表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/143

第98回の会議にて


「それじゃ、第96回ペイジブル会議を始めるぞ」




食堂にある長方形のテーブルを取り囲むように座った各々の顔……フェデルタ、ヨシミ、それからシアを見ながら、俺はそう宣言する。




この会議に参加するメンツは、基本的にこれに俺と、その後ろに控えるイチジクを含めた計五人だ。




この人選に特に意味はない。本来なら、軍事担当やら産業担当、民事担当とか、色々分けたほうがいいのだろうが、その辺はよくわからないし、面倒くさいから臨機応変に対応している。





すると、最初の俺の言葉に反論するようにその中の一人の声が聞こえた。




「第96回は、前々回にやったではないか。ナベ、覚えてないなら言う必要ないぞ?」





……ヨシミ、なかなかに無粋な奴だな。




「…………それじゃ、イチジクから近況の報告を頼む」




俺は、斜め前のフード少年を放って、若干後ろで両手を揃えて立っているイチジクの方を向いた。





「さすがはマスター。自分に非があるにも関わらず、ヨシミを無視するとは」




「そうだ、そうだ」




イチジクに同意するように、ヨシミが首を縦に振る。




そこで俺は、太陽が窓から差し込み、少し暑くなったのを感じて、レザージャケットの袖を捲りながら堂々と口を開いた。





「じゃあ、仮に今回の会議が98回だったとしよう……だったらなんだ? 96回と言っていたときと何か違うのか? お前、運動会とかの時、前で校長が『第〇〇回、運動会を開催します』とか言うやつあるだろ? あの数字が代わってても同じことを言うつもりなのか?」





俺は自分の間違いを正当化するために澄まし顔で、目を細めながらそう口にする。





「ゔっ……」





すると、ヨシミが椅子に座ったまま少しだけたじろいだ。





それと同時に、後ろからイチジクの声がした。






「そうです、ヨシミ。回数なんてどうでもいいではないですか? 96回も98回も同じです。さ、マスターに謝りましょう。謝れますね?」






彼女は俺の例え話がよかったからか、単にヨシミをいじりたいだけか、手のひらどころか、腕をひっくり返す勢いで、さっきとは真逆の立場をとる。





突然のイチジクの裏切りに、ヨシミが目に見えて慌てる。ヨシミは基本的におバカだ。俺とイチジクが真顔で正当性を主張すれば……






「え……? あ、ごめんなさい?」







この通り、素直に謝るのだ。







「うんうん、そのとりあえず謝る姿勢、嫌いじゃないぞ?」





そうしてヨシミを使って遊んでいると、呆れたような声が冷静に響く。







「主人殿にイチジク、ヨシミを使って遊ぶのはその辺にして、第98回の会議を始めてくれ」



「ふふふふふっ」






フェデルタの至極真っ当な意見を聞いて、俺は居住まいを正す。

流れでシアの方を見ると、彼女はいつものごとく微笑んでいた。






「え、遊ぶ……って、どういうことなのだ」





そこで、ヨシミも何かに感づいたように反応するが、やはりスルーを決め込んで、俺は会議を再開する。






「そうだな。じゃあイチジク、改めて頼んだ」




「はい」





そう返事をして、イチジクはコホンッと一つ咳をしてから報告を始めた。






「まず、カオスの件ですが、警備隊の駐屯地を中心とした町の復興は、終息に向かいつつあります。それに、カオスが死んだおかげで、始まりの森から無制限に資源を得ることが可能になり、町全体が潤ってきているのが現状です」





そうなのだ。カオスの騒動から数ヶ月経ち、季節も変わりつつある今、この町は来た時よりも良い状況へと変わりつつあった。



カオスへの脅威がなくなったことで、エルフと獣人が敵対することもほとんどなくなったし、足りなかった食料も始まりの森から調達出来るようになりつつある。

それに、ゴブリンたちが来てくれたことで人手も潤ってきたし、こちらに移り住んだエルフたちが働き始めたことで、町全体が発展しつつあるのだ。





「そうか、そりゃ、上々だな」





俺は、前に出されていたティーカップを口元で傾けながら話を聞く。






「そういえば、例の貿易の道の件、どうなってるんだ?」





少しぬるくなった紅茶を、一口飲み込んでから、イチジクに尋ねる。






ここで言う道とは、かなり前、マーチャンドと約束していた貿易ラインのことだ。


この町から、始まりの森からしか取れない資源と異世界の知識を、商人ギルドの長であるマーチャンドに与える代わりに、この町ペイジブルと王都イーストシティを繋ぐ街道を結んでもらう契約を結んでいる。





当時は、カオスの件もあり、食料を移入することが主な目的ではあったが、毎日新鮮な食料が手に入る今、正直それほど早急に話を進める必要もなくなってきてはいた。




まぁ、貿易路が出来れば、一層この町が栄えるのは目に見えてるからなぁ……





ぼんやりとそんなことを考えていると、イチジクからゆったりとした返事が返された。





「はい、その件でしたら完成間近だそうです。やはり作業員に獣人の力を使ったことが良かったらしく、通常の数倍のスピードで完成に向かっていると、マーチャンドから報告がありました」





「もうすぐ完成か、いよいよだな……」






俺がそう返してまたズズズッと紅茶を啜ると、イチジクが続きを話し出した。





「実は、それに伴ってこの国の王から、命令……というよりは、提案がもたらされているのですが」




それを聞いて、唇が自然と動く。





「王から提案……??」





この国の王……イーストシティの王と言えば、例の心を読むヴェリテ王に他ならない。





突然そんな大物が話に出てくると思わず、俺は首を回してイチジクの方を向いた。





彼女は、全員からの視線を感じ、一歩前に出る。






「今朝、イーストシティから使者がやって来まして、このような趣旨の連絡が来たのです」





そこで、イチジクは一拍置いてから再び口を動かした。





「今回の互いの町を結ぶ事業の成功の祝い、並びに今後の貿易路を通したお互いの発展を願って、ささやかな祭りでも開催しよう……というものです」





それを聞いて、その趣旨について思考を深める。




王が祭りを開催する主な目的は、恐らく後者……「今後の貿易路を通したお互いの発展を願って」の部分だろう。


この町、ペイジブルはここ最近鎖国状態だった町だ。路が出来たからといって、何があるかもわからない未知の町に、人々が自由気ままにやって来るわけがない。






「多分王は、この町で祭りをすることで、各地から観光客や商人を一気に呼び寄せる算段なんだろうな」





それに、イチジクが一つ頷いてからメガネをクイッとあげた。





「はい。初めての場所でも一度多くの人が来てしまえば、それ以降の人々はなんの抵抗感も抱かずにやって来るでしょうから」






そこで、俺はまた机の方……要は、イチジク以外の面々の方に体を直しながら、口を開く。





「そういうわけだが、文句のあるやつはいるか?」




右から順に、フェデルタ、ヨシミ、シアの方を見る。





「全く問題はない」



「いいと……思う」



「私はぁ、大賛成よぉ」





どうやら、この話は進めていく方向で承認されたようだ。




俺は分かったという意味を込めて、大きく首を縦に振ると、今度はイチジクに話しをふる。




「ちなみに、その祭りはいつ開催するように……とか、お達しは来てるのか?」





「はい、いまから約三十日後……ちょうど町道が完成する日をめどに二日間、開催するようにとのことです」






三十日か……これは学校の行事とかではない。町一つを巻き込んだ大行事だ。全くもって時間がないのは明白である。





どうするかなぁ……






と、悩んだところで仕方ない。俺は早速準備に向けて動き出す。






「今回の祭り……絶対に失敗するわけにはいかない。第一印象ってのはかなり大切だから、もしここで失態を犯すようだと、この町の幸先が怪しくなるからな」






机に肘をつき、少し前のめりになりながらも彼らの目を見る。






「特に軍事……まぁ、町の警備だな。これはしっかりさせないといけない。もし来た観光客が襲われるようなことになれば、この町の沽券にかかわる」






そう言ってチラリとフェデルタの方を向くと、彼女は自信満々ににやけた。





「なんだその目は? 主人殿は自身の町の警備隊を甘く見ているのか?」





「いや……そうだな、お前がいる限りは大丈夫か『殺戮の守護者』殿?」





このあだ名は、警備隊の連中がフェデルタに恐れと敬意を込めてつけたものだ。最近広まりすぎて、俺の耳にまで届いていた。





すると、それを聞いた瞬間、フェデルタの顔がみるみる赤くなり出した。





普段は見せない表情に、思わずクスリッと笑ってしまった。




彼女は、さっきまでの余裕をなくし、口をアワアワと動かす。




「な、な、な、な、な、な……なにを恥ずかしい名前を言っている!? そ、そもそも、誰のことだ!! 誰に聞いた!?」






もはやめちゃくちゃな言葉を聞きながら、俺は話を切り替える。






「いやいや、なんでもない。それじゃ、祭り当日、この町の威厳は任せたぞ?」





「くぬぅぅうう…………はぁ、承知した」





フェデルタも、もう触れたくなかったのか、悔しそうな顔をして引き下がった。






俺もフェデルタの面白い表情を見れたことに満足して、机から離れて椅子にその身を深く預けると、そのタイミングでシアが手を挙げた。





「あのぉ、警備はいいとしてぇ、祭りの具体的な内容はどうするつもりなのかしらぁ?」






うむ……具体的な内容か……





確かに、祭りと言うからには、何かしらの見世物やらイベントやらが必要だろう。






前世の祭りといえば、花火とか神輿とかか?





だが、二つとも現実的ではないだろう。花火はあんなものを作る技術がうちにはないし、神輿は、神様を祀るものであって、そうでないならばただただ重い荷物をみんなで持つだけの謎の行事になってしまう。






なら、浴衣祭りとか……か?


いやいや、浴衣を着るだけの祭りだ。そんなもの、この世界じゃ誰も盛り上がりはしないだろう。






そうして一人で頭を抱えていると、後ろからはっきりとした声が聞こえてきた。






「お悩み中のところ申し訳ないのですが、その案なら既に一つ、王の方から提示されていますよ」





「な!? 王から? どんな内容だ?」






俺が驚いてイチジクの方を向くと、イチジクはいつもの澄まし顔で淡々と言う。





「そのイベントとは、名付けて『vs.勇者』です」




「バーサス勇者? 勇者ってあの勇者か?」





なにやら聞き覚えのある単語が耳に入ってきたが、それを含めた情報の収集に努める。





「はい。マスターの言う勇者がどの勇者かは知りませんが、勇者と言えば、意味は一つしかありません」





勇者……その圧倒的な力で、人族の敵を根絶やしにする稀有な存在。

未だお目にかかったこともないが、その存在だけは前々から聞かされていた。





「……で? そのイベント……見世物ってのは、具体的にどんなものなんだ?」





イチジクの優しさのない言葉を受けて、さっさと話を進める。





「vs.勇者……その名の通り、勇者が戦う様を見世物にするのです」





勇者が戦う様を……?





「そんなもんで、本当に人はやってくるのか?」




「はい、それは確実かと。この世界に勇者はただ一人。そんな彼の戦いを見ることができるのなら、一目見ようと多くの観光客が訪れるはずです」






勇者が一人!?






そんなことは初めて聞いたが、それが本当なら、確かに多くの人がこの町、ペイジブルにやって来るだろう。勇者の姿を見るために。






「だが……本当にそんなすごい奴がこんな辺境にまで来てくれるのか? 開催を言いふらしておいて、当日来れませんでした。なんてことになったら、冗談じゃ済まないぞ?」







すると、さすがはイチジクだ。事前に来た使者にその可能性について問い詰めていたようだ。





「それも問題ないかと。どうやら今回の見世物の件、勇者本人から名乗り出たらしいのです」




「勇者本人から? そりゃ、なんでだ?」




「聞くところによると今回の勇者、この国に仇をなす魔族を片っ端から斬っているらしいのです。そして、ここは人の国と魔族領の狭間の地……一度様子を見に来るのも頷けるかと」





なるほど……そこはさすが『人族の』勇者様って感じだ。



国の敵は己の敵、国の願いを聞いて、力を持ってその願望を果たす。まさに勇者としての手本のような奴ではないか。






そこで、俺は目線をフェデルタに向けた。







「そうなれば、別の問題が出て来るわけだが……」






小さめの声で、顎に手を添えながら、ゆっくりと口に出す。






フェデルタと目が合う。






彼女は、その顔を歪めることもなく、相変わらずすらりと姿勢を正したまま、言ってのけた。






「私のことなら気にする必要はない。己のことは己でなんとかする。それに、もし私が同族を殺められたことを気にしていると思っているのならば、それこそ思い違いだ。今の私は主人殿の騎士、それだけなのだから」






「そうか……フェデルタ本人がそう言うなら、それでいい」






フェデルタならこう返してくれると内心わかっていた。それでも聞かないわけにはいかなかったのだ。






そうと決まれば、その見世物についてもう一度声をあげた。






「それで? 勇者と戦うって言っても、どうやって……だ? 戦うには相手が必要だと思うんだが?」






「はい、それならいるではありませんか」






そう言って、イチジクは黙ってイスに座る面々を見渡した。




……ん? いやいや、そんなのどこにいるんだよ……




まさか、イチジクのやつ……いや、そんなわけないよな?






俺は、ニッコリと微笑むと、イチジクに問いかける。






「そんなやつ、どこにいるんだよ?」





「あなたたちですよ、マスター」






ほうほう、なにやら興味深いことをおっしゃっておられるぞ? このオートマタさんは。




俺が戦う? 勇者と? この防御力だけで戦闘能力ゼロの俺が?





「はははっ、バカ言っちゃいかんよ、イチジク。俺たちが勇者となんて戦えるわけないだろ? なぁ、ヨシミたちもそう思うだろ?」





そう言って、俺は横に座るヨシミに話をふる。すると、いつになく饒舌に口を動かす。






「くっくっく……いよいよ、我が邪悪なるイビルソウルと勇者の聖なるホーリーソウルが……これは、反転するぞ? この世が、あの世が、全てが!!」






……あ、こいつはもうダメだ。






俺は、助けを求めるようにフェデルタの方を見る。






「……なんなのだ? 私は無理だぞ? そもそも警備で忙しい身、その見世物に参加するわけにはいかない」






真面目なフェデルタのことだ。こいつは、別に言い訳とかではないだろう。本当に忙しいに違いない……え、そうだよね?





そこですかさず、俺はシアの方にグインと首を回した。






「私も無理よぉ、出店の管理とか、いろいろしなきゃダメだしぃ……なにより、この足じゃぁねぇ?」






そう言って、彼女は車椅子に座ったまま、スカートをたくし上げた。


本来足があるべき場所には何もなく、スカートが揺れる。






む……






シアに足のことを出されると、なんとも言い返せない。彼女が足を失った原因の一端は俺にあるのだ。


どうしても後ろめたさがある。







では次に……いこうとしたが、ここにいるのはこれで全員だ。




俺は最後に、イチジクの方を見て肩をすくめる。






「……ヨシミがやるってよ? さて、これで戦うメンバーはきまっ「待ってください」」





このまま流れで押し切ろうとしたところで、イチジクに待ったをかけられる。





「……なんだよイチジク」




「……ヨシミが戦うのはいいでしょう。ですが、ヨシミだけですか? 戦うのは、ヨシミだけでいいのですか?」






「……やっぱり、ダメ?」






「リーダーが出なければダメでしょう。……確かにマスターは弱いです。恐らく勇者には勝てないでしょう。ですが、いいではありませんか。マスターであれば、勇者の攻撃の二、三発我慢すれば防げますよね? それを住民や観光客に見せてやればいいんです。それだけで、この町の長はすごい奴だ……そう印象づけることができるはずなのですから」







いつになく、イチジクが早口で俺に言葉の攻撃を浴びせかける。しかし、俺はそこで負けるわけにはいかない。






「な、なら……その考えを捨てて、希望制ってのはどうだ? 参加者自由、勇者に勝てば賞金がゲットできるシステムだ! ここで高額な賞金でもふっかけとけば、この町の財力が示せて俺の威厳も保たれるだろ!?」






己のためならこの町の微々たる金などくれてやる。それでも、俺は勇者なんて奴と戦いたくないのだ。




分かりきった負けは嫌だし、なにより痛いのは嫌だ。






俺が必死で絞り出した案を、イチジクにぶつけると、イチジクは少し黙って、「ふむ……」と息を漏らした。







そして、彼女は続ける。







「でしたら、それも採用しましょう。まずは参加者自由の決闘を行い、その後、ヨシミと……あとはマスターに戦ってもらうという流れで……」






そこで俺は、椅子から飛び跳ねて、立ち上がった。そのままくるりと方向転換し、イチジクに詰め寄る。





「待て待て!! それだと根本的な解決になってないんだが!? 俺、勇者と戦いたくない、これ、おわかり?」





「……マスター、離れてください。近いです。口から先ほど飲んだ紅茶の香りが漂ってくるほどに」





そう言われて、俺は荒くなっていた息を抑えつつ、一歩引いた。





「あのさ、マジで勘弁してくれない? 絶対にボコボコにされるとわかってて戦いに臨むほど、俺もドMじゃないんだわ」






「マスター、ここは潔くボコられましょう。やはり、この町のリーダーとして一戦くらい交えなければ、それこそ住人にどんな目で見られるか分かったものではありません」





……イチジクぅ





いくら説得しても折れないイチジクに、俺は縋るように泣きついた。正面から腰に手を回し、膝をついて懇願する。





「そこはなんとか……マジでやりたくないんだよ! 痛いのは嫌だ!!」




「マスター、ここは男らしく……」






俺が駄々をこね、イチジクが戒める。そんな一連の流れを繰り返していると、後ろから申し訳なさそうな声が聞こえてきた。






「あのぉ……でしたらぁ」






シアの声だ。






俺は、藁にもすがる思いでイチジクからシアへと目を向けた。






「領主様が、ヨシミさんと一緒に出場するというのはどうでしょうかぁ? 相手は勇者、二対一だからって、まさか卑怯だのなんだの言われはしないでしょうしぃ」







……シア、グッドアイディィア!!






「そうだ! そうしよう。最後に俺とヨシミでタッグを組んで、勇者と戦うってことでいいだろ!」




俺が承諾を得るためにヨシミの方を見ると、彼は「どのような形であっても、戦えるなら本望……」とのことらしく、オッケーをもらった。






さて、あとはイチジクさえ認めればいんだが……、





俺は、しがみついたままのイチジクの顔を見上げる。





「……………………はぁ」






このため息は……






「しょうがないですね、その流れでいきましょう。まずは一般参加者が戦い、最後にマスターとヨシミがタッグを組んで戦う……これで文句はないですね?」





「おう! 問題ない、完璧だ!!」






俺は、イチジクの気持ちが変わる前に、大きな声で返事をした。






ふっふっふっ……勝った、勝ったぞ!




これで勇者にやられる傷も半分以下になるってものだ。一人で戦っていたら、勇者の攻撃は全て俺に降りかかるだろう。しかし、二人だとわけが違う。別に傷つくのが俺である必要性はなくなるのだ。


試合開始のタイミングでヨシミの魔術の後ろに隠れてヒソヒソしてれば、ある程度の攻撃はヨシミが受けてくれるという考えなのだ。






我ながら仲間を盾に使うとは情けない……と思っている。そう、心の底からだ。


もしヨシミが女の子ならば、俺は率先して盾になったのだろうが、ヨシミは男。問題はあるまい。






「すまんな、ヨシミ」








俺はイチジクから離れて、元の椅子に腰掛けながらヨシミに謝る。

ヨシミはキョトンとしていたが、まぁここもスルーでいいだろう。







俺は、最後にこの会議のまとめに入った。





「じゃあ、期限も短いが、しっかりと間にあわせるぞ? この企画のまとめ役は……シア、任せた」






そう言ってシアの方を見る。






「はぁい、頑張るわぁ」







まったりしたその声に癒しを感じながら、次にヨシミの方を見る。






「お前はシアのもとで、異世界の祭りの知識を盛大に披露してくれ。屋台やら出店の食べ物やら、色々知ってるだろ」





「うむ……任された」






シアとヨシミによろしくした俺は、フェデルタの方を向いた……が、よく考えれば、フェデルタには警備の件でもう指示は出していると、イチジクの方を向く。







「イチジク、お前には『vs.勇者』の会場づくりを頼みたい。なるべく多くの者が観れるように……な」





「はい、承りました」






そこで、俺は立ち上がってから、この会議を締めくくるように、大きな声をあげた。






「じゃ、これで第98回の会議を終了する……解散!!」





「……やっぱり、98回」






これにて会議は終了した。ヨシミのつぶやきを最後にして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ