10月21日 あかりの日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。あかりといえばひなまつりの歌。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。あかりといえばアサギのとうだい。
ここはとある郊外のマンションの一室。
「…」(ペラッ ペラッ)
ガチャ
「ただいまーっと。うおっ⁉︎田中くん、まだ居たのか⁉︎」
「あれっ⁉︎高橋さん⁉︎今日はバイト夕勤だったんじゃ…」
「終わって帰ってきたんだよ。もうそろそろ23時だぞ。帰らなくて大丈夫か?」
「えっ⁉︎もうそんな時間っすか⁉︎ちょ、ちょっと待ってください、もう少しで爽子ちゃんと風早くんがくっつくとこなんで…」
「まあ俺はいいんだけどさ…親御さんが心配するんじゃないか?」
「もうちょっとだけ…」
「はぁ…わかったよ。もうちょっとだけな」
「ありがとうございます!…」(ペラッ)
今日のお昼頃田中くんから連絡があった。
なんでも昨日恋バナを聞いたせいでラブコメを読みたくてたまらなくなったそうだ。
自宅に残してある分では物足りず、うちに置いてある分を読みたいので、家に入ってもいいかとのことだった。
許可を出して、「いますぐお邪魔します!」と返信があったのが14時頃。9時間近くここにいるのか…
つーか昨日の今日でこの子寝てないんじゃないか?
「はぁ…やっぱり君に届けは最高っすね!キュンキュンしますよ!すみません、高橋さん。長々とお邪魔しちゃって…今すぐ帰りますんで」
「送っていくよ。もう遅いしな」
「えっ、いえいえ!大丈夫っすよ!そんなにご迷惑おかけするわけにはいかないっす」
「今すごい雨だぞ。雷もめっちゃ鳴ってる」
「ええっ!…ほんとだ。ハンパないくらい降ってますね…」
「だろ?車出すから乗って行きな?」
「うー…すみません、お言葉に甘えます…」
フッ
「ひっ⁉︎」
「ん?停電か?とりあえずスマホのライトつけるか。田中くん、大丈夫?」
「だ、大丈夫っすよ!こんなの闇と同化すれば全く怖くないっす!」
「別にそこまでしなくても…周りも全然電気ついてない…どっか変電施設かなんかに落雷したのかもしれんな」
「こ、こんなときに限ってスマホの充電が切れそうっす…」
「ちょっと待ってろ。たしか非常持ち出し袋の中に…あった、あった。はい、懐中電灯とモバイルバッテリー」
「す、すごいっす、高橋さん!備えばっちりじゃないっすか!」
「まあな。しかしこれからどうするかな…」
「これからといいますと?」
「規模の大きい停電だと信号が動いてないかもしれんからな。車を出すのは危険だし…かといってこの雨の中歩いて帰るのは厳しいだろ」
「大丈夫っすよ!今日はまだシャワー浴びてないんで傘ささずに帰れば一石二鳥っす!Hahahaha!」
「アメリカンジョークかよ…まあもう少しゆっくりしていきなさいよ。雨が弱まるか停電が解除されるのを待とう。そうだ、店長のおすすめコーナーにあったなんじゃこら大福を買ってきてるけど食べる?」
「なんじゃこら大福って…宮崎の名物でしたっけ?いちごと栗とクリームチーズが入ってるやつっすよね」
「そうそう。2つセットしか置いてなかったんだけど、ちょうどよかったな。どれ、お茶も持ってこよう」
「あっ、ぼくも手伝います」
「いいよいいよ、座ってな。暗いからむしろ危ないし」
「すみません…停電になると普段の明るさのありがたみが身に染みますね…」
「まったくだ。はい、お茶。そういや今日はあかりの日だったな」
「ありがとうございます。あかりの日?」
「ああ。日本電気協会が1981年に制定した日で、1879年のこの日にエジソンが白熱電球を完成させたことが由来だそうだ。あかりのありがたみを認識する日らしい」
「へー。…高橋さん、もしかしてそのために停電を起こしたんすか…?」
「そんなわけないだろ…それじゃやってることほぼテロリストじゃねーか」
「そうっすよね…でも記念日に取り憑かれた高橋さんならやりかねないかも…」
「ひどい言い草だな…」
「高橋さん、自首しましょう…ぼくがついてるっす…」
「だからやってないっつーの!」