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徹夜明けの朝にて



「ほんと、何だったんだ? ヨシミのやつ」





そんなことを言いながらも、俺は【レザークラフト】で作れるものを作っていく。




服にズボンに、カバンに財布……その細工が細かくなるほど、失われる体力も大きくなっていった。





コンコンッ……






部屋をノックする音が聞こえる。

恐らくこれはイチジクだろう。昨日、日が沈む前から定期的に来ては制作物を回収していったのだ。





「開いてるぞ」


「失礼します」





扉を開けて入ってきたのは、やはりメイド服を着たイチジクだった。





「イチジク、お前ちゃんと寝たのか?」





俺は昨日の夜中、しばらくの間記憶がないことから寝ていたと思うのだが、イチジクは少ししたらすぐに様子を見に来ていたのだ。こいつが寝ているかは謎だ。





「はい、私は電源をオフにすればそれだけで熟睡できますので」



「そ、そうか……便利な体だな」



「それより、さっきヨシミが来たようですが?」



「あぁ、この部屋の物音で起きたみたいだな」



「そうでしたか……これであの子も……」







そう言ってイチジクは【アイテムボックス】で散らばった革の品を集めていく。




「まあとにかく、これで俺の仕事も終わった! これだけ作れば大丈夫だろう」



俺がそう満足げに頷くと、イチジクが提案してくる。




「これからどうしますか? 仮眠でも?」




しばらく考えてから、俺は答えを出す。




「いや、ここで寝たらそのまま一日中寝てそうだからな。風呂に入ってそのうち来る騎士団を迎え入れる準備をするよ」






そうと決まれば、さっさと風呂に入る準備をしよう。

俺はかけてあったタオルを引っ張ると、それを持って部屋を出る。





「そう言えば、先程リンが戻ってきましたよ」





俺に続いて出てきたイチジクが、後ろでドアを閉めながら報告してきた。





「そうか、ちゃんと貰ってきてたか?」



「はい、始まりの森でしか取れない食べ物や魔石となる原石、あれなら商人ギルド長もこの地域に興味を示すでしょう」





それは、なかなかに上々じゃないか




「じゃ、それはひとまず俺の部屋にでも入れといてくれないか?」



「承知しました」





この会話をし終わるタイミングで風呂の前にまで到着した俺は、イチジクにそうお願いして、自らは『ゆ』と書いた暖簾をくぐる。






すると、その俺に続く形で何者かが暖簾をくぐった。






俺は、脱水場を前にして立ち止まる。





「おい、イチジク、何でお前まで入って来てるんだ?」


「おや? 何かおかしな点でも?」





この付喪神は……こっちは徹夜明けで疲れてるってのに、相変わらずちょっかいを掛けるのがお好きなご様子で……





「おかしな点しかないだろ? 俺は今から風呂に入るんだぞ、何で脱水場までついて来てるんだ」



「いえ、お疲れのご様子ですし、お背中でもお流ししようかと」




「それは非常に魅力的な提案だな……だけどそれはまた、次の日が休みの夜にお願いするわ」




「では、お脱ぎするお手伝いだけでも」







そう言って、イチジクは俺のズボンを脱がしにかかる。




「おい! 強引なのは別に嫌いじゃないけど、これはなんか違う!!」




俺はイチジクの魔の手から、己の貞操を守ろうと必死で抵抗する。




「いいから! 俺のことは構わなくていいから!」




そんなやりとりをしばらくした後、諦めたイチジクは立ち上がった。




ふぅ……なんとか俺の純潔は守られたようだ




一人、勝利の余韻に浸っていると、真剣そのものの顔をしたイチジクが立っていることに気がついた。





その顔を見ると、イチジクは綺麗な唇を動かす。





「……マスターは無理をしすぎです。変態な間抜けなキャラでいたいなら、ちゃんと徹底してください」




そう真面目な表情で言った彼女の顔には、少しばかり悲しそうな憂いを感じた。




「おい、そもそも俺は変態な間抜けキャラになった記憶が無いんだが?」





しかし、そんなシリアス御構い無しに俺は根本をつく。





「そうでしたか?」





こいつ……





「はぁ、もうそれでいいよ……早く出てってくれ」





俺の呆れ声にさすがに懲りたのか、イチジクは一礼して暖簾の向こう側に向かって進む。





「この俺が無理をする訳ないだろ」





その声はイチジクに届いたのか、届いていないのか、俺には判断しかねるが、脱水場を出る彼女の足取りは入る前より良くなっているように感じた。




それから朝風呂を堪能した俺は、さっと身支度を済ませて、一階の食堂に降りて来ていた。





「さて、ちゃっちゃと作りますかね」




そう言った俺の前には、卵、塩、お酢……に似た液体。それに、その他諸々の調味料が所狭しと並んでいた。




まずは卵をボウルに割って……




そんな調子で鼻歌を歌いながら料理をしていると、後ろから突然声をかけられる。




「ナベ、それはまさか!!」


「うわ! なんだ、ヨシミか」




驚いた反動で落としてしまったスプーンを床から拾い上げて水につける。




「それ、それマヨネーズか!?」


「そうだけど、あんまり大きな声を出すなよ……徹夜明けの頭に響く」





そう言うと、少し気まずそうように見えたが、すぐにも元の元気を取り戻して食いついてくる。





「これは朝飯で出すから、ちょっと待ってろ」




こうは言ったが、もとより今朝のご飯のためだけに作ったのでは無い。この異世界料理の素晴らしさをイーストシティにいるマーチャンドに知らしめる。

すると、奴は金の匂いにつられて、作りかたを知りたがるであろうという戦法だ。






問題はこの味がこっちの世界の人たちにも通用するかだが……








太陽も東の空に輝き、早朝とは呼べなくなったころ、館に住む五人は食堂に集合していた。





「みんなおはよう、そしてリン、お疲れ様。あれだけあれば十分だ」



「……。」




相変わらず無言だったが、エルフの彼は軽くお辞儀する。





「さて、今日はみんなに食べてもらいたいものがある」





そう言うと、俺はパンにスープ、それにサラダを準備して、その隣にさっき作ったマヨネーズを添えた。





「主人殿、このサラダの横にある白いドロドロしたものは?」





「それが、食べて欲しいっていうマヨネーズだ。サラダにつけてもそのままでも、とにかく感想を教えてくれ」





その見た目からか、フェデルタは少し眉をひそめた。

しかし、他でもない俺の頼みからか、恐る恐るスプーンをマヨネーズに伸ばす。





イチジクは、フェデルタを実験台にする魂胆なのだろう、フェデルタの様子を横目でじっと見ていた。





こいつ、オートマタのくせに味にこだわるとは……





「……ふぅ、よし!」




フェデルタは意を決したのか、カプリッとスプーンに食いついた。





どうだ!?





俺は反応が気になって無言でフェデルタの様子を観察する……すると、それは口に入れてすぐのことだった。





「うまい!! 美味いぞ! マヨネーズ!」


「そうか、良かった……」





その言葉を合図にして、イチジクとリンが同じように口に運ぶ。



その後、三人とも気に入ったのか止まることなくサラダとマヨネーズの間をフォークが行き来していた。




ヨシミはと言うと……





「ナベ、マヨネーズ美味いぞ。おかわり」





こんな調子で颯爽と自分のマヨネーズを片付け、俺にお代わりをせがんでいた。




「別に、地球人のお前の感想は聞いてない」




まぁ、でも料理を褒められて嫌な気はしない。昼に備えて大量に作っておいたマヨネーズからスプーン数配分をよそうと、ヨシミに差し出した。






「ナベ、ちょろいな」


……こいつ、あとでお仕置きだな





そんなことを思っていると知りもしないヨシミは、満足げに食事を再開する。











それから、みんなが食事を終えたタイミングで、玄関のドアを叩く音が聞こえた。





「私が見て来ます」





そう言って、イチジクは立ち上がると部屋を出て行った。





「もう来たのか? まだ八時くらいだろ?」


「たしかに、来るには早すぎるな」





俺の言葉にフェデルタが口を上品に拭きながら同調する。





すると、すぐにイチジクが食堂に戻ってきた。





「どうやら、騎士団はあと一時間後くらいに到着するようです。今来たのはそれを知らせる騎士団の一員でした」





ん? そんなことを知らせるほど大人数で来ているのか?





まぁいい、今はその既にやってきた騎士団だ。





「それで、その騎士団員は今どこに?」



「応接室で休憩しています」





ほう……では、味わってもらおうじゃないか! イスト帝国最北の町、ペイジブルの本気を!!






「マスター、これから幼女にいかがわしい事をしようとする者の顔になってますよ」



「どんな顔だよ! もういい、やるぞ!」

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