第84話 転生神をおしおきですわ!
「うっそぉおおお! ルディアが魔力欠乏ぉおおお! でぇ、どうなのよぉ! まだぁ、体調は悪いのぉ?」
眼前、ともすれば口付けしかねない距離で声を上げる。そんなアンジェリアを押し戻し、ルディアは話の続きを語り始めた。
「もう、とっくに良くなりましてよ。一日寝たら、全快しました。一時は指一本動かせないほどでしたけどね」
「指一本……動かせない…………ごくり」
「生唾呑み込んでんじゃないですわよ。本当、あなたの目の前じゃなくて良かったですわ」
アンジェリアの前で無力になれば、きっと彼女は狂乱する。服を脱ぎ捨て、水面に飛び込むが如く、ルディアの体を求めただろう。それを思うと背筋には気味の悪い寒気が走った。
「でぇ、なぁんの用事でここにきたのかしらぁ? ただ会いたかった、っていうのがぁ、一番嬉しいっ」
「ねぇですわよ。そんなこと。少し、お遊びに付き合って欲しいのですわ」
「お、お遊びでぇ! 突き合うってぇ!」
「ばか……」
天界。そこはショーコの御用達だった、下界を観察する観測所。そこに一人、とある転生神が訪れた。
「ふぅん♪ ふふぅん♪ さぁて、あのゴミ共はどうなったかなぁ。ハズレスキルの真価に気付いて、今頃みんな精神やられちゃってたりして」
込みだす笑いを抑えるのは、テヘぺルラ・ロード。彼女はハズレの意味を知っていた。知っていて、わざと追い込まれるように仕組んだ。そうすれば復讐を生み、そこから深い思惑——なんて、特になく。なんだか面白いことになりそうだと。
そうして、期待交じりに下界を覗く。
「どれどれ、えっとぉ…………」
顔を上げ、目を擦るテヘぺロン。そして再び、下界を覗く。
「あはっ、疲れ目かなぁ。えっとぉ……」
再び顔を上げるテヘペロン。そして今度は、天を仰ぐ。
「だ、誰もいねぇじゃねぇかぁあああ!」
天界に響き渡る咆哮。彼女は殺し合いになることは予期していた。しかし、誰もいなくなるなんて……
「殺し合って、全員既にやられちまったのか? それとも魔物に? くっそぉおおお! 雑魚どもが! まさかこんなにもクソ雑魚だったなんて! せっかく楽しみにしてたのに……こうなればもう一発、旅行中の学生達を——」
意気込み、その場を立つテヘペロン。振り返るとそこには——
「あら、奇遇ですわね。集会以外で出会うなんて」
「ルディア、それにアンジェリア。雁首揃えてなんの用だよ」
「なんかぁ、イライラしてそうだからぁ。ストレス発散、手伝ってあげようかなぁってぇ。ねぇ、ルディア?」
「ストレスには運動。手合わせしましてよぉ。ねぇ、アンジェリア」
並べられた雁首は妖しくうねり、笑顔は不気味に歪んでいる。
危険を感じたテヘペロン、その場を一歩退こうとするが——
「逃げるのぉ? 自称最強のテヘぺルラちゃぁん?」
「逃げますわよねぇ? ホントは弱虫のロードちゃん?」
逃げ腰をぐっと堪えるテヘペロン。他人はどうでもいいが、自分を馬鹿にされるのは許せない。だから見過ごせない。煽りは絶対、受けて立つ。
「な、舐めんなよ! あたしは最強の転生神、テヘぺルラ・ロード様なんだ!」
ぐしゃ
帰り道。天界を舞うルディア。その傍らにはアンジェリアが寄り添うように飛ぶ。
「肩慣らし程度のつもりでしたが、ウォーミングアップにすらなりませんでしたね」
「私の愛するルディアですものぉ。あれだけ頑張ってきたんだからぁ、そりゃあテヘペロン程度に苦戦はしないでしょぉ?」
「やっぱり、私の鍛錬を見てたのはあなたでしたか。きもい視線を感じてました」
アンジェリア渾身の反省の態度。頭をこつんと、あざとい仕種をして見せる。
「あはっ、バレちゃったぁぁぁ。でもでもぉ、なんでまた、テヘペロンをいじめようと思った訳ぇ? 顔面潰れちゃってかわいそぉ♪」
「因果応報ですわね。私の転生者の怒りを買ったのです」
キラを想うルディアの横顔。それを横目にアンジェリアは何を想うのだろうか。
「やっぱり、定期的な運動は必要ですわね。今回のでそれを学びましたわ」
「定期的な運動だったらぁ、私が相手してあげるのにぃ。とぉおっても激しくてぇ、あつぅい運動を、百年くらいぶっ続けてみるのもぉ——」
「なし、ですわ。手合わせだったら、してもいいけど……」
「やぁん♡ 貝合わせだなんてそんなぁ」
いい加減、我慢の限界が訪れたルディア。拳を握り、指を立て、それをアンジェリアの眼前に突き出した。
「よし、決めた。今すぐ立ち会え、アンジェリア。貴様の薄汚い貝殻、私の拳で粉みじんに破壊してやりますわ」
「あはっ、冗談よねぇ?」
更なる好意を見せつける。それがアンジェリアの答え。神だろうが、想う感情は自由であるべき。しかし、押し付けの感情はまた別物。
痛烈な拳を前に壊れたアンジェリアのお股は、暫く内側に寄っていたそうだ。




