続 転生神を始末ですわ!
瞬発力。それは瞬間で引き出すことのできる肉体的な能力を表すもの。瞬発力は天性のもの、と言われることがままある。構成する筋繊維の差によるもので、よって人種による遺伝の比率は非常に高い。
魔力における瞬発力。瞬発魔力と置き換えるが、それもやはり天性に依るところが大きい。もっとも、神々に人種という括りは存在しないし、そもそも子を作らなければ遺伝もしないので、もって生まれた偶然がその全てとなる。
魔力量は神なら誰しも無条件で溜まり続ける。神がそういった特性を持つというより、故に神になれたという方が適切だ。しかし瞬発力はそうではない。低い神もいれば高い神もいる。その点が神の才能を見極める一つの目安ともなり、アンジェリアは生まれながらに瞬発魔力が高かった訳だ。
対してルディアは恵まれなかった。平凡、若しくはそれ以下の瞬発魔力。例え同じ魔法を使ったとしても、その威力は他の神々に劣ってしまう。瞬発魔力は天性のもの、そして魔力は使わなければ溜まり続ける。であれば鍛えても仕方がない。それが神々の答えであり常識とされてきた。
そこに疑問を持ったルディア。果たして瞬発魔力は鍛えられないものなのかと。一度覚えた魔法を使うことは、本当にただの魔力の無駄遣いなのかと。
百年鍛えるルディア。瞬発魔力は変わらない。やはり天性のものなのかと疑問を感じる。しかしたった百年。確証はまだない。
千年鍛えてみた。瞬発魔力は——変わったのか? なんだか前より少し、向上したような気もする。もう少し頑張ってみることにしようと意気込んだ。
万年鍛えてみると、それが実感に変わった。明らかに成長していると、ルディアは確信を持つことができた。しかし、自身で実感できる違いは傍目には伝わりにくいもの。他の神々の視線は冷ややかだ。
自信を糧に百万年。今では誰も見向きもしない。時折、纏わりつくような仄暗い魔力を感じることがあった。
一億年。飽きることなく続けると、その内それも日課となる。時折、オネェのような神がその様子を覗きにきた。見た目は酷いが、中身は——悪くない。
十億年。ようやく天才と並ぶほどの出力に至る。魔力量に限界が無ければ、瞬発魔力にも限界がないことをルディアは悟った。
そして、ウン百億年。もはや別次元。代わりに魔力量はすっからかんだが——
例えるならば、他の神々は無尽蔵に弾を打ち続けられる拳銃としよう。
対してルディアは一発だけの、核兵器。
少し誇張が過ぎたかもしれないが、いわばそういうこと。無限のスタミナがあろうが、短距離走で勝てるとは限らない。ありあまる体力でも、十二ラウンドを終えた疲労困憊のボクサーに勝てるとは限らない。
持久力はあくまで持久力。アドバンテージの一つであって、絶対的な強さを表す指標ではないのだ。強さには出力、そしてそれを活かす為の技術も肝要である。
努力の花を咲かせたルディア。短期決戦という条件下に於いてのみ、彼女に勝る神は誰一人としていなくなったのだ。
「あたしの身を纏う魔力の壁はなぁ。かのヘラクレスの腕力でさえ貫けない。ルディア、お前が十二神入りした際に開いた緊急集会。余興で下らぬ腕相撲をやったのを覚えているかい? まあ大した強さだったが、ヘラクレス、サギーと続いて第三位。お前にこの壁を破れはしないよ」
「確か、アンジェリアが最下位でしたわね。やる気がないので当然ですが、それは私とて同じこと」
「————は?」
アンジェリアと同じ。それは、力比べにわざと負けたということ? そして、ルディアにはこの壁を破る自信があるということなのか?
なんて疑問が、ショーコの頭にはこの後まもなく浮かぶはずだった。しかし、ルディアはショーコの生んだ僅かな虚の隙間を見逃さない。
過去、アンジェリアへの制裁の時。ルディアは拳を高々と振り上げた。当時はあくまで威嚇であり、その行いは悔い改めさせる為のパフォーマンス。だから拳を宙に掲げた。
しかし、本気で戦うならば振り上げない。今から打ちますと、明け透けな打撃は放たない。そして引かない。連打が目的ではないから。ノーモーション故、反応できない。加えて早さも目に追えない。ない、ない、ないの——何もできない。
先は反撃不可能。そして次なる打撃は——回避不可能。
魔力を纏い、突き刺すように放たれたルディアの矛は、ショーコいわく絶対に破ることのできない盾を、いとも容易く貫いた。
ここでショーコはようやく気付いた。ルディアがバリアを破ったことではない。ルディアが動いていたこと、それ自体に。
続いてルディアの腕がバリアの内に侵入していることを知った時には、固めたルディアの拳は既に開かれており——
「残念、矛盾は不成立ですわ」
バリアの内部に魔力を解き放つルディア。こうなってしまえば、ショーコの自慢の結界も逃げ場を奪う強固な檻。ルディアの魔力は業火となって、ショーコの枯れた身体を焼き尽くしていく。
「ぎぃいいいああああぁぁぁ……」
ショーコはすかさず結界を解く。それと同時に引き起こるバックドラフト。咄嗟の判断を下さざる負えないショーコと違ってルディアは事前に予測できた。爆風は身を守るルディアに傷一つ負わすことはなく、反面ショーコは焼かれた四肢もろとも吹き飛ばされる。
そこに更なる追撃を加えんと飛び掛かるルディア。そこまでする必要はあるのか。誰の目にも勝敗は決したように見えるだろう。だが、ショーコの身体は吹き飛ばされる最中にも見る間に回復していく。
回避はできない。防御もできない。一度喰らえば、反撃の余地すら残さない。
ショーコにできることは、死なないこと。
先程は、無限のスタミナをもってしてもボクサーに勝てるかは分からないとした。なぜなら死ねば、無限のスタミナを活かすこともできやしないのだから。
しかし、無限の命だったならばどうだろう。生き残った者が勝者と言うのならば、例え一撃たりとも攻撃を加えなくても、いずれ相手の寿命は終焉を迎える。
神に寿命はないが、魔力量とスタミナには限界がある。そしてそれはショーコに分がある。全力を治癒と守りに転じるショーコは半ば不死身で、その底は幾つの年月をかければ尽きるのだろう。
もっとも、治癒にかかる魔力は甚大だ。厳密に言えば治癒そのものに消費する魔力というより、肉体に宿る魔力が欠損と共に多量に流出してしまう為。実際は、ショーコの魔力は途轍もない早さで減少している。
鍛錬当時は空っぽだったルディアの魔力も、その後幾らかマシになった。
故に、どちらが勝つかは分からない。出力や技術も大事だ。だけれど、やはり魔力量のアドバンテージだって捨ててよいものではない。ルディアもショーコも、勝利条件は相手の魔力の枯渇。ルディアにはショーコの抹殺も条件に加わるのだが。
ルディアに前者を選ぶことはできなかった。ただえさえ追い付かぬ転生者の始末。ここで膨大な時間を掛ける訳にはいかない。よってルディアにはショーコを殺し切る選択肢しかありえない。
ショーコもできれば手短に終わらせたい。手塩にかけた転生者を放逐することになるし、膨大な魔力を失ってしまうことになる。
地に身体が着く頃にはショーコは既に全快している。そこに加わるルディアのラッシュ。猛烈な拳の連打にショーコの身体は再び砕け、飛び散り、無残に崩壊していく。
「うぐ……待て、ルディア……待つんだ……ルディアァァァァ」
「それは警察の台詞と述べたことをお忘れで? 調和を乱す、罪深き罪人よ——」
必死に訴えるショーコを前に、ルディアは攻撃の手を休めはしない。慈悲は人間に与えるもので、相手が神なら無慈悲に徹する。
転がるショーコの四肢無き身体。そこに跨るルディア。両脚は万力のように胴を挟み込み、一切の抵抗を許さない。
「や、止めた! ルディアの罪を暴くのは——もう止めだッ! だから攻撃を止めろッ! その拳を下げるんだぁあああ!」
「下げて、それでショーコは転生を諦めますか? 代わりに自分は見逃せと、そういうことでしょう?」
聞く耳持たじとルディア。しかしそれでもショーコは訴え続ける。
ショーコにできるもう一つのこと。それは——説得。
調和の神でありながら、闘神すら慄くルディアに届くもの。それは最早、力ではなく言葉しかないのだから。




