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始まりの夜にて


 俺は夢を見ていた。




 どうやら俺は正座をしているらしかった。

 目の前には簾があり、そのサイドには『鬼』がいる。この身は彼らのギョロリとした目の視線を一心に受けていた。


 


 ここは……知っている光景だ。





 異世界に飛ばされる前にほんの少しの間だけいた空間だ。その時間は少しだったが、そこでの一秒一秒は今後を決めるとても大切なものだった。





 やがて、簾の中から声が聞こえる。それは優しい男の声だ。





「鍋野颯太くん……いや、今はシルドーくん、と言った方がいいのかな?」





 返事をしようと思うが、喉に何か詰まっているようで、言葉が出ない。





「それで、シルドーくん? ここに来たらどうなるか分かるよね?」





 どうなるか? 選別……か?





「そう、選別さ。天国か地獄かってね」





 俺は言葉に出してもないのに簾の向こうの存在、閻魔様は当然のように返事してくる。





「じゃあ、早速選別を始めようか」





 この緊張感……久しぶりにあの日のあの時のあの瞬間の感覚だ。冷や汗が頬を伝い、正座した足の間をヌメリとした汗が覆う。





 彼は告げる。





「君は……地獄行きだね」





 なっ!? 地獄? ふざけるな、何を抜かしてやがるこいつは!

 俺は天国に行くために嫌で嫌で仕方がない『善行』を積んできたんだぞ?




 俺は立ち上って抗議しようとするが、容易く鬼の持つ棒に取り押さえられる。






「君は善行を積んできたつもりみたいだけど、駄目だね。地獄から救いあげてあげるには、まだ全然足りていないよ」





 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!





 声が、声が出ない。






 しかし、ここで折れてたまるか。また地獄に落とされてたまるか。






 やめろ!



 やめろ! 



 やめろ!






「や……め……やめろ!!!!」






 そこで俺は目を覚ました。見慣れた天井が視界に広がる。まだ部屋全体が薄暗いことから、夜、もしくは明け方かなり早い時間だと言うことが分かった。





 嫌な夢を見た。





 目がまだシャキッとしない。瞼が隙を見て降りようとしてくる。





 もう一眠り、するか……





 次はもっといい夢を……





 そんなことを思いながら、少し体勢を変えてもう一度目を閉じようとする俺に、高い位置から声が聞こえた。






「あらぁ? また寝ちゃうの? なら、私も失礼しちゃおうかしら」






 この声は!?






 驚いた俺はすぐさま瞳を見開き、ベッドから立ち上がろうとするが、それは声の主によって簡単に止められる。





「勝手に動いちゃダメよぉ、それに、大きな声を出しても。そんなことしたら、このナイフで切り刻んじゃうからぁ」






 暗闇で、俺の目の前に突きつけられた小型のナイフが、ギラリと不気味に光った。





「インバス……何の用だ」

 




「あらぁ? 覚えてくれてるのね! 嬉しいわ」






 そう、俺を覗き込む存在は、オカマの魔族『インバス』だった。こいつは、数日前の魔族との戦争で最後に出てきて、魔族軍の撤退を知らせにきた魔族の貴族様だ。

 いや正しくは、貴族ではなく『罪人』らしい。確か、八大地獄のうち『第三の地獄 衆合地獄』の『罪人』だとか。


 八大地獄が絡んでくる時点で、こいつも俺と同郷と言うことになるになる。色々聞きたいこともあったのだが、初めて会った時は「いつか分かる」とか言って、はぐらかされていたのだ。





「もしかして、色々教えてくれるのか? 夜這いなら、俺は同性に興味ねぇぞ」




「それは期待させて悪かったわね、まだよ。それと、奇遇ねシルドーちゃん! 私も女性にしか興味がないわ! インキュバスだもの」





 相変わらず掴みどころのない奴だ。





「なら、何しに来たんだ」





 俺は目の前のナイフを手でどかしながら、ベッドの上に座った。





「何って……そうね、簡単に言えば……」





 インバスはナイフをしまって、頬に人差し指を当てて考える。





「『誘拐』かしら」




 誘拐? こいつは俺を誘拐しに来たのか?





「何だ? 俺を人質にでもしようってか? それならやめとけ、俺ほど人質に向かないやつはいないぞ」





 それはまぁ、助けが来ない可能性があるからだ。人望がないのもそうだが、俺の防御力を考えれば、わざわざ危険を冒して助けにくるメリットがないのだ。






「あらぁ、物騒ね。そんなことしないわよ、私に何の得もないもの。言ったでしょ? 『誘拐』をしに来たんだって」





「誘拐だって相当物騒だと思うが?」





「ふふっ、まあそうね」





 インバスがそう言った瞬間、目の前に何やら複雑な魔術式が展開された。それは俺を見下すように、天井に配置され、部屋全体を薄く照らす。






「お前、まさか!?」





「ふふっ、じゃ、魔族領に一名様ご招待よ」





「それ、敵地の真っ只中じゃないか!!」






 俺はベッドから飛び降りて部屋の出口に向かおうとするがそれすら間に合わず、ベッドから降りようとしたところで、あたり一帯が眩い光に包まれた。





 インバスと目が合う。奴はバチーンッとウインクしてきた。





「さぁ、いくわよ!!」





「てめ、ふざけ……」






 インバスの野郎、絶対に許さん。



 



 結局なんの抵抗もできなかった俺は、そんな感情とともに、俺はペイジブルから遥か遠く、魔族領のある場所に飛ばされるのだった。



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