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デート作戦にて①



 レッド・ラッド家に来てから半年ほど経ったある日の午後、俺は毎度飽きずにベリーとTRPGをしていた。





「では、サイコロを振るのですわ! 目が五以上で防御成功、五以下で防御失敗ですわ」





 言葉に従って、俺はサイコロを振った。


 地面に落ちたサイコロはころころと転がり、三の目を上にして止まる。すると、ベリーはニンマリ笑って、物語の続きを語り始めた。




「シルドーは防御に失敗し、盗賊に息の根を止められてしまったのだった……ですわ!!」





 俺は死亡したらしい。





「はぁ……お嬢様、俺が死ぬときはやたら楽しそうですね」




「ええ! やはり物語はハッピーエンドで終わりませんと」




「いや、俺が死んだらバッドエンドでは?」




「……?」





 ベリーはキョトンとした顔で俺の方を見てきた。





「……?」





 何か間違ったことを言ったか?





 そんな感じでわちゃわちゃとやっていたら、ドアのノックする音とともに、一人の女性が入ってきた。





「ベリー、今時間いいかしらぁ」





 ベリー、もといブラッドの姉、ルージュだ。





「もちろんですわ! お姉様」




 ベリーは心底嬉しそうにルージュの方を見る。それを見る姉も幸せそうだ。





「今日はブラッドの代わりにしてた仕事が早く終わったのよぉ。だから、来ちゃったぁ」





 彼女はベッドの側に座ると、ベリーに寄り添った。





「貴方達、本当に仲良くなったわよねぇ」




「お姉様、冗談がすぎますわ」




 そう言って、ベリーはTRPGのシナリオを書いた本を閉じて布団の中に突っ込んだ。





 俺は椅子を持ってベッドから少し離れて、そこに座る。姉との水入らずの時間を作ってやれる俺は、なかなかに空気の読める男なのではないだろうか。



 彼女達は会話を続ける。





「お姉様、お兄様の仕事大変ですの?」



「そうねぇ、大変だけど、毎回インバス様に助けていただいて、何とかなってるわよぉ」





 インバス……前にブラッドが恩があるとか何とか言っていたが、やはり色々手助けしているらしい。





「お姉様ったら、また惚気話ですの? あら? 顔が真っ赤ですわよ」



「もう、やめてよぉ」





 彼女達はそう言って笑い合う。それからは、ひたすらにインバスがいかに素晴らしいかをルージュが熱弁していた。ベリーも、見たこともないような笑顔でそれに頷いている。





 ベリーの奴、絶対にルージュの言うようなこと思ってないだろうに。





 インバスが優しいだの、インバスがカッコいいだの、インバスが男らしいだの、インバスが礼儀正しいだの……俺もそうだが、ベリーも絶対にインバスに対してそんな感情もっていない。



 彼女は、大好きな姉に合わせているのだ。





 そして、三十分くらいだべってから、ルージュは部屋を去っていった。




 ドアが閉まると同時に、ベリーはいつもの無表情フェイスに戻ってしまう。





「お嬢様、俺の前でもさっきみたいに可愛く笑ってくださいよ」




「ふんっ、嫌ですわ」






 そうは言うが、こうして返事をすること自体、かなりの親密度の上昇が感じられる。




 俺が椅子をベッドの近くに引きずり、そこにどかっと座る。

 すると、珍しくベリーの方から声をかけてきた。





「シルドー、貴方インバスと親しいですわよね?」




「親しい……ってわけじゃないですけど」





 アイツとの距離感は俺すら測りかねている。一応同じ罪人ということでそれなりに交流はとっているが、逆に言えばそれ止まりだ。決して友達とかそれに類するものではないと断言できる。





「とにかく、私より親しいのは確かですわ。そこでシルドー、私に協力してほしいですの」




「協力? 何にですか?」




「何にって……貴方、相当鈍いですわね」




 ……? ベリーは一体何を協力してくれと言っているのか?



 本当にわからずにベリーを見ていると、彼女は鼻からスッと息を吐いて、まさかの真実を告げた。





「ルージュ姉様と、インバスをくっつけることに、ですわ!」





 ルージュとインバスをくっつける?


 くっつける??


 くっつける……。


 くっつける……?


 くっつける!?




「くっつけるって、お付き合い的な意味ですか!?」




「それ以外どう意味になりますの? 見ての通り、お姉様はインバスに『ホの字』ですわ。私はお姉様に幸せになって欲しいですの」





 あのオカマ野郎にホの字だと!?




 たしかに、ルージュはインバスの話をよくするし、話している時に何故か赤くなるが……






「あれ、好きってことだったんすか?」




「ええ、インバスには何かと助けてもらってるみたいで、その中で惚れたそうですの」





 ベリーは、何でよりにもよってあの男に……と付け足した。




 本当に俺もその通りだと思う。





「お嬢様、俺は誰かが付き合うのなんて助けたくないんですけど?」





 リア充死すべし、これが俺の座右の銘なのに、なぜわざわざそのリア充を生産する手伝いをしなければいけないのか。それなら、いくら暇でもこの部屋で黙って椅子に座ってる方がまだマシだ。




 俺は、ベリーから目線を逸らして、そっぽを向く。





「貴方、本当に大人気ないですの……これは命令ですわ。それに、貴方と私の仲でしょ?」





「何ですかお嬢様、都合のいい時だけそんな言い方して……」





「シルドー、貴方の力が必要ですの」





 ベリーはそう言うと、俺の片手を両手で包み込んだ。思わずベリーの方を見ると、彼女は潤んだ目で俺の顔を覗き込んでいた。





「お嬢様……」





 仕方ない、ここは男して期待に応えないと……





「って、なるわけないでしょ! バカなんですか?」




 俺が手を振り解くと、ベリーは「チッ」と舌打ちをして、睨んできた。





「ならいいですわ、ブラッド兄様に襲われたと言いつけてやりますわ」




「まっ、待ってくださいよ。襲われたって、俺にですか?」




「ええそうですわ。私が少しはだけだ格好でお兄様のところに行けば、絶対に信じてもらえますもの」





 ベリーの奴、策士も策士だ。そんなことをされれば俺の命が終わることは目に見えている。あのシスコンお兄様によって、首がおさらばしてこの世界からもおさらばだ。






「わ、分かりましたよ。でも、それで付き合えなくても知りませんからね」





 俺たちがするのは、あくまでお膳立て止まりだ。それ以上のことは、本人たちの意思次第になってくるだろう。





「ふふっ、分かってますわ。じゃあ、まずはあの男に彼女がいるか聞いてきてくださいまし」




 彼女がいるか?




 どうだったか、思い出そうとしたところで、ひとつ気になる情景が頭に浮かんできた。それは、初めてインバスに出会った時のことだ。





「そういえばアイツ、初めて会った時に神輿の上で女を侍らしてましたよ」





 石化した魔族の中を、奇妙な神輿が歩いてきて、その上にインバスは乗っていたのを思い出す。その時、彼の左右には魔族のお姉さんがいたことも。





「ま、あれは彼女というよりは……」





 これ以上はベリーの教育上良くないと、適当に言葉を濁す。





「性処理女と言いたいですの?」




「お嬢様!? そんなはしたない言葉使っちゃダメでしょ」





 齢十五歳前後のくせして、ませた女子だ。俺が止めに入ると、ベリーへそれくらい知ってますわと言いながら、話を続けた。





「では、やはりインバスに女がいるのか調べる必要がありますわ。シルドー、頼みましたの」




「はぁ、何でそんな面倒な……」




「キャア、タスケテオニイサマ、オソワレルーー」





 面倒なことを。と言い切る前に、ベリーによって妨げられた。




 くそっ、面倒だが、ここは己の命のためにもやるしかないみたいだな……





「はぁ、分かりましたよ。今日の夜にでも聞きますって」



「それでいいのですわ。それで、作戦なのですけれど……ズバリ、『町デート作戦』ですわ」





 町デート作戦?




 なんとなく、その作戦名だけでどんな作戦なのかは分かるが、一応あらましを聞いておく。





「作戦通り、町デートをしてもらうのですわ」



「いや、でもそれをどうやって……」





 実現させるというのだろうか?





「ふふっ、それは簡単ですわ。明後日の昼、二人にこの部屋に来るように伝えるますの! お出掛けするから来てくださいまし、と」




「それで?」




「もちろんその後は町に……私とシルドー、それからインバスと姉様で行きますわ」




 なるほど、そこで二人をいい感じにさせて付き合せちゃおうという作戦か。まぁ、ルージュの方はインバスにベタ惚れだからいいだろうが、問題はインバスがルージュにどう言った感情を持っているか、なんだよな……。





 手助けしているところを見れば、インバスもルージュのことが嫌いって訳じゃないみたいだが。






 そんなことを一人で考えていると、もはや切り替えたベリーが、ゴソゴソと動き始めた。





「ほら、でしたら夜になるまでは、TRPGをやりますわよ」




 彼女は流暢にTRPGと口にして、シナリオを書いた本を布団の中から取り出す。





「お嬢様、本当そのゲーム好きですよね」



「文句でもありますの?」



「いや、文句などとは……」



「じゃあ、さっさと準備なさいな」





 決して、飽きた、とは言えない護衛であった。



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