真の戦い①
「ってことで、シルドーに合流したねん。正体を隠しとったのは、もし俺が実はカオスで……なんて話し出したら、話も聞いてもらえんと殺される可能性があったからや」
リューの話は長かった。そりゃ、数百年に渡る冒険譚を聞かされたのだから、長くなるのは必然的だろう。
にしても……
重いよ! 内容が重すぎる!!
なんか、リウって人のことを話すときは、やたらとにこやかな顔になってるし、その分、死んだ時の話をするときは、何ともいない悲しい顔をしてるし!!
「だがそうか……リューは転生者で、何より初代龍帝の魂を持つ者なのか……」
リューの話をまとめると、リューは江戸時代から来た転生者で、初代龍帝となった。そして、死後はその魂の半分をカオスに持っていかれ、もう半分の善の感情が俺の前に立っているということなのだ。
もれなく、コダマの父であるガウルをその体として。
でも、今の話を聞けば、エルフの森で見た和風の建築物や、龍帝の着物にも納得がいく。
「そうやな、ちなみに、この身体の持ち主……ガウル? って言う奴とは、話したこともないんや」
なるほど、だからこその浪人笠か……
肉体が獣人である以上、この町にその肉体の持ち主の知り合いがいる確率は高い。死んだ者が復活したと勘違いされるよりは、姿を隠していた方が賢明だと判断したのだろう。
「それが、まさか、あの獣人ちゃんの父親の身体やったとわなぁ……あとでちゃんと説明して謝っといてか?」
「やだよ、自分で謝れ」
「…………それは、俺には無理やろな」
「なんだ、怒られるのが怖いのか?」
「まぁ、それもあるんやけど……俺はアレに殺されるからや」
アレ……そう言いながら、リューは例の大樹の方に向けて、人差し指を立てた。
ミシミシミシ……
木のしなる音……いや、木を引き裂く音といっても良い。それは、視覚を通して目に飛び込んでくる。
目の前の大樹の中心、そこに縦に亀裂が走ったのだ。しかし、それはカオスの終わりを連想させない。むしろ、何かこれから起こる最悪を予見しているかのようだった。
「……そう言えば、さっきから森の動きが止まってるな」
リューが話している間、俺たちは木にも、水にも、岩にも襲われていなかった。
「……せやな、まぁ十中八九、森が全身全霊でアレ一つを生み出そとしたからやろな」
ミシミシミシミシッ……
そんな音とともに、亀裂から人間のものと思われる手が出てきた。
「……人?」
それは、狭い亀裂を広げるように、木を左右に押しのける。
ミキ……ミキッ、ミキミキッ……
そして、ソレは顔をのぞかせた。
なかなかに整った顔立ち、その目に生気はなく、どんよりとした雰囲気を醸し出している。
「おい、アレって……」
次第に、その姿が明らかになる。
それは、もはや人……と呼ぶには、化け物と成り果てていた。
右腕は、人のそれではなく、木の枝がグルグル巻きになって、手の形を形成しているようだ。
かろうじて保たれている服は、ほとんどその意味をなしていない。
そして何より、ソレから滲み出る、全てが憎い……全てを破壊したいという、負の感情。
「……もしかしなくても、あの人の形をしたものが核ってことでいんだな?」
「……察しがええやないか? そう、アレこそ『初代龍帝』の肉体……まぁ、かつての俺の肉体や。ほんで、今カオスの中心となっとる部分とも言えるな」
やっぱり、これからアレを倒さなければいけないらしい。
リューは続ける。
「シルドー、お前ほんまにやるんか? 間違いなく強いで? 俺はお前にそこまでの善行求めてないんやけど」
善行、善行か……
たしかに、あいつと戦うのは、いくら善行を積むためといっても、割りに合わないだろう。
だが、まぁ今回は……
俺は、若干ニヤケ気味に答える。
「やるぞ? 俺は」
「なんでや?」
理由、理由。理由なんていくらでもある。
「そうだな、俺はイケメンが嫌いなんだ。んで、あいつは、それに分類される。だから、なんの抵抗もなく殺せる」
そう、奴が、元初代龍帝がイケメンだからだ。
すると、それを聞いたリューが笑う。
「……ははっ、お前はホンマにおもろいやっちゃな。元はと言え俺の肉体を褒めてもらえて光栄やわ」
「そりゃどうも」
俺は、それだけ言うと、イチジクに教えてもらった掟、先手必勝をかますために、刀を引き抜いた。
「それじゃ、いくぞ……リュー」
「ああ、お前には迷惑かけるな……シルドー」




