9月29日 招き猫の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。招き猫は左手挙げ派。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。招き猫は右手挙げ派。
ここはとある郊外のコンビニ。
「あっ」
スタスタ ウィーン ピンポーン
「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」
ニャーン(チャリン)
「100円お預かりいたします。いつもの黒缶でよろしいですか?」
ンニャ ンニャ?
「ちゅーるもですか?えっと…はい、以前にお預かりしてる分と合わせれば、一袋買えますね」
ニャン
「では一緒に会計しておきますね。黒缶と一緒にお皿に乗せてよろしいですか?」
ニャニャ
「わかりました。ちゅーる2本は取り置きしておきますね。それでは食べ終わりましたらお声掛けください。自動ドアは開けておきますので」
ニャーン
「…高橋さん、何してるんすか…?」
「おっ、休憩終わり?見ての通り接客だよ」
「接客って…ネコ相手にっすか?」
「ああ。うちの常連さんだ。お名前はチョコさん」
「ちょっといろいろと理解が追いつかないんすけど…さっきあのネコお金払ってませんでした?」
「そりゃお客だからな。お金も払うさ。どこからか拾ってきてるみたいだ。一応そのままうちの収益になるんじゃなくて、同じ分店長が立て替えて、警察に拾得物として届けてるそうだ。大体半年後に戻ってくるけど」
「はあ…あと高橋さん、その…チョコさんと普通に会話してませんでした?」
「もう5年以上の付き合いだからな。大体何を言ってるかわかるようになってきたんだよ。おっと、帳簿をつけとかないと」
「帳簿?」
「チョコさん専用のな。お釣りを渡しても大変だろうから、余剰のお金はうちで預かってるんだ。あと商品も一部取り置いて、後で食べに来たりもするな」
「めっちゃ賢いじゃないっすか⁉︎…ほんとにネコなんすか?」
「どう見てもネコだろ。店長曰く、10年以上前からここに通ってるらしい」
「10年⁉︎ウソでしょ…というよりぼく、初めて見たんすけど」
「ああ、古参の店員がいるときを狙ってくるからな。店長か俺か田所さんか、あと数人ぐらいしか応対したことないと思う」
「聞けば聞くほどウソみたいな話っすね…実際に見た今でも信じられないっす…でもなんでこの店がお気に入りなんすかね?」
「さあ?店長は自分が無類のネコ好きだからとか言ってたけど」
「関係ないでしょ、それ…でも今日の店長のおすすめコーナーも招き猫特集でしたね。ほんとにネコ好きなんすねー」
「それもあるけど、今日は招き猫の日だからってのが大きいかな」
「招き猫の日っすか?」
「ああ。日本招猫倶楽部ってとこが招き猫の魅力をアピールするために制定した記念日だ。日付は招き猫が福を招くってことで『来る福』の語呂合わせからきてる」
「へー。日本招猫倶楽部っすか…また新たな団体が出てきましたね」
「ちなみに店長は会員だぞ」
「えっ⁉︎マジっすか⁉︎何か特殊な入会条件があったりするんすか…?」
「いや、招き猫好きの人なら誰でも入れるぞ。会費が2年で3000円で、年2回発行される会誌とか倶楽部の名前が入った名刺とかがもらえるらしい」
「へー、ちょっと惹かれますね…招き猫かわいいっすもんね。たしか…挙げてる手によって意味が違うんでしたっけ?」
「そうそう。右手は金運、左手は人を招くといわれてるな」
「ってことは両方挙げてるのを作れば最強ってことっすね!」
「ああ、そういうのもあるぞ。ほら、おすすめコーナーにも置いてある」
「あっ、もうあるんすね…くそー、じゃあ負けないように両足も挙げてるのを作らないと!」
「何と戦ってるんだよ…ていうかそれももうあるよ。ほら、こっちの奥に」
「なん…だと…これ以上何を挙げればいいんすか⁉︎」
「いや、普通に片手挙げてる招き猫にすればいいだろ…」
ニャーン
「あ、はーい、今行きます。お皿下げておきますね。ありがとうございました、またお越しくださいませ」
「あ、ありがとうございましたー …あの、高橋さん…チョコさんの尻尾、二股に分かれてません?」
「ん?そうかな?気にしたことなかった」
「もしかして…猫又なんじゃないんすか?」
「猫又ってあの妖怪の?ははは、そんな非現実的なものいるわけないだろ」
「幽霊と同居してる人が何言ってるんすか…」
チョコ コンビニの常連の黒猫。とても賢い。