11月23日 勤労感謝の日 新嘗祭
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。感謝したい職種は配送トラックの運転手。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。感謝したい職種は漫画家。
ここはとある郊外のコンビニ。
「高橋さん、今日ぼく早上がりでもいいっすか?」
「もちろんいいけど。珍しいな、事前に言ってくるの。何か予定があるの?」
「日付変わって今日は勤労感謝の日じゃないっすか。うちの家ではいつも働いてる両親に感謝して、家の仕事を兄弟でやろうって日にしてるんすよ。その間両親には好きに過ごしてもらって、夜ご飯に2人の好きなものを作ってあげるって感じで」
「ほう。それは素敵だな」
「それで姉は家を出てるんで、ぼくと兄でやるんすけど、兄は料理がからっきしなんで、そこはぼくにかかってるんすよね」
「それに備えて早めに帰りたいってわけか。もちろんいいよ。つーか、次の雑誌の搬入が終わったら、もうあがっていいよ。タイムカードは定時できっておくから」
「いやそれはさすがに…店長にバレたら大事じゃないっすか」
「店長にも説明しておくよ。あの人こういう家族愛感じる話は大好きだから、むしろ喜ぶと思うぞ。万が一もめそうだったら俺がなんとかしておくよ」
「でも…」
「いいからいいから。しかし、勤労感謝の日に両親に感謝か…考えたことなかったな。俺も今年は何かやってみようかな」
「絶対に喜ばれると思いますよ!うちは姉が始めたらしいんすけど、ぼくにとっては子供の頃からずっとそうなんで、むしろ一般的なことなのかと思ってました。というより正式にはどういう日なんすかね?」
「戦後に制定された国民の祝日で、祝日法には『勤労をたっとび、生産を祝い、国民互いに感謝しあう』日って書いてある。戦前は新嘗祭って名称の休みだったそうだ。新嘗祭自体は今もやってるけどな」
「新嘗祭ってあれっすよね?天皇陛下が新米を食べるやつ」
「まあ、間違ってはないが…その年の新穀なんかを天神地祇って神様たちに奉納して、収穫に感謝するって儀式だな。そこから転じて戦後に勤労感謝の日って名前になったらしい」
「ふむふむ」
「しかし両親に感謝するっていっても、俺は家事はそこまでうまくはないしな…プレゼントでも贈るか?」
「それはいい考えっすね!何にします?…あっ、店長のおすすめコーナーに『ありがとうCD』ってのが置いてありましたよ!感謝を伝えるのに良さそうな名前の商品じゃないっすか?」
「でもあれ、店長が世界各国の言葉で『ありがとう』って言ってるのを録音して無限ループするようにしたものだからな…」
「えぇ…どこに需要があるんすか、それ…」
「一応外国語の勉強にはなるかな…あと、関節痛、筋肉痛、皮膚炎、打ち身、冷え性、疲労回復、虚弱体質、悪霊退散に効果があるらしい」
「温泉じゃないんすから…最後に変なの混じってなかったっすか?」
「まああのCDは無しかな。バイト明けにでも何か買いに行くかね」
「あ、じゃあ高橋さんお得意の記念日を参考にするってのはどうですか?勤労感謝の日だからって理由の記念日があったりしません?」
「めっちゃあるぞ。えーと、外食の日、ゲームの日、牡蠣の日、手袋の日、小ねぎ記念日、生命保険に感謝する日、キンカンの日、キンレイ感謝の日、産業カウンセラーの日、フードバンクの日…」
「ちょ、ちょっと待ってください!さすがに多すぎっす…」
「もう少しあるけどな。あと新嘗祭と同じ日ってことで、珍味の日とかお赤飯の日とか」
「もうお腹いっぱいっす…ほ、ほら!プレゼントによさそうな記念日が何個かあったじゃないっすか!それを贈ったらいいんすよ!」
「なるほどな…よし、決めた」
「おっ、何にするんすか?」
「生命保険にしよう」
「…いきなり生命保険かけられるって、殺されるって思うんじゃないっすかね…」