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夢の中にて②


 インキュバスに向けて突っ込む人の形をした鍋蓋と吸血鬼。




 そんな彼らを拒む壁のように、無数の盾が空に浮かぶ。

 



「めちゃくちゃな量だな」




「でも、やるよ」




 吸血鬼……ブラッドの発射した血の銃弾が全て防がれる。盾に当たった血は、もはや武器としての性能を失い、ただの液体として盾にねったりと絡みつく。





 盾の奥にいるインバスと目が合う。彼は、笑っていた。





「戦艦撃破おめでとう!! やるじゃないシルドーちゃんにブラッドちゃん!」





 彼は、完全に余裕だった。焦りの一つも感じさせない。





 その証明とばかりに、軽く挑発してくる。






「ほら、次はこの盾……突破してみなさいよ」



「「……ちっ」」





 俺とブラッドの声が重なる。





 防がれたのは面倒だが、『守る』という行動をする以上、インバスを狙うという方法は間違いではないようだ。





「あの挑発、乗るぞ!!」




「ああ、後悔させてあげるよ」





 数えきれない血の銃弾を飛ばすブラッドと共にインバスに向けて突っ込む。





 目の前にあるのは盾。


 回り込もうとすれば、その先に現れる盾。





 幸いこの世界にも持って来れていたらしい己の刀を持って盾を壊していくが、いかんせん数が多すぎる。





 なかなかインバスに近づけない。





「邪魔っだ!」





 刀を横に振って、盾をまた一枚破壊する。




 切った途端、ポンっとこの世界から消える。





 盾自体に大した強度はないようだ。いや、単に手に持つ刀のレベルが高すぎるだけかもしれない。




 

 とにかく、盾は簡単にかき消せるのだが、数が多いためにその先へ進めない。






 インバスはほざく。





「無駄よ、私の世界なのよ?」





 そう言いながら彼が指をパチンッと鳴らすと、今壊した盾の倍の盾がそこに出現した。




 見えかけていたインバスの姿が、また盾によって妨げられる。





「くそったれ」





 悪態と共にブラッドの方をチラリと見るが、彼も攻めあぐねているようだった。





 先程いた位置からなかなか前に進めていない。





 俺の視線を感じたからか、ブラッドは笑う。





「もうへばったのかい?」





 こいつ……さっきより顔色悪いくせしてよく言うよ。






「はっ、お前こそ、貧血で倒れるなよ」






 刀を振るうとポンポン音を立てて盾が掻き消える。





 それから体感三十分。





 未だに俺もブラッドも進めずにいた。






 互いに打開策のないまま、攻め続けている。




 インバスの姿が見えても、またすぐに盾が現れて行く手を阻む。





「はぁ……はぁ……」





 肩で息をする。





 体力は限界だった。





 いつかこの盾にも終わりが来ると信じて俺もブラッドも攻撃を続けているが、一向にその気配がない。




 ふとブラッドの方を見れば、彼も疲れた表情で、攻撃のキレも悪くなってきている。





 考えうる攻め方はあらかたしたのだが、全く勝利への糸口が掴めない。






 はぁ……ほんと、どうしたもんか……






 刀を振りながらも次の打開策を考えようとした時だ。





「そろそろいいかしら?」






 ずっと俺たちのことを試すように黙っていたインバスが、盾の奥でそう呟いた、





 奴は、盾の奥でただただくつろいでいたのだ。創造したソファに腰掛け、優雅に紅茶を飲みながら。






「……あぁ? いいって、何が」






 刀を振りながらそう返すと、彼は紅茶の入っていたはずのコップを傾けた。中から液体は出てこない。






「もう、ティータイムも終わっちゃったのよ」


 



「なんだ、ボーナスタイムは終わりってことか?」





 この数分、インバスは何故か俺たちからの一方的な攻撃を許していた。そこにどんな意図があるのか、全く分からなかったが……






 こいつは、どこまでも俺たちのことを馬鹿にしたかったみたいだ。







 こうなりゃ、何がなんでもあいつにたどり着いてやる。






 そう決意した瞬間だった。






「まず貴方、背後がガラ空きよ」





 その言葉と同時に、背中に衝撃が走った。





「岩!?」





 首だけ動かして見れば、巨大な岩石が俺の背にのしかかっていた。それはまるで隕石。






「がぁあ!」





 こいつ、このまま押し潰す気か!?





 集中力がキレたせいで巨大壁が消滅して、空中にて俺は岩にのし掛かられることになる。





 そのまま重力によって、俺は岩とともに一気に地面に落下する。





 体力がなくなっていたこともあり、抵抗できない。





 ドンッッッツ!!!!!!





 体が引き裂かれそうな感覚と共に、地面と岩にサンドウィッチ状態になる。





「……かはぁぁ」





 空気の抜ける音が口から漏れる。





 体が傷ついたのかすら分からないが、とにかく一つだけわかる。痛い。





「シルドー!? 大丈夫かい!」




 遠くからブラッドの声がする。



「はぁ……はぁ……」




 荒い息をしながら、インバスの方を見上げる。



 彼は意気揚々とこちらに歩いてきていた。いつものモデル歩きがやたらと癪に触る。





「シルドーちゃん、貴方本当に丈夫ねぇ……もう、このままずっと岩の下で夢の中にいてくれるかしらぁ?」





 血すら出していない俺のことを見て、インバスはそんなことをいう。





「はっ、断るね」





 目の前にまできたインバスの靴にペッと唾を吐くと、【巨大壁】弾丸バージョンを岩の上に展開した。



 それを一気にインバスに向けて放つ。





 ガンッ






「ふふっ、気づかないとでも?」




 透明な弾丸がインバスの作り出した浮かぶ盾によって弾かれる。




「知ってたよ」




 しかし、それでも放ったのは勝算があったからだ。俺は弾丸を操作して、一度ははじかれた盾の合間を縫うようにインバスのもとへと到達させた。




 インバスの頬を弾丸が掠る。




「あっぶないわね」



「何で見えてるんだよ」




 インバスの頬から垂れてきた血が、地面に落ちる。これもかわされたが、本命はそれでもない。





「今だ!! 行けっっ!!」





 俺が岩の下から叫ぶ。





「任せてよ!!」





 視界に映るのは、血でできた槍を思いっきりインバスに放つブラッドだった。





 彼は、戦艦をも破壊した槍をインバスの背後から投擲する。





 それは凄まじい勢いでインバスに迫る。





 そして






 グチャリ……






 間違いなく、それはインバスの背中に刺さった。前から見ていると、インバスの胸元から槍の端が突き出ていた。




 インバスを見れば、彼は驚いたようで目をまんまるに見開いていた。己の胸元を見て、現状を理解しているようだった。





 血がドッと溢れ出て、真っ赤に染まる。 





「まさか……シルドーちゃんは、囮」




 インバスは、ゆっくりと顔だけ背後に向ける。





「ブラッドちゃん、やってくれたわね」




「僕を無視なんて、するからだよ」





 インバスは、完全に貫かれた。



 彼はその状態のまま、またこちらを見た。俺と目がバッチリ合う。





「インバス、お前の負けだ」





 そう言って視線を自分の前……地面へと向けた時……





「きひひひっ、痛かったわ」




 痛、かった?




 俺が声を聞いてすぐさま視線だけをインバスの顔へと向ける。




 パチンッという指を擦る音と共に……



 彼の傷は一瞬で治っていた。





「マジかよ……」




「言ったでしょ? 私はこの世界の神なのよ」




「なるほどな……こりゃ勝てん」




 

 この夢の世界では全てあいつの思い通りになるらしい。





「ははっ、負けだ負け……」





 心臓を貫いたのだ。しかし、それすら無意味だった。なら、どうしようもないではないか。




 俺は、自分に言い聞かせるように、岩の下でそう呟いた。

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