ぼくと思う存分語りましょう!」
「そうか…なんか今日、声がおかしくないか?」
「何をおっしゃる⁉︎この町内会ベスト8の美声といわれたぼくをつかまえて⁉︎」
「なんだその微妙な順位は…もしかして風邪ひいたんじゃないだろうな?」
「そんなわけないじゃないですかー 絶好調っすよ、絶好調」
「…ほんとに大丈夫か?」
「もちろんっすよ!ほらほら、そんなことより今日の記念日うんちくを教えてくださいよ!」
「まぁ…いいけど…えーと、今日は奇術の日だな」
「記述の日?なんか書くんすか?」
「そっちの記述じゃなくて、手品とかマジックとかの方の奇術だよ」
「あー、『耳がでっかくなっちゃった!』の奴っすね!」
「それを代表例とするのはちょっとどうかと思うが…まあそうだな。日本奇術協会が制定した記念日で、日付は奇術につきものの掛け声である『ワン ツー スリー』から12月3日になったそうだ」
「へー」
「ちなみに逆の『3、2、1』である3月21日は催眠術の日だったりする」
「へー」
「…聞いてるか?」
「はっ、も、もちろん聞いてますよ!奇術でしたね!そうだ、店長のおすすめコーナーに店長お手製の荒縄があったんで、それでぼくの脱出マジックをお見せしますよ!」
「なんでも作れるな、あの人は…でも脱出マジックなんてできるんだね。どんな内容なんだ?」
「まず縄で高橋さんを縛ります。そしてぼくがこの店から脱出するっていうマジックっすね!」
「それ俺がただ縛られて放置されるだけじゃねーか!マジックでもなんでもないじゃん…」
「あはは!とりあえずやってみましょうよ!さて、荒縄を取りに行きますかね。よいしょっと…おっとっと」
「危ない!(ガシッ)フラついてるじゃねーか…って、君今すぐ熱を測れ」
「えー、大丈夫っすよー」
「大丈夫な奴はこんなに顔が真っ赤じゃないから。ほら、体温計」
「しょうがないっすねー…(ピピピ)えーと、38.7度。平熱っすね」
「平熱であってたまるか。早く帰って休みなさいよ。バイトの方はなんとかしとくから」
「大丈夫っすよ!ゴホッ、ゴホッ!志々雄真実みたいに体温高い方が速く動けるんすよ!」
「あの人最後は燃え尽きてたじゃねーか…冗談言ってないで早く帰って」
「だから大丈夫ですって!一晩ぐらい」
「帰ってくれ!」
「(ビクッ)」
「…悪化したらどうするんだ?ほんとに頼むから帰って休んでくれよ…お願いだから…」
「…すみません…でも…」
「…どうした?」
「家に誰も居なくて…キツくて…こ、こころぼそくて」(ジワァ)
「…あー、すまん、そこまで考えが回らなかった…それで早く来てたのか…」
「…(コクン)」
「どうするかな…うちで休むか?武さんたちは居るぞ。…居るって言っていいのか微妙だけど…」
「グスッ…いいんすか?」
「もちろん。俺もバイト終わったらすぐ帰るし」
「じゃあ…すみません、お願いします…」
「よし!じゃあとりあえず一緒にうちに帰るか。このコートとマフラー貸すから着込んでおいてくれ。ポカリと何か食べやすそうなもの買ってくる」
「あ、いえ、そこまでしてもらうわけには…」
「この状態で1人で帰らせるわけにはいかんだろ。大丈夫だ、時間の余裕はある」
「あ、でも、コート借りたら高橋さんが寒いんじゃ…」
「それも大丈夫。今日はコート3枚着てきたから」
「どんだけ寒がりなんすか…でも…ありがとうございます」