9月19日 苗字の日
高橋 バイトの先輩。記念日に詳しい。好きな苗字は小鳥遊。
田中 バイトの後輩。「〜っす」が口癖。好きな苗字は田中。
ここはとある郊外のコンビニ。
「高橋さん、あなたに決闘を申し込みます!」(パシッ)
「…どうした?急に。そしてこの白い手袋はどうしたんだ?」
「これは店長のおすすめコーナーで買ったっす。店長お手製の決闘申し込み用手袋っす」
「なんだその限定的な用途の商品は…」
「そんなことより決闘っすよ!受けるんすか⁉︎受けないんすか⁉︎」
「いや、受けないけど…決闘の理由もわからんし…」
「はっ、臆病風に吹かれましたか!退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!っすよ!」
「オサレワードで煽ってくるんじゃねぇ。あと決闘したら決闘罪で逮捕されるぞ」
「よし、決闘はなしにしましょう」
「変わり身早っ!」
「国家権力には逆らわない、それがぼくの武士道っす」
「武士っぽくはないけどな…ところでなんで決闘とか言い出したんだ?」
「そろそろ田中と高橋、どっちが苗字として上か雌雄を決しようかと思いまして」
「なんだそれ…苗字に上も下もないだろ…」
「そんなことでいいんすか⁉︎田中も高橋も日本を代表する苗字なんすよ⁉︎その中で日本一の苗字になりたいと思わないんすか⁉︎」
「いや別に思わないけど…」
「そんなわけでまずは田中対高橋で闘おうってわけっすよ!」
「こっちの話聞いてないな…まあいいか。それで具体的にどうやって勝ち負けを決めるんだ?」
「そうっすね…相手より優れているところを述べて、敗北を認めさせるという時間無制限のデスマッチ方式にしましょう」
「デスマッチなのか…」
「まずは僕からっすね!まず田中という字は高橋に比べて画数が圧倒的に少ないっす」
「ん?それは優れている点なのか?」
「もちろんっすよ!人生で何回自分の名前を書きますか?その度に時間のロスが少ないってことっすよ!」
「あー、そう考えるとたしかに」
「それに田中はシンメトリーになっててバランスもとりやすいですし、何よりどちらも小学1年生で習う漢字で親しみやすいっす!」
「なるほどなぁ」
「どうっすか!負けを認めてもいいっすよ!それとも何か反論がありますか?」
「うーん、そうだな…高橋にあって田中にないもの…高橋にはバリエーションとしてはしごになってる方の『髙橋』もいる…とか…」
「…」
「…やっぱ弱いか?利点かと言われるとそうでもないしな…」
「…ぼくの負けっす…」
「なんで⁉︎」
「アナザーカラーが作られるのは人気の証っすね…これは敗北を認めざるを得ないっす…」
「そ、そうか…君が納得できるなら別にそれでいいんだが…」
「でもまだこれは100番勝負のうちのひとつに過ぎませんからね!これで勝ったと思ったら大間違いっすよ!」
「えぇ…これあと99試合もあんの…」
「次回をお楽しみにっす!」
「楽しみ要素がないんだが…しかし急に苗字の話し始めたな。たしかに今日は苗字の日だけれども」
「あっそうなんすか。それは全く知らなかったっす。なんで今日は苗字の日なんすか?」
「1870年の9月19日に戸籍整理のため平民にも苗字を名乗ることが許されたことに由来してる。ちなみにみんななかなか苗字を名乗ろうとしなかったから、1875年2月13日に苗字が義務化されて、その日は苗字制定記念日になってる」
「へー。じゃあぼくらのご先祖さまもその頃に苗字をつけたんすかね」
「どうだろうな。でも田中は田んぼの管理をしてた豪族とかにいそうなイメージがあるから、それより前かもな」
「ふっ、やはり圧倒的な権力者の名前っすね、田中は!さすが全国4位の人数を誇る苗字っす!」
「圧倒的権力者とは言ってないが…田中が4位なんだ。1位はなんだろう?」
「ふふふ、お教えしましょう!1位は佐藤で2位が鈴木っす!」
「ああ、言われてみれば納得だな。3位は?」
「…まあ3位はどうでもいいじゃないっすか」
「なんでだよ。おしえてくれよ」
「…高橋っす」
「ああ…渋ってたのはそういうこと…」
「こ、これで勝ったと思わないことっすね!ぼくがやられても第二、第三の田中が高橋さんの前に現れるでしょう!」
「魔王かよ…」