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真の戦い④


「ようやくって感じだな」




刀という失ったものは大きかったが、逆に言えば、それで済んだのは僥倖と言えるだろう。




「せやな、正直俺一人じゃ辛かったわ」




リューは、そう言って、くるりと反対を向いた。





「……その、なんだ! ありがとうな」




「おっ、なんだ? デレたのか? 男のデレとか需要ないぞ?」




「うるさいわ! なんで感謝の気持ちを述べただけで、需要ないとか言われなあかんねん!」




確かにケモミミは素晴らしいものだ。しかし、それにはそのケモミミを所有する女の子が必要不可欠なのだ。いくらケモミミでも、その正体がむさいおっさんとか、誰得でもない。




「なら、何なら需要あるんや? 俺がここから消える前に、俺の手の届く範疇ならやらんこともない」





「ん? リュー、どこか行くつもりなのか?」





 消えるという言葉に引っ掛かりを覚えて尋ねる。



「ああ、お前らにはこれ以上の迷惑をかけたくないしな……なにより、この辺りにはリウとの思い出がいやっちゅうほどある。忘れるためにも、ここから離れようと思とんねん」




「それで、最後に置き土産ねぇ」






いやぁ……そんなことを言われても……





リューは一方的に俺に感謝しているみたいだが、俺も俺で領主としてカオス討伐に協力してくれたリューには感謝しているのだ。




しかし、欲しいものか……





数秒考えて、答えはすぐに出てきた。




「……うーん、そうだ! よく考えたら、リューが初代龍帝ってことは、今の龍帝はお前の子孫ってことになるよな?」




すると、リューはその眉をしかめてこちらを見た。



「まぁ、そうなるけど、現龍帝と結婚させろとかは無理やで?」



「…………お前、いつから超能力が使えるようになったんだ」



「はんっ、お前の考えそうなことくらい分かるわ! 分かりやすい性格しとるからな」




「……やっぱりダメか」








はぁ……とため息をついた時、何か違和感を感じた。






「……なぁ、リュー、お前…………レベル上がったか?」



「はあ? 何やねん突然? レベルなら、戦う前と変わってない…………で」





そこで、リューも俺と同じ違和感にぶつかったのだろう。真剣な目をして、俺の目を見てきた。





「……確かに、カオスほどの敵を倒したんやから、経験値が入ってレベルアップせなおかしい」




経験値は、それが倒された時に初めて得られるものだ。





それが得られていないということは……





答えは単純だ。







「……リュー! 気をつけろ、まだカオスは生きてるぞ!!」






そう叫んで、あたりを警戒した瞬間……









……ザクリッッ







そんな音がリューの方から聞こえてきた。







「……ゴフッ」






早まる心臓のリズムを聴きながら、すぐにリューの方を見る。







リューは、こちらを向いて立っていた。





その顔は驚きに満ちていて、本人も訳がわかっていないのだろう。




しかし、俺の瞳には現実が写り込んでいた。





リューの胴体のちょうど中心……そこから、鋭い何かが、どす黒い血にまみれながら出ていたのだ。






「……あ、ぁあ……あっ……あぁ……」






声を出そうとするが、喉から出るのは声にならない、弱々しい何か





リューの腹に、後ろから突き刺されたものは、何かの爪らしかった。





その爪は、たった一本だったが、深くリューに抉りこみ、貫通したのだ。






すると、リューが血を吐きながら、やっとの事で口を動かす。






「……に……げろ……シル、ドー……」





何か言おうと口を動かすが、パクパクするだけで、何も声として出てこない。






足の力も抜け、体が地面にヘタリ込む。





心臓が危険を知らせるアラームのように、その速度を上げていく。





逃げなければ…………死ぬ






しかし、ここで逃げれば、リューが死ぬ






いや、逃げなければ二人とも……死ぬ






「に、逃げないと……逃げ……」





その時、リューの体が、左に投げ捨てられた。




そして、あらわになるリューの奥にいた化け物の姿。






それは、ドラゴンだった。





凶悪な眼を持ち、交差するように生えた鋭い牙が、こちらの恐怖を煽る。



それの左側の三本の指は、リューの血によって赤く染まり、こちらに向けて、大きな翼を往復させた。






「グゥゥォォオォオオオオオオァァァアァァァア!!!!」







空気を切り裂く咆哮が、あたり一帯を掌握する。


木々はそれだけで揺れ、大地に転がる岩が割れた。





俺は、反射的に両耳を閉じて、蹲っていた。






やがて咆哮はおさまり、あたり一帯に信じられないほどの静寂が訪れた。





「……逃げ、ないと……」






本能の訴えに従って、俺は無理やり体を起き上がらせる。





ドラゴンは、そんな俺を上から見下すと、その周囲に、大量のエネルギーの球を作り出した。




そして、ジッとこちらを見たまま、その魔法の球を次から次へと、マシンガンのように発射してくる。





「……ぁぁああああああぁぁあああ!!」





俺は、走った。それの直撃を避けるために、【巨大壁】を背に展開して、それを盾としながら、がむしゃらに走った。





なんどもつまずき、その度に立ち上がった。






ただひたすらに、地面に転がるリューのもとへ







「リュゥゥウ!! ここから逃げるぞ!!」






リューからの返答はない。聞こえていないのか、返答できないのか……





どちらでも構わない。





俺のすることは変わりないのだから





そして、何度も攻撃を受けてボロボロになりながら、俺は何とかリューのもとへと到着した。






「……はぁ……はぁ……、おい! 起きろリュー」





そう言って、うつ伏せだったリューを仰向けにする。





リューは、なんとか息をしていた。






吐血し、腹からもとめどなく血を流していたが、なんとか生きていたのだ。





彼は、眉をひそめて、苦し紛れに口を開く。







「このバカ……走る方向が、間違っとんねん……ハァ……ハァ……今すぐ、回れ右して、遠くに逃げろ……」






「間違ってるのはお前だ!! リューも一緒に逃げるんだよ」






そんな会話をしている間にも、ドラゴンはこちらに近づき、巨大壁にぶつかる魔法も威力を増していた。





「いいか……よく聞け……あれが、あれこそが俺の……初代龍帝の本当の姿なんや」



「そんなもん、大体予想できてんだよ!」



「あの姿の俺に……弱点はない」





弱点がない……そんなことがこの世界にあるのか?




この世界では、大きな力には何かしらの代償があったはずだ。





……が、確かに見たところ、奴に弱点はない。





「なら、それこそ早く逃げないと……」




「無理や……この怪我じゃ、足手まといになる」





そこまで言って、リューは寝転んだまま、俺の胸ぐらを掴んだ





「……すまんが、俺はここまでや……早よ逃げろ……そんで、身近なもんを連れてどっか遠くへ……」





そこで、リューは再び力なく手を下ろした。







ズシンッ……ズシンッ……






ドラゴンの……カオスの足音は、次第に近づいてくる。






逃げるなら、早く逃げなければ……





しかし、リューを置いてか?





確かに、逃げる時に手負いのリューがいては、逃げ延びることは難しくなるだろう。





ならどうするか……







悩むまでもなく、答えは決まっていた。







俺はここまで、人のためによく戦った。今回リューを逃すのもそのひとつだ。





閻魔様も、ここまで善行を積めば、あの世で天国に行くのを許してくれるだろう……






だから……選ぶ選択肢はただ一つ。






「おいカオス……俺は、もう善行を積む必要がないんだよ……」





そう、つまりはもうこれ以上戦う必要がなくないのだ。







「……だから、お前は、俺の天国行きのチケットになってもらうぞ?」





そう言って、俺は巨大壁を解除した。





善行を積む必要かないから、戦いから逃げる?




いや、違う。善行を積む必要がなくなって、天国行きが確定したから、さっさとやられて死ぬのだ。







俺の後ろで、リューが驚きに満ちた声を上げる。





「シルドー! お前、どういうつもりやねん!!」




「どういうつもり……? 簡単に言えば、俺がこいつを倒す。たがら、お前が逃げろ。お前が逃げることとこいつの息の根を止めることで俺の善行が達成されるんだよ」





このままいけば俺の天国行きは、安泰…………だと、思う。たぶん。だから、俺は別にここで死んでも問題ないわけだ。




俺としても、さっさと死んで天国で楽したい。





……最後に、こいつを倒せば、俺の天国行きも確実……やるしかねぇ」






そう言って、無理矢理にでもニヤリと笑う。




リューは、何を言っているのかわかっていないようで、黙り込んでしまった。






「何も考えなくていいから! さっさと行け、リュー!!」




「何言っとんねん……行くなら、お前が!!」




「それじゃぁダメだ! もしここで、リューを置いて俺が逃げても、どのみちこのカオスに世界は崩壊させられる」




「や、やけど、少なくとも今死ぬ可能性はなくなるやろ!」





こいつも、もの分かりが悪い……





「いいか? お前が逃げるのは、カオスを倒す作戦の一つなんだよ! だから、今すぐに逃げろ!! ここを足止めできるのは、無駄に丈夫な俺だけだろ!!」





そう言って、迫り来る魔法を素手で殴り返す。






それから、俺は大声で一つだけ……たった一つだけリューに願いを託した。




「リュー、聞けぇええ!!!」




 その後、作戦を伝えた俺は、落ち着いたトーンで告げる。





「……じゃあ、頼んだぞ? リュー」





唯一の作戦をリューに伝えた俺は、リューとは逆の方向に駆け出した。






「ほら、こっち来いよ、ザコドラゴン!」






カオスは、ちょこまかと走る俺を追いかけて、こちらに体を向けた。




その巨大な手足を動かし、魔法を撒き散らしながら俺の方に迫り来る。





「ほんと、俺はとことんドラゴンに縁があるな」





己の悪運を呪いながら、俺は走った。





「死ぬなよ」





という言葉とともに、去りゆくリューの背中を横目に見ながら。






「さぁ……最終ラウンドの開始だ!!」





そう言って、武器も持たない俺は、腕を組んで仁王立ちした。

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