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夜、王城にて①


空には無数の星が輝き、多くの生物を眠りへと誘う。



しかし、イーストシティは王都ということもあり、街全体が夜でも明るかった。安い酒場には冒険者たちの愉快な声が響き、路地裏ではガラの悪い男たちがたむろをしている。





そんな街を見下ろす、イスト帝国の象徴とも言うべき王城。




今、そこにの城内に怪しい四つの影があった。その影は廊下の壁に体を預け、なるべく目立たないようにしながら横歩きで進んでいる。






彼らは皆、目隠しするように怪盗の仮面をつけており、誰であるのかその顔を認識することはできない。







声がした。



「それで、シルドー? その宝物庫ってのはどこにあるのよ?」


「ちょっとぉ、この仮面ズレちゃうんだけどぉ」


「……。」






こいつら、うるさい……




「黙れお前ら! これから泥棒するって分かってんのか!?」



「うるさいわね! そういうあんたが一番大きな声を出してるじゃない!」



って言うお前の方が……とは思ったが、俺はそれを喉の奥に引っ込める。そして、切り替えて話し始めた。




「宝物庫の場所なら、俺もよく覚えてない……おおよその場所なら分かるんだけどな」



なんたって行ったことがあると言っても一度だけ、しかも案内があった上での話だ。


ただでさえだだっ広くて迷子になりそうな城内、正しい場所など覚えていない。






「何よそれ! ほんっと使えないわね」



「仕方ないだろ、俺だってな……」





その瞬間、俺はシルの方を向いて、人差し指を立てて口元に持って行った。


いわゆる『しーっ!』のジェスチャーだ。






その合図で、俺の後ろに続く三人が反応して静かになると同時に、身を低くした。







静かにさせたのにも理由があった。





曲がり角の先、そこからこちらに向かって騎士団と思われる二人が歩いてきたのだ。





何やら楽しそうな話し声が聞こえる。






「……に半魔の英雄様って可愛いよなぁ」


「おっ、お前もようやく分かるようになったか?」




曲がり角で身を隠す俺たちに、足音が聞こえ始めた。次第に二人の喋りごえも大きくなる。






ガチャリ……ガチャリ……






鎧同士の擦れる音が聞こえる。





俺は、刀を少しだけ抜いて、いつでも攻撃できる状態にした。





バレるなよ……






次第に心臓の音も早くなってくる。








そして、長く伸びた二人の影が目の前に現れ……









彼らは曲がり角で屈む俺たちに気づかずに談笑しながら、真っ直ぐ歩いて行った。






ふぅ……バレずに済んだ





「よし、三人とも大丈夫だぞ! あいつら、お喋りに夢中で気づかなかったみたいだ」





俺は後ろを振り向きながら、小さな声でそう言う。




このような危機的状況、ここに来てから何度もあったが、何とか誤魔化して(相手を眠らせるのが誤魔化せたと言うのなら)ここまで来ていたのだ。





「ふぅ、早く宝物庫見つからないかしらねぇ」





シアも度重なる緊張感に、疲れ始めたようだ。



ため息を一つ吐き、眉をしかめる。





ここは、みんなが元気になるように、励ましてやろう!





「元気出せよ、俺の記憶が確かだとこの辺だったはずだから!」









……と宣言してから三十分。






「よ、ようやく見つけた……」




俺たちは、以前に見たことのある豪華絢爛、大きな扉の前に来ていた。


その左右には人の三、四倍の大きさはある西洋風の鎧が立っていて、俺たちを見下ろす。





その鋼の胴体からは威圧感が感じられ、まさに威風堂々と言った面持ちだ。






……が、そんな凄いものがあっても、シルの視線は俺の方を向いていた。






「あんた、何がもうちょっとよ! 全然違う場所じゃない」





シルがそう言って怒るのも無理はない。


俺がこの辺りだと思っていた場所は、全くの見当違いで、結果的にここに来るまでに何度も戦闘になったからだ。







しかし、悪びれもせずに俺は言った。




「細かいことはきにするなよ、ハゲるぞ?」


「ハゲ……!? 乙女に何てこと言うのよ!」




俺としてはこのままシルと言い合いをしても良かったが、ここに来るまでに結構な騒ぎを起こしている。




騎士団が武装して押し寄せてくる前に宝を盗んで逃げるのが賢明だろう。






「さて、指輪を貰いに行くとするか」





俺たちは、二つの鎧の前に立った。





シルは魔法を浮かび上がらせ、シアも大きな弓を構えている。






「それで? 作戦はあるんでしょうね」



「ああ、俺が中に入って指輪を取ってくる。その間、この馬鹿でかい鎧の牽制を三人には頼む」





盗み出す方法なんて、単純明快。


俺が宝物庫に入って宝を奪う。そして、三人には出口の確保を頼んでおき、そこから脱出しておさらばだ。





「りょうかぁい、私たちは領主様が出られるように、ここでドンパチやってればいいのねぇ」



「その通りだ……頼んだぞ!」






俺はそれだけ言い残すと、宝物庫の黄金の門へ向けて走り出した。





後ろに仲間がいるからか、不思議と恐怖心はない。ただただ、走ることに全力を注ぐ。






確か、あの重い扉を開けるには、巨人鎧の力が必要のはずだ。



頼んで開けてくれればいいが……






俺と扉との距離が残り四十メートルへと迫った頃……





……キュィィイン





巨大鎧の目のあたりの位置が赤くひかり、その体を動かし始めた。






それと同時に、ドスの効いたくぐもった声が響いた。





「シンニュウシャ、ヲ、カクニン……ハイジョスル」






鎧たちはそう言って、背後からその背丈ににあった巨大なハンマーを取り出した。






やっぱり、すんなり扉を開けてくれるわけないよなぁ






「出来るもんならやってみろ」






刀を抜いた俺は、その鎧たちに斬りかかる……






こともなく、迫り来る巨大なハンマーによる攻撃をかわしながら、門の前へ向かう。







「お前の相手は俺じゃない!」




そんな俺の言葉とともに、後ろから無数の魔力の塊が飛んできた。 それと一緒にシルの大声も聞こえた。





「私たちよ!!」







走る走る走る……


時々目の前にハンマーが振り下ろされて、廊下が抉れる。





あれを食らったら流石に気絶は免れないな






それでも足は止めない。



前の床が崩れたなら左へ右へ、時々つまずいて転びながらも、俺は進む。






そして……






「うるぅぁぁああああ!!!!」







扉の前まで到達した俺は、刀をむやみやたらに振り回した。





普通なら、こんなチャンバラごっこのような攻撃はこの扉に意味をなさないだろう








……が、こちとら鍛え抜かれた最強レベルの刀だ。








ガタ……ゴトンッ……ガラガラガラ






俺の前にあった、厚さ一メートルほどの扉は見事に破壊された。






ちょうど、人が一人通れるほどの穴を開けた俺は、そこに滑り込む。







「ハァ、ハァ……侵入、成功!!」





いつの間にか流れていた頬を伝う汗を、袖で拭う。転がるようにして入ったから、服のあちこちが瓦礫に引っかかって破れていた。







さて、確かあの指輪は不良品……イチジクの体があったあたりだよな





俺は、記憶の限りそちらの方に進む。






「くそっ、暗くてよく見えない」






そんな悪態をつきながらも、手探りで指輪を探す。泥棒なんて体験、したことがなかったから緊張で手の平から汗が止まらない。





心拍数が上がってきているのを自覚する。





これは、トロフィー? いらん! ツボ? これじゃない! コイン? 欲しい!






……が、必要ないものを取ったら、領主に戻れない気がしてその手を離した。




どこに……ん?




その時、鈍い光が目に入り、明らかに指輪の形をしたその何かを手につかんだ。





「これか……?」



俺は、自分が切り崩した扉から漏れ出る光に指輪らしきものをかざす。





そこにあったのは、なんの飾り毛もない銀の輪っか。






「これだ! 間違いない」






それは、間違いなく例の指輪だった。あの時、オートマタと出会うまでは、これにするつもりだったからよく覚えている。






この指輪を手にしたのなら、もうここに用はない。俺は、曲げていた足を伸ばして、唯一光の漏れる場所に走る。時々、ガラクタが足に当たったが、それで止まるわけにはいかない。








そして、ついにその光のもとまで辿り着き……








「盗んだぞ! あとは逃げるだけだ!」







俺は、そんな叫び声とともに宝物庫の外に飛び出した。


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