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第65話 続々続 ショーコと愉快な子供達

 無垢な転生者は素直に王の後を着いていく。その裏に潜む、悪意ある真意を知りもせずに。その後を着ける俺とルディアは、そんな王の腹の内を知っている。


 だが——


 その計略を瓦解することが俺達の目的ではない。結果としてそうなることになるだろうが、目的はあくまで転生者を異世界から排除すること。


 残すところは”らしくない”ことを探すのみなのだが、転生者から離れることで今後のイベントを予見することはできたものの、結局その内容は敵国との争いが控えているという点だけだった。


 この点を主人公らしくないと判断できるかといえば、前述の通り正直微妙である。何故なら敵国と戦うこと、それはファンタジーにおける鉄板といえる程の定番のネタだから。仮に認知できたとしても、隣国を潰した後に”らしくない”では、後の祭りである。


 ではどうしたら——と、唸る俺の重々しさに対して、ルディアは存外軽い口調で助言を述べる。


「そこまで難しく考える必要はなくってよ。捻るとかえって基礎を忘れがちになるものですから」

「基礎?」

「敵国との闘争前に模擬戦くらいはするでしょう? ぶっつけ本番ということはありえませんわ。既に試しているのならともかくとして、話の内容的にもそれは無さそう。転生者の魔力に対する印象は、未だ感覚的なものでしか語ってないですもの」


 模擬戦をするからといって、何が基礎? と思うかもしれない。しかしルディアの言う基礎は模擬戦自体を指すのではなく、あくまで始末を行う上での基礎の話。それに模擬戦が使えるのでは? ということ。つまりは何が言いたいかというと——


「戦争を前に、理不尽な強さを見る機会があるかもしれない——ってことか?」

「そういうことですわ。きっと腕試しの場面は訪れる。そして他の転生者と違い、今回の転生者には努力も修行もしている時間など無かったことは明白です。アンジェリアの情報から、転生者の滞在時間は既に割れていますからね」

 

 ルディアの推測は的確で、事実この後に腕試しは控えていた。アンジェリアの裏取りがあったからこそ、転生者の力が努力の賜物ではないと感じ得た。


 しかし推測はあくまで推測。思うがままという訳にはいかないし、そこに若干の差異は生ずるもの。今回はその差が少し多くて——何より甚大だった。



挿絵(By みてみん)



 先を行く王は”とある一室”で足を止める。合図もなしに止まるものだから、後ろに続く転生者は王の背中に歩くままの勢いでぶつかった。子供相応の好奇心から余所見を繰り返していた転生者は、なおのこと注意は散漫になっていたに違いない。


 一呼吸の間の後に振り返る王の顔には笑顔が浮かぶ。失礼に対して真摯に対応する人間の鏡——と言いたいところなのだが……


 目が、笑っていない。


 先を行く王の顔は後を付ける俺達に見えはしない。衝突から振り返るまでの一瞬の間。その不自然な空白の内に、怒りの表情を見せていたであろうことが容易に目に浮かぶ。あくまで転生者が利用できる人間だからこそ許された事態であり、これが一兵卒であったのなら、その処置は只で済むことはなかっただろう。


 ぎこちない笑みで転生者を迎え入れたその部屋は、これまでの外観や内装に違わず絢爛豪華な造りをしている。生活感のないその部屋は、自室ではなく客間といった感じの内装だ。中央に備え付けられた椅子へ誘導する王は、探検気分に騒ぐ転生者を席に着かせると、その向かいの席に自身も腰を下ろした。


 準備は整い、そして王は騙り始める。自国の正義を、その壮大な物語を。対をなすように敵国の悪事を、その血塗られた歴史を。


 先程までの不自然さはどこへやら、王のそれはまさしく演劇。とある部分では力を込めた熱意を露にし、とある部分では情けなく顔を歪ませ涙する。


 舞台俳優が向いているのでは? そう思える程に同情を誘う、真に迫る会心の演技。王のスキルとして如何なものかと思いはするが、演説然り国民や臣下の支持を得るという分野においては必要なことなのかもしれない。


「——という事情があり、魔道士殿には是非! 隣国を打ち倒し世界を救ってもらいたいのだ。協力してくれるかな?」

「うん! ちょっと難しかったけど、つまり悪者をやっつければいいんだよね?」

「そういうことだ。悪は滅びて、君のような正義が勝つのだよ。上手くいった暁には、お菓子や玩具をたくさん用意しよう」

「あかつき?」

「魔道士殿へのご褒美、ということじゃよ」

「ほんとに!? 僕、たくさん頑張るね!」


 此度の異世界のいかなる兵器よりも強力だというのに。悲しいかな、子供への対価となれば、それは金銭ではなくお菓子と玩具。なんの取り柄もない、雑兵以下の扱いである。


「憐れといった顔をしてますが、転生者の力は無償で得ているものということをお忘れなく。例え大人であっても、対価としては十分すぎますわ」


 確かに、そう言われれば妥当である気もする。王の提示した褒賞は、結果論としては適切だったということだ。適正な褒美の提示に意気込む転生者だが、その前に一つ、王にはその目で確かめなければならないことがあった。


「じゃがその前に、まず君の実力を見せて欲しい」


 要求は力の証明。そして、その提案を待っていた。思わず拳を握りしめる俺と、それを横目に乾いた笑みを浮かべるルディア。どうやら腕試しの時がきたようだ。その相手は定かではないが、物語の見せ場的にも理不尽な強さを見せつけてくれる可能性は非常に高い。


 転生者を連れ部屋を後にする王は、早速三名の臣下を呼び出した。その顔ぶれは議会にも参加していた城の重鎮達。その錚々たる面々には似つかない、幼い召使いの姿も転生者の背後に控えていた。


 面子も揃い、歩き出す一行の足は城外にある一つの建物に向かっている。その建物自体は日本の一戸建てと変わらない大きさではあるが、付随する扉は大型トラックでも搬入できるような巨大な物流倉庫相応のものであった。


 大の大人数名でもこじ開けるなんてことは不可能と思える、錠の掛かった金属製の観音扉が道を阻む。しかしそこは魔導国家の所有物。臣下の一人がポツリと一言呟くと、巨大な扉はさもアラビアンナイトを彷彿とさせる地響きを立てて開きだした。


「この先は城内でも限られた者しか立ち入れぬ制限区域。我々四人の秘密ですぞ」


 秘密の場所。それは子供心を揺さぶるキーワード。男児なら誰しも秘密基地には憧れを抱くだろう。転生者も例に漏れず、王の言葉にそわそわと期待を隠しきれない様子だ。


 開いた扉の先からはカビ臭さの混じる湿気た空気が溢れ出し、鼻の奥をツンと刺激する。奥に続く訳ではなく、扉の一歩先はそのまま地下へと続く階段となっていた。その階下は灯した明かりをして、どこまで続いているのか分からない程に深い。


 終わりも知れぬ階段を下り続け、足に疲れが溜まり、その薄暗さにも徐々に目が慣れ始めた頃、ようやくその深部が顔を覗かせた。


 やれやれと一息吐いたのも束の間、深層部は更に横へと続いている。さすがにこの頃には探索気分も消え失せ、疲労感にうんざりとしながらひたすら足を前に出していると、薄明りの先に金属製の鉄柱が並んでいるのが目に見えた。


 だが、そう見えたのは誤りだった。実際には立ち並ぶ鉄柱を見ていたのではなく、一つの大きな鉄柵の下部を見ていたに過ぎない。その柵は上下左右に交差しており、その形状はすなわち——


「鉄格子……。ここは、何かを閉じ込める牢獄なのか?」


 しかし、その檻は並ぶ柱と見間違うほどに巨大なものだ。その隙間の隔たりは広く、人間が容易に通り抜けることができてしまう。つまりは人を収容する施設ではないということ。


 暗闇に慣れた眼は格子の奥に蠢く怪しい影を捉える。しかしそれはあくまで影で、巨大であることは分かるが、シルエットだけではいまいち何者であるかはピンとこない。同じく転生者も凝らすように目を細めていると、それを察した臣下の一人が鉄格子へと歩み寄り、手に持つ照明を掲げて”その者”を照らし出した。


 それは全人類が知る、馴染み深くも、一人として目の当たりにしたことはない架空の存在。人々はそれを思い描き、設定を加え、さも実現したかのように語り継いだ。そんな伝説上の存在が、いまここに姿を現す——


「ド、ドラゴン……か」


 岩肌のように硬質な鱗を身に纏い、巨大な両翼を背に生やす。太く雄々しい双角は天を貫き、頬まで裂けた不吉な顎は獲物を骨ごと嚙み砕く。壮大な伝承に恥じない、神話に生きる最強の生物。


 ドラゴン。


 千年の時を渡りしドラゴンは、闇に染まりし地下牢で、”その時”を静かに待ち続けていたのであった。








挿絵(By みてみん)

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