10月2日 豆腐の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。好きな豆腐料理は冷奴。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。好きな豆腐料理は麻婆豆腐。
ここはとある郊外のコンビニ。
「本当にご迷惑をおかけしました…」
「いいよいいよ、別に。そんな何回も謝らなくても」
「酔っ払って吐物を撒き散らした挙句、翌朝は車で家まで送ってもらって、あまつさえその日の夕方のバイトまで変わってもらったんすよ…どんなに謝罪しても謝罪しきれないっす…」
「字面のするとすごいな…まあでも当事者の俺がいいって言ってるんだから。別に気にしなくていいよ」
「でもですね…」
「よし、それなら今度飯奢ってくれ。それでチャラってことで!」
「えっ?でもそんなのじゃ全然…」
「そんなのがいいんだよ。むしろそれ以外なら許さんからな!」
「高橋さん…すみません、ありがとうございます。じゃあ何が食べたいか考えておいてくださいね!」
「ああ!ところでもう体調は大丈夫なの?」
「おかげさまで元気いっぱいっすよ!食欲もバッチリっす!さっきも店長のおすすめコーナーにあった唐揚げ・竜田揚げ・ザンギの三種盛りを買って摘んだとこっす」
「ああ、なんか売ってたな。あれさ、どれが唐揚げでどれが竜田揚げなんだ?チラッとみただけじゃわかんなかったんだけど…」
「それがよくわかんないんすよね…パッケージにも詳しくは書いてなかったですし。ただ『お前の信じるザンギを信じろ!』ってだけ書いてありました」
「なんだその熱血系主人公みたいなセリフは…」
「でもどれも美味しかったっすよ!高橋さんもちょっと食べます?」
「いや、胃もたれ気味だからやめとく。ここ2日間ピザばっかり食べてるから」
「…もしかしてこの前のパーティーの時の残りっすか?」
「ああ。めっちゃ余ってたからな。捨てるのもなんだし、少しずつ食べてるんだが…つーか誰だよ、参加者7人なのにLサイズ7枚頼んだのは…」
「ぼくじゃない…と思いたいんすけど、あの時の記憶ほとんどないんすよね…」
「まあいいんだけどさ…はあ…なんかさっぱりしたものが食べたいな」
「さっぱりしたものっすか…塩ラーメンとか?」
「なんでそのチョイスなんだ…ラーメンの中ではさっぱりしてるかもしれないけど…」
「えー。じゃあたとえば何があるんすかぁ?」
「たとえば…湯豆腐とかさ」
「湯豆腐ぅ?湯豆腐なんてさっぱり通り越して『無』じゃないっすか!」
「いや無ではないだろ…」
「でも急に湯豆腐が出てきたってことは…わかりましたよ!今日は豆腐の日っすね?10月2日の語呂合わせで!」
「お、大正解。日本豆腐協会が制定した記念日だ」
「ふっ、自分の推理力と洞察力が怖いっす。まあそうでもなければ湯豆腐食べたいなんて高橋さんが言うわけないっすからね!」
「いや、俺湯豆腐好きだよ。少なくとも月に1.2回は食べてる」
「えっ?それはその…無から有を生み出すみたいなことですか?」
「いやだから無じゃないって…まあでも田中くんくらいの食いしん坊には物足りない料理かもな」
「だ、誰が食いしん坊っすか!失礼な!」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ」
「ま、まあそれはさておきですね、湯豆腐って謎の料理じゃないっすか?」
「謎?たとえばどこが?」
「だって最初に出てくる昆布は一枚丸々だから、早い者勝ちの上、食べにくいでしょ?いまだに意味がわかんないっす」
「いや出汁用の昆布を食べるなよ…」
「…えっ。あれ、食べないんすか…?じゃ、じゃあぼくが昆布取ったときに周りのみんながこっちをみてたのは羨ましいからじゃ…」
「多分違うと思うぞ…」
「…やっぱりぼく、湯豆腐嫌いっす…」
「それは逆恨みだろ…」