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第80話 続々 追放転生者を始末ですわ

 ありえない。でも、それしかない。


 よくよく思えば、転生者のバリエーションは複雑化する一方で、モブ役が主人公を張ることもあれば、一見すれば悪役である魔王が主人公にもなりうる。


 今回の主人公は——渡辺くん。


 しかし渡辺くんのスキルはハズレだ。テヘペロンいわく、茶化しと変わらぬ程度の感情操作。それが渡辺くんの持つスキル。


 弱ければ、主人公ではない? いや、むしろ強すぎる力を端からもっていたからこそ、今までは理不尽と感じていた訳で、弱い渡辺くんを今この場で主人公らしくないと断ずる材料は持ち合わせてはいない。


「な、なあ、頼むよ。死にたくないんだ。だから、誰か僕を仲間に——」

「するかよ。てめぇに何ができんだ。怒らせたり悲しませたり、そんな雑魚に使いどころなんざねぇんだよ」


 ひ、酷い。努力した訳でもなければ、こいつらが得た力は運だろうに。自分が弱小スキルだったらどうするつもりだったんだ。


「いいんじゃなぁい。流行の追放系っぽくなってきたぁ」


 テヘペロンの漏らした言葉。誰も気にしてはいないようだが、追放系だと? 仲間から追放される。この場合ではクラスメイト。そんなニュアンスのことを、テヘペロンは言ってるのか?


 だとしたらやはり、最強を主人公とするジャンル。脇役を主人公とするジャンル。悪役を主人公とするジャンルもあれば、スローライフを主とするジャンルも。

 追放を系統としてジャンル分けするのであれば、その主人公は当然、追放される者であるべきだ。


 つまり、テヘペロンが追放系と口にするこの物語は、皆に迫害される渡辺くんが主人公であると裏付けが取れる。追うべきは渡辺くん。しかし、どう”らしくない”ことを探し出すか——


「じゃあ、この世界の未来は君達に託したよ。シカトせず、しっかり渡辺くんに向き合う友達思いの君たちのことだ。きっと世界は、平和になるだろうねぇ。では、あとは宜しくねぇ」


 そうして、テヘペロンはその場から姿を消した。できることなら、いずれルディアにみっちり締めてもらうことにしよう。


 さて、残された生徒達。通路の先に広がる空間には、更に数本の道が続いている。どの道を行くべきか、それを話しているようだが、考える間もなく渡辺くんは、先に一つの道を行かされた。


「先に見てこい。戻ってきたら殺すからな。行ってやばけりゃ、悲鳴を上げろ。死んでも上げろ。そんで、戻ってくんなよ。俺達は他の道を行くからな」



挿絵(By みてみん)



 憐れ渡辺くん。囮のような扱いだ。びくびくと震えながらに先を行く渡辺くんの後を付いていく。幸いにして、彼らが得たのはスキルのみで、どうやら魔力のように気配を察知することはできないようだ。奴等の頭の一つでもひっぱたいてやりたいが、それは後々、主人公が順繰りに変わり次第、血祭りにあげてやるから忘れるなよ。


 薄暗い道を進めば、なんてことない物音にも悲鳴を上げ、足を止める渡辺くん。しかし、異世界に慣れてしまった俺だからこそ耐えられるところはあり、初めて訪れた森を歩く俺は、今の渡辺くんと似たようなものだった。


 始末すべき相手なのだが、頑張れと、そう心の中で応援してしまう自分がいる。


「————さない——」


 ふと、渡辺くんは何かを呟いた。独り言でも漏らさなければ耐えられないのは分かるが、ここは魔物も棲むかもしれない洞窟の中。あまり声を出さない方が良い気はするが——


「許さない——、あいつら絶対に、復讐してやる……」


 わ、渡辺くん……


 うーん。復讐心が”らしい”か”らしくないか”と問われれば、微妙なところ。しかし気持ちは分かってしまう。現に俺も奴らを殴りたいと、そう思ってしまったのだから。

 いずれは修行し、強くなり、中・後半あたりから見返すタイミングはやってくるのかもしれない。でも、そんなことより、まずは今の身の危険をなんとかしないと。なにせ渡辺くんのスキルはハズレなのだから。


 すると、目の前にスッと、何者かの影が通った。気がした——


 渡辺くんは持ってる端末の光でそれを照らすが、既にそこには姿はない。見間違いかと、ほっと一安心といった様子だが、俺はそうは思わない。


 僅かにだが感じる魔力。ルディアやショーコに比べれば、足もとどころか、突き抜けてブラジルにまで到達してしまうくらいの力の差。しかし、そんな相手でも、俺からすれば見上げる山のようで。


 比喩のごとく上を見れば、そこには天上にぶら下がる、糸を引き、八つ目で獲物を見つめる、巨大な蜘蛛が迫ってきていて——


「上だ!」


 と、咄嗟に声を上げてしまった。


 遅れて見上げる渡辺くん。慌てて壁際に逃げる。


 もし仮に俺が声を上げなければ、渡辺くんはやられていただろうか。いや、それはない。多分、何かしらでこの事態に気付けただろう。でも、そんな判断は当てにならない。ルディアの言うように、この舞台のような物語は現実に存在し、思わぬハプニングだって起こりうる。


 この場で蜘蛛に捕まって、食われてしまえば、ある意味始末は完了する。でもそれでは渡辺くんは救われない。元の世界に戻れない。だったら、助けてやるのが人の心だ。


 しかし気付けたとはいえ、その後は俺も助けてやれない。魔力は感知できるが、俺は強くもなければ、戦うことはできないのだ。というか、神の視点じゃない以上、この俺だってやばいのでは?


 天上から地面に降り立ち、間近に迫る蜘蛛の怪物。渡辺くんだって戦うスキルは持たない。怒らせて、悲しませて、それで一体どうしろっていうんだ。万事休すか、渡辺くん——!


 しかし、その蜘蛛。あと一歩のところまで迫ると、ぴたりとその動きを止めた。様子を伺っているのか? にしても距離が近すぎでは?


 見ると渡辺くんは、何か念でも送るように掌を蜘蛛に向けている。どうやらスキルを使用したみたいだが、でも彼のスキルは……


「こ、これで大丈夫……なのか? 動くなよ。動くんじゃないぞ……僕に敵意はないんだ。お前と同じように——」


 敵意がない。渡辺くん自身を言うのならそれは分かる。だが、お前と同じって、こいつは今まさに渡辺くんを——


 感情。


 喜びとか、悲しみとか、そんなものを指す言葉。しかし感情、奥深いと言われるように、その種類は測り知れない。言葉にできない感情を含めれば、人の数だけ異なる感情が存在する。人の数だけ? いや、そうじゃない。もっとたくさんだ。感情は動物にもある。もしかしたら昆虫にだって。


 渡辺くんは、大蜘蛛から”敵意”を取り去った。感情を操作し、相手の行動を止めたのだ。いかなる強敵も敵であるから恐ろしいのであって、感情があるからこそ、敵対し、歯向かってくる訳だ。それを操ってしまえれば。


 敵などいない。故に無敵。


 わ、渡辺くん……君のスキルは……ハズレなんかじゃないぞ……


 極めれば、この世界を牛耳ることができる、最強の能力だ。








挿絵(By みてみん)

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