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夢の中にて③


 数秒前、心臓を貫かれ……




 既に無傷となったインバスに向けて、一言呟く。




「無敵かよ……」





 夢の世界では、どうしてもこいつに勝ち目はないらしい。




「ええ、無敵よ?」




 目の前から返事が聞こえる。




 背中の岩をどかすこともできない俺は、顔だけ目の前にいる敵……インバスに向けた。





 諦めムードの中。



 インバスの先には、まだ諦めていない男が一人いた。





 あいつ、これを見てまだやるか……





 そこにいたのは、一直線にこちらに突っ込んでくるブラッド。




「なら、何度でも殺すまでだよ」




 彼は血をマシンガンのようにインバスに向けて放つ。





「もう、しつこいわね」 





 腹に無数の穴を開けながらも余裕ぶったインバスは、ブラッドを見ることもなく指を鳴らした。





 瞬間、インバスとブラッドの間に何かが生まれ……いや、産まれた。

 




 「それ」は、俺がここ最近毎日見た存在だった。





 「それ」の出現とともに、ブラッドの攻撃が止んだ。普段冷静なブラッドも、目を大きく開いて「それ」の目の前に止まる。






「インバス、流石にこれは趣味が悪くないかい?」





 インバスに向けて攻撃をすることをやめたブラッドは、「それ」の前でそうぼやく。






「ああ、俺も同感だ」


 岩の下からそう苦笑いする。






「それ」……それは、紛れもなくブラッドの妹。


 そして、俺の仕える主人。


 ベリーだったのだ。


 それも、見た目においては本物と一切の差異もない。





 彼女をこの世界に作り出したインバスは首を傾げる。






「あらブラッドちゃん。あなた、やっぱり止まっちゃうのね」





 そりゃあ、ブラッドは妹のために人間領に侵攻するくらいにはシスコンなのだ。その妹と瓜二つの存在が突然目の前に現れたら、流石に攻撃できないだろう。たとえそれが偽物だとしても。





 皆の動きが止まったその時、ベリーだけがその場から動いた。





 ふわりと舞うようにブラッドのもとに数歩走ったのだ。


 彼女のはく赤いドレスが、華やかさを引き立てる。




「お兄さま!!」




 彼女は嬉しそうにブラッドに抱きついた。




 ボフリと顔を兄であるインバスの胸元に埋め込み、ぎゅっと体の後ろまで手を回す。




 それは、数年ぶりに出会った恋人同士の一幕にも見えた。




 しかし、俺は叫ぶ。






「おい、ブラッド、そいつは偽物だぞ!!」





 皆がわかっていること。しかし、それでも叫んだ。




 すると、その声にハッとしたように、ブラッドはベリーの方を睨んだ。




「くそっ、離れ……」





 瞬間、ベリーの纏う様子が大きく変わった。





 さっきまでの花畑に吹く春風のような雰囲気はなりを顰め、もっと危険な。そう、戦争の最中に巻き起こる爆風のような危険な雰囲気を醸し出す。





「なっ!?」





 その変化にブラッドも慌てたようにベリーを引き剥がそうとするが、そうはいかない。






「ふふっ、どこへ行こうというのですの? お兄様」





 ベリーはその細い腕では考えられないような強い力でブラッドを固定する。





「まずい!」





 ブラッドがそう言った瞬間、インバスはまた指を弾いた。






「捕まえた、ブラッドちゃん」






 刹那、ベリーが姿を変えた。





「お兄様、ずっと一緒ですわ」





 そんな言葉を発しながら彼女は姿形大きさ、全てが変わっていく。





「あれは……アイアンメイデン!?」





 ブラッドに抱きついていたベリーは、その形を鉄の箱へと変える。腕だったそれは、箱を開閉するための扉になり、体だったそれは、鉄の棘がびっしり生えた棺桶へと変貌を遂げる。





「逃げ……」





 ろ! そう叫ぶ前に、ブラッドは捕まった。





 棺桶の扉が閉まる。





「ベリーには勝てない、か……」





 ブラッドの諦めの言葉とともに。







 ガチャンッッッ







「ギヤァアァァァァァァァァァアアアアア!!!」







 鉄の閉まる音と、男の叫び声が聞こえた。





「ブラッドッッ!!」





 俺の叫び声も、ブラッドの断末魔に掻き消される。

 あのブラッドが、こんなに大きな声を出すなんて、よっぽどの苦痛なのだろう。


 当たり前だ、鉄の針に身体中蜂の巣にされるのだから。





 俺は、インバスの方を見る。





 彼は恍惚とした笑みを浮かべていた。





「ふふっ、彼、可哀想ね」




「……」




「ここは夢の世界、彼は死ぬことはできないのよ?」




「……」




「それはつまり、死にたくても死ねないほどの苦痛を永遠と受け続けることになるってこと」




「……」





「彼の心は、いつまでもつかしらね?」




「……」




 俺は、歯を食いしばっていた。




 負けだ。




 負けなのだ。





 俺もブラッドも、永遠にこの世界から出られない。いつか心が壊れて、ようやっと解放されるのだ。




 それが、俺という男の最期なのだろう。

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