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真の戦い⑤


リューと別れた俺は、【巨大壁】を使って空高く舞い上がった。




「どうだ! ここなら届かない……こともないよねぇ!?」




空でさへ、安全域ではなかったようだ。


カオスは魔法で作り上げた岩の塊を、乱射してくる。





俺は、その岩を躱しつつ、進行方向の角度を少し上向きへと変え、そのまま一気に上昇した。




「これの操作にも慣れたもんだ」






そうして、カオスの真上に到達した俺は、巨大壁を解除し、別のスキルを唱える。




「【進化】スクトゥム!!!!」




それによって、上空に大きな長方形の盾が出来上がった。





それは、重力に従って、真っ直ぐに落下していく。





位置エネルギーは、運動エネルギーへと変換され、その運動エネルギーはいずれ衝撃へと変わる。





驚愕しろ、これが鍋蓋のヤケクソ攻撃だ!!






しかし、カオスは冷静だった。





小さな俺めがけて、的確に凝縮された魔法の弾を放ってくる。





……が、その程度で壊れるようなやわな盾ではない。






そして、俺はドラゴンに近づき……






……ガゴォォオオオン!!!!







捨て身の攻撃は、見事にカオスの背中にクリーンヒットした。






「みたか! これが、防御を捨てた盾の威力!!」





痛みをこらえながらも、カオスに当たってから落下した俺は、人の姿に戻って【レザークラフト】で作り出したレザージャケットをその身に纏いながら、高らかに言った。






「グルゥウフゥ」





しかし、その程度の攻撃では、ご満足召さなかったらしい。






カオスは、フルフルと頭を振って、こちらに突進してきた。





容赦のない巨体の突撃は、ちっぽけな俺を軽々と弾き飛ばす。





勢いよく景色が流れ、俺は背後にあった木に激突した。





ドカンッ……バキバキッ……





新しいレザージャケットが、血に染まる。





人が両手を回してやっと届くほどの太さの幹が、その衝撃で見るも無残に折れまがった。





「……ゴホッ……ハァ……ハァ……」





そのまま座っていたいという甘ったれた衝動を堪え、俺は立ち上がる。





頭から流れた血が目に入るが、それすらも気にしない。





「……ほら、あれだよ、あれ……俺が一発だから、お前もってことだろ?」





ほとんど感覚のない右腕を抑えながら、再びカオスに向き合う。





「なら、次は俺の番だな!!」




アドレナリンが分泌され、なんでも出来そうな気分になってきた俺は、勢いよく飛び出し、左手の拳を後ろに引きながら、両脚を交互に前へと進める。





……しかし、俺の番は訪れなかった。





そこからは、一方的な蹂躙へと変わったのだ。





俺の放った左手はなんの意味もなさず、カオスの硬い鱗に弾かれ、その勢いすら失う。




ならばと折れた刀を持って、カオスの目を狙うが、その前に腕ごと噛みつかれる始末……




痛みに叫びながらも、なんとかこじ開けて脱出する。しかし、そこに待っていたのは、多種多様な魔法のオンパレード




それに耐えると、次に起こったのは突然の地面の隆起。弧を描いて飛ばされた俺は、無様に転がりながら、呟く。




「……ははっ……ごほっ……本当に俺、弱えなぁ」






結局、リューが消えてから何にも出来ていない。




いや、それどころか、これからこのカオスを相手に何かできるとも思えない。




しかし、それでも俺は立ち上がった。







頭に浮かぶのは、カオスドラゴンのおぞましい顔ではなく、出会ってきたものたちの顔。






半魔族のアンに、ジャニーとジョニー……モブCなんてのもいた。王様にりんごやの主人……マーチャンドにも世話になった。

あの首を狙ってくる凶暴女のガレットは思い出したくもない。




この町に来てからも、たくさんの人に出会った。冒険者のマッソー、警備隊のコダマ、その夫にウサ……




それから、エルフのシル、シア、リン……龍帝にもここで出会ったな




身近なところだと、一緒に住む仲間……毒舌メイドのイチジクに、クールな魔族騎士フェデルタ、おバカな魔術師ヨシミ、それと、変態な元ペガサス、ペス




あとは、そう……初代龍帝にして、カオスの魂の半分……コダマの父ガウルの体を持つ男、リューを忘れてはいけない。







俺の体には、今、彼ら全ての命がかかっているのだ。





……だから、いくら傷つこうが、俺は立ち上がる。






「俺が死ぬのは一向に構わないが……あいつらが死ぬのは、どうも後味が悪いからな」






そうして、また俺はニヤリと笑った






「さて、根比べといこうじゃないか」





俺は走る。魔法による攻撃を、当たるか当たらないかの微妙なラインで走り惑い続ける。





速度を落とすと、魔法が直撃し、爆撃で飛ばされる。





そして、そこに容赦なく降る魔法攻撃……






「……はぁ……はぁ……」






そして、また俺は立ち上がる。







今度は、カオスに突っ込んで接近戦に持ち込むが、もともと武器のない俺に出来ることなどから限られている。






【巨大壁】(弾丸バージョン)を発動し、ドラゴンへとぶつけるが、それは全くと言っていいほどに意味をなさない。





カオスの鱗が固すぎるのだ。





カオスは余裕な顔をして、それらを防ぎ、その強大な爪を、俺に向かって振り下ろす。





ビュンッ!





風を切る音が、真横を掠める。






あれをもろに食らうのは、勘弁だ。





「まだまだやれるぞ……俺ぇ!!」










そして、そんなことを一時間ほど繰り返した時……







俺は、白目を剥いて、地面に転がっていた。





コヒュー、コヒューという空気の抜ける音が口から漏れ、かろうじて息をしている状態だ。





両足の感覚は無くなり、立つことさえできない。






うつ伏せになったままの俺に、巨大な足音が迫ってくるのが分かる。






さらに、俺の周りには、騒ぎを嗅ぎつけてか、俺の死体を狙ってか、たくさんの魔物が押し寄せてきていた。






グルルルゥ……

クルック、クルック……

ギギャギキキキキ……





今はカオスドラゴンが近くにいるから、茂みで様子を眺めているが、このドラゴンが消えれば、まさにハイエナの如く肉を狙ってやってくるだろう。






「……コハッ……ハァ……ハァ……」





口の中にあった血が、外に吐き出された。







もう……限界だ……







一時間も、SS級の攻撃を耐え抜いただけで奇跡なのだ。






これ以上は、もう…………







そんなことを夢現の間に考えている間にも、カオスの足音は迫り、いよいよ、それは俺の真横にまでくる。





うつ伏せだった俺は、その姿すら捉えられなかったが、カオスがその爪で、俺を仰向けへと変えた。









カオスは、俺の真上にいた。






カオスの生暖かい鼻息が顔に直撃する。






「グルゥウ……グルゥウ……」







カオスは、その爪で俺の体を押さえつけ、逃げられないように固定した。





爪が腹にめり込んで、中身がグチャグチャになりそうだ……いや、おそらくもうなっているのだろう。





きっと、両足も感覚がないのは、ボキボキに折れているからだ。







「……はっ、そんなこと、しなくたって……もう、逃げや、しないよ」







カオスの顔が、ボンヤリとしてくる。








ああ……俺、ちゃんと頑張ったよな?





今死んでも、後悔はしないよな?






一度死んだ時、俺は心に誓ったのだ。



もう、後悔のある人生は送らない……と





「こう……かい……」






その言葉を呟いた時、なぜか、町のみんなの顔が頭に浮かび上がった。





……いや、あのバカどものために死ねるんだ……これは後悔じゃない……達成感だ






そう、頭では分かっている。






きちんと自分の中でも理解は出来ている……






「そう言えば、彼女作るの、忘れてたな」






しかし、神はそれを許さなかったようだ。







もはや五体満足に動かない俺は、静かに訪れる時を待つ。










そして……












「グルゥウァァァア!?」







突然、カオスが雄叫びをあげた。





それは、威圧的なものではない。どちらかといえば、何が何だかわからず、驚いたような…………







それこそ、突然の痛みに驚いたような声。







カオスは、その原因を探るために、俺の胸に爪を押し当てたまま、首だけを上へと傾けた。






俺も、それにつられて空を見る。








……すると、空から大量の何かが降ってくるのが見えた。







……あれは……







真っ暗な空に、輝く無数の光。





それは、この暗闇を切り裂いて、新たな光をもたらす眩いものだった。








「…………ははっ、どうやら、俺は、まだ、この世界で善行を積む必要があるらしい」




俺はまだ死ねないようだ。






リューが、町のみんながやってくれたのだ。









「ギュルゥァアァァ!!」





カオスから、これまでにない悲痛の叫びが上がる。






その光の正体は、俺の町、ペイジブルからの遠距離攻撃だった。





その攻撃手段は様々だ。





カラフルな魔法に、巨大な矢、火で形作られた龍に、何か怨霊的なものを封じた火の玉……それから、見たことのあるビームなんてものまである。






それらは、この辺り一帯に降り注ぐ。






カオスは、攻撃が直撃するたびに、体を前後左右に振り回して、嫌がる。




その時、俺にかける足の圧が少しだけ弱くなった気がした。





「お……おっと……逃げる気か? そうは、させないぞ?」





俺は、さっきまではピクリとも動かなかった両腕を前に持っていくと、カオスの脚をガッチリと掴んだ。






「さぁ……制裁のお時間だ……一緒に楽しもうじゃないか」






辺り一面に響く爆撃音。





これは、俺がリューに頼んだ最後の約束だ。






「リュー、お前がみんなのところについたら、イチジクにこう言え! この毒舌付喪神、なんでもいいから全勢力で『お前のマスターのいる座標』を攻撃しろ! ってな」





さすがはリューだ……しっかりと約束を守ってくれたらしい。




 これは、イチジクのオートマタとしての能力の一つを利用した作戦だった。以前ウェスト大使館を襲撃した際にも使った、イチジクのもつ人の座標をマップ上で把握する能力をフルに活用したのだ。







カオスは、終わらない攻撃に、流石にまずいと察したのか、本気で抜け出そうとしてくる。





……が、それをやすやすと許す俺ではない。








俺は、最後の力を振り絞って、スキルを発動する。






「【挑発】! 敵さんっこっちらぁあ!!」






もっと、もっと大きな声で……!!






「手ぇっのなっるほうへっっつ!!」







パチンッ……!!







指同士を弾いたその瞬間……







「「「「ギルゥァア!!!!」」」」







周りで様子を見ていた、魔物どもが一直線にこちらに走ってきた。






魔法の雨の中を走る、そのどれもが殺気立っており、恐ろしい





……が、今の俺には同時に頼もしくも思えた。





彼らは、俺のもとへすっ飛んでくると、俺……と、その上にいるカオスに一心不乱に攻撃をしてきた。






初代龍帝の特徴……一つ、魔物が大の嫌い。見るだけで、攻撃衝動を抑えられなくなる。



二つ目……空を飛べない。高所恐怖症だから……







この二つが揃えば、カオスに逃げ場はない。






周りを魔物に囲まれ、逃げることは叶わない……し、ドラゴン本人もそんなことしないだろう。



それに、もし俺を振り払って逃げようとしても、高所恐怖症の飛べない彼に、逃げ場はないのだ。






「はっはっはっ! いいぞ、みんな! やれ! 全てを破壊しろ!! こいつを倒せるのはお前らだけだぁあ!!!!」





俺は、聞こえない仲間たちにその意思を託し、必死にカオスの動きを封じる。






俺の仲間たちの攻撃は、一向に止まない。






ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォオン!!!!




辺り一面、雨のように降り注ぐ魔法やら魔術による攻撃により、クレーターが埋め尽くし、火の海になっても、それはずっと降りしきる。





本来なら、あいつらのいる位置からこんな距離まで攻撃は届かないだろうが、これは現龍帝の力だろう。




なんせ、今の彼女は指輪によって、全ての力を魔力に全振りしている。






「俺をここまで飛ばせたから、彼女の協力があればいけるとは思ったが、ここまでうまくいくとはな!!」






その攻撃は、場にいる全員を襲う。






もちろん、カオスの下敷きになる俺も……だ。






俺は、高らかに笑いながら、カオスの目を見る。






「さぁ、テメェの負けだ、カオス! 一緒に朽ち果てようじゃないか!!」


















その日……




イスト帝国最北の町、ペイジブルにいた全員が、とてつもない量の経験値を手に入れた。






彼らのレベルは、一晩かけて上がり続けたという伝説まである。






それは、それほどまでに強力で、全員に経験値をもたらすような巨大な生物が、倒されたからだ……そこに住む、全ての戦士たちによって。


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