10月11日 ウインクの日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。ウインクは苦手。両目を瞑ってしまう。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。ウインクは得意。肘鉄砲撃ち返すのも得意。
ここはとある郊外のコンビニ。
「今日の店長のおすすめコーナー見ましたか?」
「そういやまだしっかり見てないな。なんか本みたいなのが並んでなかった?」
「そうなんすよ!おまじないの本特集をやってるんすよ!」
「おまじないの本、か。あー、小学生の頃、同級生が持ってたような気がする」
「懐かしいっすよね!ぼくは持ってはなかったんすけど、友達に見せてもらってました!」
「へー、いろんな種類があるんだな。…一冊ハードカバーで黒魔術の本って書かれたのがあるんだけど…」
「それは見なかったことにしたっす…だって明らかに触っちゃいけないような色してるじゃないっすか…」
「俺も気が付かなかったことにしよう…田中くんは子どもの頃に試したおまじないは何かある?」
「そうっすねー、消しゴムのカバーの下に好きな人の名前を書くってのはやった覚えがありますね。誰にも見られないように使い切れれば恋が叶うってやつです」
「そんなのあったな。で、効果の程はどうだった?」
「途中で消しゴム無くしちゃいまして…恋も叶わずじまいっすね。高橋さんは何かやってました?」
「そうだな、小学生のとき、友達ができるおまじないってのは何個か試したな。全然効果なかったけど」
「えっ、もしかして小学生の頃からぼっちだったんすか…?」
「ふっ、まあな」
「全然カッコよくないし、むしろイジるもの憚られるんすけど…」
「そうかもな…まあ気にするなよ」
「高橋さんはもっと気にしたほうがいいと思いますけど」
「しかし、おまじないか…10月11日の朝起きた時に、好きな人の名前の文字数だけウインクをすると気持ちが伝わるっておまじない知ってる?」
「いや、初耳っす。日付指定まであるなんて変わったおまじないっすね」
「10と11をそれぞれ横にして並べると片目を瞑ってるように見えるだろ?そこからウインクに関するおまじないができたんだろうな」
「あ、なるほど」
「そしてそのおまじないから10月11日はウインクの日って呼ばれるようになったそうだ」
「ウインクの日があっておまじないができたんじゃなくっすか?」
「そう、おまじないありきのウインクの日なんだよ。記念日の中でも珍しいでき方だな。ちなみに別名はオクトーバーウインク」
「ふふふ、わかりましたよ!11月10日も同じようにウインクの日なんすね!ノーベンバーウインクって別名の!」
「いや、別にそれは言われてない」
「えぇ…じゃあなんでわざわざオクトーバーウインクとかいう名前をつけたんすか⁉︎」
「さあ…?まあでもこのふわっとした感じはおまじないとマッチしてるかもな。この記念日自体も誰が言い出したかよくわかってないし」
「そんなもんっすかね…今日は日付変わって10月11日っすけど、夜勤明けに寝て起きたときでもこのおまじないって有効なんすかね?」
「多分大丈夫じゃないかな。別にその辺りは指定されてないし」
「ふーん…全然話変わるんすけど、高橋さんって下の名前なんていうんすか?」
「下の名前?君と一緒だよ」
「…は?何言ってるんすか?」
「いや、マジで。この前君の免許証見せてもらったときに気が付いたんだけど、漢字も読みも全く一緒だった。ちょっとびっくりしたよ」
「あ、ホントなんすね…そんなことあるんすねー たしかにそんなに珍しくない名前っすけど」
「小学校の同級生にも一人いたわ。消しゴムにも記名するような几帳面な女の子だったな」
「へー…ん?そのことはどうやって知ったんすか?」
「掃除の時間に落ちてた消しゴムを拾ったんだけど、カバーの下を見たら下の名前が書いてあったんだよ。俺のじゃなかったから、その子に渡したんだよ。『名前書いてあったけど、これ君の?』って言ってな。そしたらその消しゴムはその子のだったんだけど、顔真っ赤にしてめっちゃ怒られたんだよ…俺が触ったのが悪かったのかな…」
「…それもしかして…いや、なんでもないっす…」