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第82話 終 追放転生者を始末ですわ

 突然、響き渡る声。それに驚き、ぐるりと周囲を見渡す渡辺くん。対して取り巻きの女達は死を目前として、ぺたんと地面にへたりこんだ。


 俺の姿は彼らに見えない。だが神の視点でない以上、声は届く。


「だ、誰だ! か、神なのか?」


 神かって、いや、そうじゃないけど……


 しかし、神の使いではあるかもしれない。ルディアの命で来てる訳だし。それに下手に正体を明かすより、その方が味方という呈は作りやすい。


「そうだ。テヘぺルラ・ロード。彼女の悪事を見かねて、この世界に訪れた」

「神……あの神とは、別の……」


 よし、いいぞ。テヘペロンが糞なお陰で、敵対する神という設定が作りやすい。


「いいか、渡辺くん。確かに君の気持ちは分かる。だがな、殺しはいけないよ。殺してはならない」


 まずはなんにせよ。殺害の意志を一時でも止めなければ。しかし、こういうことに便乗するのが屑の特徴。


「そ、そうよ! 渡辺! 渡辺のくせに! 神様、どうかこいつを地獄に——」

「黙れッ!」

「ひっ!」


 神の言葉。を、騙る俺の怒号に怯える女。正直言って、戦えばスキルを持つ女の方が強いはず。しかし、その力を与えたのは神のテヘペロンで、その同族と誤認すれば敵わないと思うのが自然だろう。


「いいか、てめぇらが糞なのは変わらない。殴れるもんなら、殴ってやりたい。だがな、そんなことじゃ解決にはならない。心を改めろ! 屑共がッ!」


 神の意志を伝えるつもりが、思わず本音が出てしまった。だが、それでいいのかもしれない。こんなシチュエーション予期していた訳ではないし、取って付けた言葉より、俺自身の本音を語った方が。


「神様。お言葉ですけど、こいつらを何故、殺しちゃいけないのでしょう。彼らは僕を殺そうとしました。この世界では犯罪でも無ければ、殺されても、文句は言えないでしょうに」


 それは違うぞ。渡辺くん。殺しは、犯罪だからしちゃいけないんじゃない。しちゃいけないからこそ、犯罪とされているんだ。


「殺しはね、犯罪だからしちゃいけないって訳じゃないんだ。人の崇高な精神が、殺してはいけないって、そうしてるんだよ」

「精神……」


 そっと胸に手を当てる渡辺くん。自身が、それを操ることができるから。だからこその反応だろう。


「そう、君が操れる精神。精神は自由だ。異世界なんかよりよっぽどね。そしてその世界は、誰にも冒されてはならない領域だ。例えこんな屑共でも、感情だけは、一人一人の固有の宇宙なんだ」

「だから殺すなって、恐怖心を与えるなって、そういうこと?」

「そうじゃない。俺が言ってるのは君の精神世界だ。殺せばね、君の世界は崩壊する。君自身で、君の世界を滅亡させるんだ」


 殺せば確実に、戻ってこれない。だが渡辺くん、君はきっと、こう言うだろう。


「それは、罪の十字架に耐え切れなくなってってこと? だったら、僕自身の罪悪感を、僕の能力で操れば——」

「それ、だよ。君の能力が、君の精神を冒す。君だけのはずの世界が、神の力によって冒される。殺した君は感情を殺し、そのうち君は、間違いなく心のない、ロボットのような人間になる」


 殺せば元には戻らない。確かにそうかもしれない。それでも、世界には真に悔い改め、反省し、罪を償う者はいる。

 しかし君の能力はそれすらも奪い去る。反省する心。その、成長を促す心でさえ、かのハズレスキルは奪い去る。残るのは、ただただ渦巻く憎悪の感情だけ。


「だから殺しちゃ駄目だ。渡辺くん、君自身の為にね」

「————うん」


 これでいい。これで、良かった。

 俺の選択は、間違いじゃなかった。


 何も、姿は隠し通さなければならないものじゃない。相手が人間ならば、話せばきっと分かりあえる。どこかに、僅かでも、信念を持った心であれば。


 だがこれで終わりじゃない。依然、始末は終わってないのだ。でも大丈夫。今の渡辺くんなら、きっと理解できるはず。どちらの世界を、生きるべきかを。


「そしてだ。渡辺くん。君、こんな世界を生きる必要はない。あんな糞神のゲームに、乗ってやる必要はないんだ」

「————え?」


 俺は神じゃない。でもそれをできる力を持っている。渡辺くん、君さえ協力してくれるのであれば——


「渡辺くん。ギブアップしろ。いや、言い方が悪いな。こんな糞みたいなシナリオ、やってられるかって、舞台をぶっ壊せ。そうしたら俺が、君をあるべき正しい世界に導いてやる」


 俺が求めるのは、退場。自ら舞台を降りること。君にはこんな世界、役不足だ。もっと素晴らしいステージに、立たせてやる!


「ほ、ほんとに?」

「ほんとだよ。嘘は言わない。なぜなら俺は、調和を司る者だから」

「調和の——神様」


 目を瞑り、深く息を吸う。そして再び開いた時には、その目には殺意ではなく、希望に満ちた光が宿り——



挿絵(By みてみん)



「やってられるかぁあああ! こんな世界、僕はごめんだぁあああ!」


 諦めちゃうなんて、主人公らしくない。でも、それでいい。主人公は、この世界に生きる者達が担っていくんだからな。


「これから消えるが、ビビるなよ、渡辺くん。すぐに君はあるべき世界に行く。あと最後に、後ろの魔物。全員遠くに逃がしてやれ。君がいなくなれば、こいつらを襲いかねないからね。後味悪いだろ?」


 つって、ほんとは俺の保身の為でもあるんだけどね。


「————だね」

「それでこそ、主人公だッ!!!」


 光に包まれ、渡辺くんは異世界から消失していく。しかしその顔は穏やかで。


「俺の名前は転生キラ。次会う時には、友達で、だ——」








挿絵(By みてみん)

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