10月9日 トラックの日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。トラックは割と好き。大型を見るとワクワクする。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。トラックはそこまで好きじゃない。トラック競技は好き。
昨日と繋がっています。
ここはとある郊外のコンビニ。
ウィーン ピンポーン
「お疲れさまでーす。裏で着替えてくるっす」
(バックヤード)
「さて…あれ?高橋さんまだ来てないんだ。いつもクソ真面目に30分以上前に来てるのに。遅刻かな?」
バキバキッ
「ひっ⁉︎な、なんの音?あれは…昨日の木のオブジェ?な、なんでこんなにバラバラに…?」
そのとき田中の脳裏に昨日の高橋との会話が蘇る。
『店長がいうには、危険察知と身代わりの置物って言ってたな』
(それが壊れたってことは…いやいやそんな非現実的なことあるわけないでしょ…)
ドクン ドクン
(…でも、もし本当だとしたら…強盗に襲われたときはオブジェが『割れた』って言ってた…今回は『バラバラ』になってる…それだけ大きな危険に襲われてるってこと?)
ドクン ドクン
(心臓の音が大きい…息が詰まりそう…ど、どうしよう…)
スー ハー
(落ち着け…何か起こったって決まったわけじゃない…大丈夫…きっと大丈夫…)
「そうだ!電話すればいいんだ!えーっと、高橋さん、高橋さん…」
「どうかした?」
「うわああ!た、高橋さん…‼︎」
「そんなにびっくりしなくても…ほんとにどうした?顔真っ青だぞ?」
「い、いえ、なんでもないっす」(ホッ)
「ほんとに大丈夫?体調悪いなら誰か代わってもらったら?」
「いや、ほんと大丈夫なんで!うわっ!もうこんな時間!先に夕勤の人たちと代わってきます」
「ヤベッ!そうだった。すぐ着替えて行くわ」
「ふう。ようやく客足も品出しも落ち着いたな」
「この時間には珍しい忙しさでしたね」
「そうだな。そういやバイト前、顔色悪かったけど何かあったの?」
「あ、いえ…その、昨日話してた木のオブジェあるじゃないっすか?」
「ああ。そういえば持って帰るの忘れてたわ」
「あれがなぜかバラバラになってたんでですね…その、高橋さんの身に何かあったんじゃないかと思ってしまって…」
「えっ?あ、ほんとだ…マジかよ…」
「ど、どうしたんすか?そんな複雑そうな顔して?」
「実はここに来る途中でトラックに轢かれかけたんだけどさ…」
「…は?」
「うちからここまでの道でT字路になってるとこあるだろ?そこをまっすぐ歩いてたら、鞄から昨日店長から買ったお守りが落ちてさ。拾おうとしてしゃがんだら、数メートル前に居眠り運転のトラックが突っ込んだんだよ」
「えっ、じゃあお守り拾わなかったら…」
「ぺっちゃんこになってたな…まあ突っ込んだ塀は壊れてたけど、トラックの運転手もそんなに大怪我はしてなさそうだったからよかったよ」
「全然良くないっすよ!もうちょっとで死んじゃうとこだったんすよ⁉︎」
「まあ生きてるしいいだろ。ラッキーってことで」
「軽すぎる!…たまに高橋さんは一周回って大物なんじゃないかと思うことがあります…」
「そんなに褒めるなよ」
「褒めてないっす!」
「しかし、店長のお守りの効果を実証してしまったな…5000円でも安すぎるぐらいだ」
「ほんとに店長は何者なんすかね…かと思えば今日のおすすめコーナーは『秋のうなぎパイフェア』とか訳の分からないことやってますし…」
「謎だな…まあいいや。…あー、そういや、今日トラックの日だった…」
「トラックの日?」
「『10ラッ9』の語呂合わせでな。全日本トラック協会が1992年にトラック運送事業に関する理解と関心を深めてもらうために制定したんだ」
「へー。えっ、まさか記念日だからわざと轢かれそうになったんすか…?」
「そんなわけないだろ…」
「よかったっす…そこまでの記念日狂信者だったらどうしようかと…」
「なんだよ、狂信者って…でもトラックの日に対して個人的に悪いイメージがつきそうでいやだ…まあよくあることだし、パッと忘れてしまおう」
「よくあることなわけないでしょ、こんな大事故…」
「そうか?俺は毎年1回ぐらいは車に轢かれたり、轢かれかかったりするけど。普通に歩道を歩いてるんだけどなぁ」
「えっ?…前に強盗に遭遇するのも3回目って言ってませんでしたっけ?」※8月15日参照
「そうそう、良く覚えてたな。銀行強盗とか通り魔も見たことあるぞ。あとは工事現場の事故に巻き込まれそうになったりとかな」
「高橋さん、絶対呪われてますよ…よく今日まで生きてきましたね…」
「そんなに褒めるなよ」
「だから褒めてないっす!」
(10月17日 追記)番外編にお守りを忘れた場合の別ルートを投稿しました。