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第72話 七つの大罪

 ルディアとショーコの戦い。その一部始終を俺、転生キラは見ていた。ルディアは一歩も退かずに終始攻勢だったが、その裏には俺を戦いに巻き込まないという配慮もあったのだろう。


 戦闘も終盤、ルディアの掛け声を合図に、俺は背後の石段の陰から飛び出した。輝くのは”左手”。拳には未知のパワーが握られている。


 転生者を始末する”転生者キラー”。主人公らしくない行いから、その力を吸収するという特異な能力。しかしショーコは転生者でも、ましてや主人公でもない。


 彼女に行使するのは、神を始末する”神キラー”。神らしくない言動から力を吸収する、神をも抹殺する禁断の力。


 その手を開き、磔となるショーコに狙いを定める。

 そして言い渡す。神にあるまじき、ショーコ・ハレルヤの罪状を。


「神が——」


 神。それには様々な解釈がある。信仰の対象だったり、精神の行きつくところであったり、超越した力を持つ者だったり。それらは尊崇されれば畏怖もされる。

 他にも、素晴らしい仁徳を持つ者を神と称したり、その行いを神対応と言ったり、総じて善い事柄に”神”という言葉は使われるものだ。


 そこに邪なものは一切含まれない。あればそれは邪神と言うべきで、”神”という単一を名乗ることは許されない。


 では、その邪さは何から来るか。これにも様々な解釈があるだろうが、中でも特筆すべきは、七つの大罪。


 嫉妬・強欲・憤怒・怠惰・色欲・暴食・傲慢。これら七つを、死に至る悪徳としている。それは殺人とか、強盗とか、麻薬の濫用とか飲酒運転だとか、具体的な犯行を表した罪ではない。何故なら時代や地域により、それが犯罪か否かは変わりうる。

 しかし精神の在り方は変わらない。いつの時代も、どの世界でも、それらの欲望や感情は悪徳とされ、故に犯罪に至るのだ。


 神は人を苦しめるかもしれない、殺すかもしれない。しかし、それだけでは神にあるまじきとは言い切れない。それらの行いは人々を罰する、神の正しい御心に依るものだからだ。

 だがそれに邪な感情が加われば、例え罰を下そうが下すまいが、心の在り方のみで神の威厳は地に堕ちる。


 ショーコは、若さを妬み、私欲の為に術を使い、老いに怒りその使命を怠け、子供に色目を使い、人々を食い物にし、それらを正義と思い込む。そんなショーコの罪状は——


「人の罪を犯してんじゃねぇえええ!!!」



挿絵(By みてみん)



 七つの大罪、その全てを冒したショーコから得られる力は、神を裁くに至る途方もないパワー。磔となるショーコにそれを避ける術はないし、神が罪から逃げるだなんて、そんなことは俺とルディアが許さない。


 そして、神殺しの力が直撃したショーコは——


「貴様は、あの時の転生者……一体あたしに何を——」


 ショーコは自身の身に起きた状況を掴めずに呆気にとられている。しかしその間にも、神殺しの力はショーコの体内に侵入し、身体の末端から徐々にその肉体を消失し始めた。


「こ、これは! たかが人間が、人間ごときが! なぜ神のあたしにダメージを?」


 肉体に起こる異変。だがその驚きは”意外”から来るもので、動揺というほどの焦りは見えてこない。何故なら怪我は治癒できる。今までのルディアの猛攻に比べれば、欠伸が出る程にスローな消失の進行。


 だが、ショーコはもっと焦るべきだった。彼女の思考以上に、事の次第は深刻なのだから。


「ダメージ? なにを悠長な。これは既に——チェックメイトなのですわ!」

「な、なんだって!?」


 ショーコの身体が光を帯びる。見開く眼は消えゆく身体の末端を凝視し、何かに集中するような素振りにも思えるが——何も起きない。


 端から見れば驚き固まっているようにさえ思えてしまうかもしれない。しかしこの時ショーコは、全身全霊で、治癒に力を注いでいる。


 だが治らない。治る訳がない。なぜならこの力はショーコの肉体を消しているのではないのだから。


「無駄ですわよ。その力は、ショーコ・ハレルヤという存在そのものを消しているのだから。存在の治癒など叶わない。故に分体というショーコの存在も、丸ごと宇宙から葬り去るのです」

「そ、そんな……そんなことって——」


 力から逃げるように、必死に抗うショーコ。しかし逃れる事なんてできやしない。その目には涙が浮かび、憐れで、力が首まで差し掛かる頃には、俺はショーコの無残な姿を見ることに耐えかねて俯いた。


 

 「き゛ぃ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ」



 ショーコの断末魔が天界に響き渡る。耳を塞ぎたくなる悍ましさだが、声が静まり見上げると、凄惨な最期とは裏腹に、光の粒と化したショーコの身体はきらきらと輝き宙を舞っている。それは白雲を抜けて、遥か上空まで続いていた。


「終わりましたわね」


 天を穿つ光の柱。それを見上げて終戦を呟く。


「なんか、可哀想な奴だったな……」

「同情の余地はありませんよ。そんなことより——」


 ショーコに向けていた険が取れ、ルディアは無邪気な笑顔を俺に送る。


「よくぞやり遂げてくれましたわね! キラがいなければ、今頃私はショーコに敗北を喫していたでしょう」


 激励の言葉を贈るルディアに悪意はない。純粋な気持ちで述べた言葉だろうし、突撃前には死ねと言われたが、俺はこうして今も生きている。そしてルディアの機転もあって、無事ショーコの暴走を止める事もできた。一見すれば、一件落着と見える場面かもしれない。


 でも結果から言うと、そう。


 俺はルディアに殺されたんだ——








挿絵(By みてみん)

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