第83話 理想は理想のままが理想
渡辺くんは異世界を去った。
この場に残るは女共と、その横で泡を吹く似非主人公のみ。主人公の代役が誰になるかは不明だが、いかに糞でも似非転生者を死なす訳にはいかない。
すると——
「お、右手に光が。力を得られたぞ。幸いにして、元主人公の近くの奴がターゲットに変更ってことか」
時間も無いので、すかさずその力をぶつける。そして消えゆく似非主人公の体。その様子は女共に少なからず恐怖を与え、互いに寄り添い、がたがたと震えている。
しかし容赦はしない。というか、この場に残すよりかは、よほど慈悲深くはあるのだけれど。
そして移り変わるターゲット。”らしくなさ”は、まあ、こんなもんでいいだろう。
「まず君、ゴミ過ぎ。以上、さよなら」
移り変わるターゲット。これでいいっしょ。
「次に君、カス過ぎ。以上、Q.E.D」
そうして順繰りに、転生者達を排除していく。魔物に気付かれればジ・エンドな危険性はあったが、なぜだかその時は神に近い万能感に満たされ、魔物に会うような気配も無ければ、そんな気すら起こさずに元の場所まで戻ってこれた。
「ルディア! やったぜ! メインの転生者は始末した。つっても、残りは十数人もいるけどな」
「ヤ、ヤリマシタワァアアア……」
「言い辛かったら、言わなくてもいいんだぞ」
「いえ、決め台詞ですから。それにね——」
顔は伏せたままに、腕を立て、前のめりにゆっくりと立ち上がる。まるで井戸から現れるホラー映画の一場面。しかし、長髪から覗かせる表情は、コメディタッチのそれであり——
「すこぉしは、回復しました。お陰でセンサーも正常に。残る雑魚は、私が探して差し上げますわぁあああ!」
顔中、泥まみれで意気込むルディア。怨霊から根性系の芸人に様変わり。そうして、ルディアの力も加わった今。洞窟内を駆け巡った挙げ句に、転生者を一人残らず始末した。
「いやぁ、さすがに疲れたぜぇ」
「本当にお疲れ様でした。今日のキラは百点満点ですわ」
うーん、納得。今回ばっかしは、自画自賛したいほどの出来栄えだったぜ。
しかし百点満点ということは、その上はないということ。上がなければそれは、ルディアの思う理想に到達したということになる。
「そういえばさ。いずれは自立って、さっき、そう言ったよな」
「ええ、言いましたが」
「それって、いつ——」
と、そこまで言って、俺は口を紡いだ。それを言えば終わってしまうような気がして。その話題を、口にするのが怖くって——
「まだまだだよ。俺はまだまだ。だからさ、もうちょい面倒見てくれよな」
「大きい赤ちゃんだこと。でもま、私からすれば人類皆赤ん坊ですわね」
そう言うと、ルディアはそっと手を差し出し、笑って頭を撫でてくれた。




