10月8日 木の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。好きな木は檜。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。好きな木は世界樹。
ここはとある郊外のコンビニ。
「あれっ?ぼくの目がおかしいんすかね?店長のおすすめコーナーに木材が並んでるように見えるんすけど…」
「大丈夫。君の目は正常だ。俺にも見えてる」
「なんで木材が…あれっすか?ホームセンターにでもするつもりなんすかね?」
「いや、あれそのまま売ってるわけじゃないみたいだぞ。木材の料金+αで、リクエストした彫像を作ってくれるらしい」
「えっ、誰がっすか?」
「そりゃ店長だよ。+αの部分は出来上がりを見て、買った人が自由に決めていいんだと」
「なんすか、そのサービス…でも自分の好きなものを彫ってもらえるのはいいっすね!ぼくも買おうかな…」
「残念ながら全部売り切れだ。ほら、売約済みの札がかかってる」
「あっ!ほんとだ…そういわれるとすごい惜しい気持ちになってきますね…」
「まあまたいつかやるんじゃないか?こういうの、あの人好きそうだし」
「でもこの数を今から作るんすよね?ひーふーみーよー…10個ありますよ。この数作るのにどのくらいかかるんすかね…?終わらない限り次の受注もないでしょうし…」
「さっき聞いたときには、これ以外の普通の仕事もあるからそこそこかかるって言ってたな。たしか…10日ぐらいだって」
「…は?10日で10個作るんすか⁉︎どんなペースなんすか、それ…」
「尋常じゃないよな。そういえば制作過程をインスタにあげるって言ってたぞ」
「マジっすか!要チェックっすね!でもなんでいきなりこんな企画を始めたんすかね?まあ今までも似顔絵とかありましたけど」
「そういや先週ぐらいに店長と話してたときに、10月8日は木の日って話をしたら、なんか企画考えるって言ってたな。それが理由かもしれん」
「木の日、っすか?」
「ああ。日本木材青壮年団体連合会が1977年に提唱した記念日で、木の良さを再確認することが目的だそうだ。日付は『十』と『八』を組み合わせると『木』になるってとこからきてる」
「おっ、その理由は納得っす!木の良さといえば…やっぱり暖かみっすかね。なんかこう…物なのに生きてる、って感じがしませんか?」
「なんとなくニュアンスはわかるな。プラスチックとかに比べて無機質過ぎないというか。まあプラスチックのあの人工感も好きだけど」
「あとは再生能力とかついてるイメージがありますね!玄人向けっす」
「それはゲームとか漫画の話だろ。別に木属性を見直す日ではないぞ」
「いいじゃないっすか、そんな固いこと言わずに。無限に再生する蔓や枝で相手を追い詰め!最後には覚醒した相手の超火力で吹き飛ばされる!そんなイメージっす!」
「負けてんじゃねーか!木の日ぐらい勝たせてやれよ」
「あれ、おかしいっすね…?もう少しで勝てそうだったのに。…ん?裏に何か置物みたいなの置いてませんか?」
「ああ、あれ店長からもらった謎の木のオブジェだよ」
「見てもいいっすか?…ほんとになんなんすかこれ?でもこれ前に高橋さんの家で見たような…」
「そうそう。売れ残りでもらったんだけど、あの強盗に襲われた日のバイトに行く前に急に壊れたんだよ。その話したら『新しいの持っとけ』って言って、これをくれたんだ」※8月14日参照
「えっ…これもまた謎のアイテムなんすか…?」
「店長がいうには、危険察知と身代わりの置物って言ってたな。ドラマとかで登場人物に何かあったときに、コーヒーカップが割れたり、靴紐が切れたりするだろ?それと似たようなものだって」
「…わざわざそれを改めて渡すってことは、高橋さんに何か起こるってことっすかね…?」
「俺もそう思って聞いたら、『大丈夫!このお守りがあれば回避できるぞ!』って言って、この木のお守りを渡してくれた」
「そうなんすか!店長優しいっすね!」
「5000円取られたけど…」
「えっ…それ、詐欺なんじゃないんすか…?」
「俺もそんな気がしてきた…」