10月13日 麻酔の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。局所麻酔は受けたことがある。効きにくい体質らしい。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。麻酔は一切受けたことがない。
田中太郎 田中の兄。高校時代は4番キャッチャー。
ここはとある郊外のコンビニ。
「すみません、遅くなりました」
「いいよいいよ、別に暇だったし。何か急用だったの?」
「実は…兄が緊急入院しまして…」
「えっ⁉︎太郎くんが⁉︎それはまたどうして?」
「盲腸みたいです。腹痛で病院に行ったら、即入院、即手術って流れで。手術はうまくいったので1週間ぐらいで帰れるらしいですけど」
「それは不幸中の幸いだな。極端に大事じゃなくてよかったね」
「まったく人騒がせなんすから…いつもいつもそうなんすよね、あの男は。家族に迷惑ばっかりかけて…」
「ふーん」
「…なんすか、その意味深な表情は?」
「いや、言葉とは違って、すごい安堵したような表情だからさ。よっぽど心配だったんだろうなーって思って」
「ハ、ハァ⁉︎///そ、そんなわけないじゃないっすか⁉︎…いや、まあ多少は心配しましたけど…こ、これはあれっす!あいつを倒すのはこのぼくだ!って気持ちっす!」
「なんだそのライバルみたいな発言は…でも1週間ぐらい入院か…何かお見舞いの品を贈るかな?ちょうど店長のおすすめコーナーにフルーツ盛り合わせがあるが…」
「今日はそんなものを売ってるんすね。…あれドリアンが入ってませんか?」
「そうなんだよな。病院にドリアンはやばいよなぁ…というよりお腹の手術してるのに果物持っていくのもあんまりか」
「そもそもお見舞いなんて気を遣わなくていいっすよ。うちの兄と直接面識はないじゃないっすか」
「いや、この前田中くんを家まで送ったときにちょっと話したぞ。いいお兄ちゃんって感じの好青年だったけどな」
「騙されちゃダメっす!あいつは外面だけはいいんすから!中身は恐怖の大王みたいな奴っすからね!」
「ノストラダムスの大予言かよ…イメージしづらいわ」
「とにかくお見舞いとかはいいっすよ。兄も気にすると思いますし」
「それもそうだな。何事もなく退院できるよう祈っておくよ。でも、手術って聞くとちょっと身構えちゃうな…今まで受けたことがないからさ」
「高橋さんもないんすか?ぼくもないんすよねー 全身麻酔って奴は一回体験してみたいんすけど」
「あれ怖くないか…?体験談聞いてるだけでもうお腹いっぱいなんだけど…」
「えー、楽しそうじゃないっすか?一瞬で気を失うんすよね。ちょっとワクワクしません?」
「いやしないかな…かなり歴史のあるものだってのはわかるんだが…」
「あれっていつ頃からされ始めたんすかね?」
「1804年の10月13日に華岡青州って人が、世界で初めて全身麻酔を行ったらしい」
「えっ?日本人なんすか?」
「ああ。それに由来して10月13日は麻酔の日って記念日だ。日本麻酔科学会が制定したそうだ」
「へー。でも全身麻酔がなかった時代の手術ってどうやってたんでしょうね?」
「何か手はうたれてたんだろうけど、痛みを伴うものだったらしいから、基本的には気合で耐えてたんじゃないかな」
「…ほんとにこの時代に生まれてよかったと思います…痛いのは嫌っすもん」
「そういや田中くんはかなり激しくスポーツしてたって聞いたけど、手術するような怪我はなかったんだね」
「そうっすね。幸い怪我は少なかったっす。肉離れは何回かありますけど、骨折とか靭帯切ったりはないっすね」
「そうなんだ。でも怪我が少ないのも一流の証なのかもな」
「ふふん!もっと褒めていいっすよ!」
「ほんとに凄いわ。それに比べて俺はよく骨折するんだよな…毎年のようにどこか折れてるわ…おかげで松葉杖つきながらバイトするのが上手くなったけど」
「いや、この前もそうでしたけど、骨折してるならバイト休みましょうよ…」
「ふっ、骨は折れても心は折れないのさ」
「…なんかうまいこと言ったみたいな顔して…鼻っ柱へし折りますよ、物理的に」
「やめて…ただでさえ一度肋骨へし折られてるのに…」
「…えっ?」
「…あっ」
8月21日のパンチで肋骨が折れています。
内緒にしてました。