第73話 強力神倒 神キラー
「これしか方法はないのです。どうか許して——」
「そんな、こんなのって……」
死の宣告を告げた後、光を放つルディア。
眩さに閉じる瞼は、きっと二度と開かれることはないのだろう。
……
…………
………………おや?
輝く閃光は次第に収まりを見せる。
よもやルディアが始末をしくじるはずもない。
これは一体どういう——
「さぁ、終わりましたわ! さっさと行きますわよ!」
「って、え? 俺、死んでない——」
「だから、終わりましたわ。時間がないので向かいながら説明しましょう」
ルディアは呆ける俺の腕を引っ掴むと、そのまま異次元へと繋がるゲートへぶん投げる。振り回される感覚、そしてこの要領を得ないイラつき。間違いなく俺は生きていると実感できる。
後を追うルディアも即座にゲートに飛び込むと、再び俺の手を取り、一直線に天界の入口へと昇っていく。
「結論から言えば、私はキラを転生させました。立場上、不本意ですがね」
「それってつまり、やはり俺を一度殺したってことか?」
「そういうことです。そして再び転生した。つまりは、分かりますね?」
いや、分からん。普通に分からんぞ。
再び転生させるなら、殺したことに一体なんの意味があるっていうんだ。それではただの死に損じゃないか。
——と、一昔前の俺なら、この狂った行動に文句の一つでも漏らしていただろう。だけど今の関係性なら、その行いに何かしらの意図があったことを確信できる。
果たして俺は死んだことばかりに気を取られていたが、今のルディアの文言、転生したことを特に強めている。つまり殺すことが目的ではなく、転生させることが目的だったということ。
では、転生した者は、何を得る?
もちろん前提として再度の生を与えられる訳だが、その他に、散々転生者を見てきて知っている。転生すれば——
新たな能力を獲得する。
つまり、ルディアが俺を再度転生させた目的は——
「俺は転生者キラーとは別に、新たな能力を得た。そういうことか?」
「その通り。今のあなたに転生者キラーは使えない。代わりに使えるのは、神を始末する”神キラー”」
神キラー。神をも抹殺する禁断の力。それが俺の手に。
カビの除去剤みたいと感じるのは俺だけか。
「神キラーは、神らしくないことを見つけて力を集める。要領は転生者キラーと同じですわ。ただ、相手が相手だけにかなりのスペックを要しましたがね」
「かなりのスペックって、元々俺の能力は転生者キラーで限界だったはずだろ? 能力を入れ替えたとしても、容量の余りなんて無かったはずじゃ——」
「そうですわね。厳密にはそう”だった”。キラ、あなたは一度目の転生をした後に成長したのです。昔と今とで、能力の他に得たものがありますでしょう?」
えぇと、俺が手にしたもの、か。肉体は元の強さのままと言っていたから、強いて挙げれば洞察力、精神力、そのくらいのものだろう。でもそれが、どれほど器とやらに影響するのだろうか。
だがそれらはあくまで人間の範囲の能力。他の転生者のような特異な力でも無ければ、ルディアのような神々の持つ魔力には到底及ばな——
待て。
あるじゃないか。俺が新しく得た力。転生者達が持ちうる、ルディアやアンジェリアなどの神々も持ちうる。そして、それを感じて比較できる俺も持ちうるもの。
「俺、少しだけど、魔力を見れるようになった……」
「正解! キラは以前と違い魔力を持ってます。それは転生時に私が付与した特典ではなく、あくまで自力で会得した才能に依るもの。故にチートでもなく、火も生み出せなければ、魔法という魔法は一切使えない。ただ、少しばかり魔力の存在を見ることができるのみ。そんな些細な力ですが、お分かりでしょう? その力は、普通の人間には持ちえない。そして特殊な力を持つ者は——」
「それをプラスアルファで持ち込める。現実とは比べ物にならない、強力な能力に進化して——」
その答えを聞いて、ルディアは満足げに頷く。
「全問正解ですわぁあああ! ”異能力転生者”の事例をちゃんと覚えていたようですわね!」
花咲くような笑みを浮かべたルディアだが、直後その顔には再び険しさが戻る。
「ですが、ここからが本題です。私はこれよりショーコと戦いますが、ショーコを倒すことはできません」
「ショーコは、お前より強いってのか? だから俺に——」
普通に考えればその答えに落ち着く。だがルディアは首を左右に振り——
「いえ、そうではないです。恐らく純粋な戦闘でいえば私の方が上でしょう。ですが覚えていますか? ショーコとの会話で、彼女はアンジェリアの行く先にダミーを残したと」
「言ってたけど、それってまさか——」
分身全てが本物という話、バトル漫画で見たことのあるシチュエーションだ。または、ダミーと言っている方が本物という可能性も。考える程に様々な可能性が頭に浮かんでくる。
「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。だけど、私達はそんな一か八かの博打に賭ける訳にはいかない。万一、ショーコのダミーが幻想の類の分身でなければ、これから戦うショーコを始末したところで、ショーコの存在そのものを消すことはできなくなってしまう。イコール、それは私達の敗北ということ」
ショーコへの勝利条件は、戦闘で打ち負かすことではない。口を封じること。いくら戦いで圧倒できても、手や足を出させなくても、口を出されればそれは敗北。他にショーコの意志があるのなら、根絶やしにしなければ意味はない。
「私はショーコを極限まで追い詰めます。力では及ばないと悟り、説得に差し向けるように。企む余地を与えず、全てを暴露させるように。そして、キラはその中から”神らしくない”ことを導き出すのです。そして得た力は、言うべくもないですわね?」
如何なる能力を持とうが、絶対に防ぐことも、逃れることもできない。
なるほど、これは確かに仕方がない。唐突な死ではあったが、そこに光があるのなら、俺はそれを受け入れよう。
お人好しに思えるかい?
そんなことはないさ。
元より、ルディアに拾われた命なのだから——
「任せろ! 相手が神だろうが、”らしくない”ことを探すなら、俺は百戦錬磨だ!」
「頼もしいですわね。お陰で私も、全力を尽くせます」
「当たり前だろ! これがうまくいけば、全てはハッピーエンドなんだからな!」
前向きな会話の内容とは裏腹に、ルディアの顔には暗い陰が落ちる。
「——そのことで、予め一つ話しておくことがあります。推測の域ですが、十中八九間違いないでしょう。不測の混乱を避ける為にも、今の内に心しておいて欲しいのです」
————————
そして作戦は成功した。
だが、これがハッピーエンドという訳ではない。
ルディアの忠告。転生者は親の愛情に恵まれていなかったということ。確かにショーコは間違っている。しかし同情や共感の気持ちがあることも否めない。予備知識もなくショーコの話を聞けば、俺はその場でフリーズしていたこと請け合いだ。
そして今。既に転生をさせてしまった以上、知っていながら再び親元に帰すこと、それは気が引ける。
だが、やはり帰さなければなるまい。転生者の力は王の思うがまま、最早止めることはできないのだから。
転生者は元の世界に帰す。だが、それは幾万の異世界人の命と、転生者の命を天秤にかける訳じゃない。転生者を見捨てる訳ではないんだ。
元の世界に戻れば、彼を助け出そう。保護の知識なんてさっぱりだけど。でも、俺が戻したのなら、責任を持って救い出し、見届ける義務がある。
「さあ、行こう。ルディア。転生者を元の世界に帰さなきゃ——って……」
ルディアの目が見開かれている。その視線は俺より背後の、例の場所に向けられており——
そこには、いまだ消えやらぬ光の粒子の残骸。その中で蠢く一つの影。
「ま、まさか——」
力は、確実に命中した。だからこの世界、いや、この宇宙から完全に存在は消失したはずなのに——
淡い光が浮かび上がらせるその者は、消えたはずのショーコ・ハレルヤ。その姿は小さく、頼りなく。力なく立ち上がると、翠玉の如き瞳をこちらに見上げる。
もう一度言おう。立ち上がった後”見上げて”いるのだ。
濡れ羽を思わせる黒髪を乱し、やつれながらも艶のある顔色を向けて。
その姿は、少女そのもの。
彼女の尊ぶ、幼き容姿で、ショーコは再び姿を現したのだ。




