第77話 ハズレの概念
洞窟の奥、通路の先に見える光。そこが光源という訳でなく、単に壁面を照らしているだけ。突き当れば左に続く道があり、そこを曲がると、いよいよ光の源が見えてくる。足音を立てず、息を殺し、慎重にその道を進めば、次第に聞こえてくる何者かの声。
「————の諸君。ようこそ、異世界へ。君達にはこれから、この異世界の安寧の為に戦ってもらいたいんだ——」
な、なんだなんだ。
まるでどこかで聞いたような台詞だ。呼び出して、自身の希望を押し付ける。そんな、転生を司る神が口にするような台詞が。
進む通路の先はひらけており、声はそこから聞こえてくる。入ればすぐにでも状況を見ることは叶うが、今回は気配を消している訳ではない。真正面から堂々と向かう訳にはいかないのだ。冷えた岩壁を背に、陰からこっそり覗き見る。
するとそこには、ずらりと並ぶ人、人、人の集団。歳は俺と大差ない、そんな同年代の集団が一か所に集まる。そして彼らの視線の的となる者が一人。その者は白き衣を纏い、熱弁ながらに赤色の短髪を靡かせる。健康的な褐色肌に紋の入った、同じく同世代くらいに見える女性。
「しかし戦うといっても、今のまんまじゃ君達はゴミカスだ。だからね、あたしが君達に力を授けてあげるよ。転生の神にして最強の、テヘぺルラ・ロード様がね」
か、神じゃねぇか! ルディアと同じ、転生神! これって、かなりやばい状況なんじゃないのか? 一旦引き返した方が……
「さぁて、力を授けるといっても、何が今の流行りなんだ? ま、いいか。めんどくせぇし、とりあえずガチャにすっかな」
ちょ……適当な奴だな。おい。
にしてもだ。場の雰囲気的に、これから能力の付与が行われる。ルディアに助けを求めるか? しかし今のルディアじゃ何もできない。加えてこの状況、物語序盤において重要な場面と見た。
ここは一度、観察してみた方がいいかもしれない。力の内容は主人公らしさを体現するはず。始末すべきターゲットを特定するには絶好の機会だ。バレたらやばいが、二度ないチャンスだとしたら見逃せない。
「じゃあ、相澤くん。まずは君から、引いてみようか」
偉そうに人を呼ぶこいつは、自身を”テヘぺルラ・ロード”と名乗っていた。安易に略せばテヘペロン。まあ恐らく間違いはないだろう。しかしこの神、俺の転生時とは違って大勢を前にしている。そして台詞も”君達”と言っていた。
まさか、この場にいる人間全員が——転生者なのか?
「わー。すごいじゃないかー。相”川”君のスキルはSランクだ。一時的に身体能力を五十倍まで引き上げるレアスキルだよ。運がいいなあ、相”田”君はー」
口では褒めているが、まるで声に抑揚がない。本当にそう思っているのだろうか。そして名前を憶えろ。そいつの名前は相澤だ。
「じゃあ次に、伊藤君だね。ほら、引いてみ——」
そうして順々にガチャは引かれていく。当初、テヘペロンはSランクを凄いと言ったが、その後もコンスタントにAからSランクのスキルが続出する。果たして、レアとは一体……
そして訪れる最後の順番。びくつきながらも、神の前に進む一人の男。
「よぉやく最後かぁ! じゃあ、引いてみるんだ! わ……わ……渡部……」
「渡辺です」
「渡辺くん! さあ、奇跡を起こしてみせるんだー」
度重なるレアスキル。途中、更に上のSSランクも登場した今、最早ガチャの結果に驚くことなどないように思える。
しかし、一同は驚いた。転がり出るガチャの結果に、仰天したのだ。
しかしそれはSSランクでも、それを超えるような天恵でもなかった。人は凄いこと、素晴らしいことに驚くのではない。想定外のことに驚くのだ。大事なのは振れ幅で、結果の良し悪しは、驚くか否かに関係しない。
つまり、その驚愕のスキルの振れた方向は——
「あっちゃあああ! Dランクとは、なんて運がない! 君のスキルは”感情操作”。怒らせたり、悲しませたり、ともすれば言葉で補えるほどの、そんな程度の”ハズレ”スキルだ」




