第61話 真実なんて優しくない!
アンジェリアの話はまるで人気アニメの尺取りのよう。一言一句を述べれば”次回に続く”となりかねないので、要約させてもらうとこんな感じだ。
例の男児だが、行方不明になったその日同じく転生された少年がいるとのこと。
転生させた張本人の名はショーコという転生神。転生神は各々独自のポリシーを持っており、それに由来した転生者を生み出すことが特徴だ。例えばアンジェリアなら恋愛に特化した転生者を、故に恋愛を軸とした話を展開する令嬢関連は大体彼女の仕業である。
そして今回のショーコは主に少年少女を転生させる。それは生み出す者が少年少女、というだけでなく、素体となる魂も同様に若年の者からしか転生させない。よって前回の”おっさん転生者”はショーコの条件には当てはまらない。
転生者を送り込んだ先は魔法に特化した異世界。その中でも特に栄えている魔導国家の召喚の儀式に合わせて転生させたようだ。
魔導士として生まれ変わったその者は、見た目こそ異世界の雰囲気に合わせて手を加えられたとのことだが、年齢自体は転生前に合わせたようで、ショーコが言うには六~七歳ほどの年齢とのこと。
日時や年齢からみるに対象と一致する点は多い。生前がどんな人間だったかまで聞ければベストだったが、あまりに質問が過ぎるとショーコに怪しまれてしまう為、得られた情報はここまでだった。
「情報が中途半端すぎますわ——って、言いたいところですが、相手が相手ですから。よくやりましたわ、アンジェリア」
「あらぁ! 嬉しい! でも、本当に大変だったんだからぁ。あくまで”最近の転生者”の話の一部として聞いただけですものぉ。対象を絞り過ぎるのは危険だわぁ」
ルディアとアンジェリアをしてこうも言わせる相手。中々に手強いのかもしれない。それは強い弱いという話ではなく、御し難いということ。猜疑心が強く執念深い、話の中だけでも一筋縄ではいきそうにない相手と見てとれる。
「念のためぇ、ルディアとキラが始末をする時には私はショーコと共に行動するわぁ。もうあの女との絡みはお腹いっぱいだけどぉ、私に疑いを持たれても困るし、異世界でのショーコとのバッティングの危険も防げるわぁ」
それは、俺とルディアにとっては願ってもない申し出。アンジェリアがショーコを見張ってくれれば、俺達に及ぶ危険はグンと下がる。
”宜しく頼んだ”と喉まで出たが、その前にルディアの言葉が先んじた。
「それは助かります。けれど、良いのですか? ショーコのことを毛嫌いしていたというのに……」
「あらあらぁ! 心配までしてくれるなんてぇ! でも大丈夫。その一言で十分だわぁ。それだけで、私はどんなことにも耐えられる」
度重なる心遣いにアンジェリアは心満意足のご様子だ。それは威勢でも、無理をしている訳でも、ましてや冗談なんかでは決してない。アンジェリアにとってはルディアが全てで、彼女の耐えうる”どんなこと”とは、混じりっけなしに”なんでも”なのだ。
「ありがとう、アンジェリア。お土産は胃薬でいいかしら?」
「半分がルディアの優しさで出来てるなら、それでいいわぁ」
薄く微笑むルディアに応じて、アンジェリアは十八番の妖しい笑みを返す。ひと悶着はあったものの、なんだかんだでこの二人って実は相性良いんじゃないかな?
「って顔するんじゃないですわよ」
「そういうのは言葉にして良いのよぉ」
こいつら、心の声を……
だからこういうところの相性が——
「まあとにかく、感謝しますわ。では早速行って参りますわね」
「え!? 今、行くのぉ? 流石にちょっと早すぎじゃ……」
子供は早く助けたい。だがアンジェリアの言うことには同感だ。聞いたそばから始末だなんて、いくらなんでも早すぎる。だがしかし、それにはルディアなりの目論見があったのだ。
「驚いたということは、それはつまり”意外”ということ。ショーコも同じく意外に思う。”いくらなんでも軽率過ぎる”と、かえって混乱を招くことができるかもしれない。間を空ければそれは”疑われないようタイミングを見計らった”と、そう当たりをつけるのがあの女。結局目を付けられることに変わりはありませんが、だったら私のポリシーを優先しますわ」
ルディアのポリシー。聞かなくたって、そんなの決まってる。
「行くか! ルディア! 発見したら——」
「即始末ッ! ですわッ!!」
息の合った応答に少しばかりの嫉妬を見せるアンジェリア。しかし今日はそれなりに満足しているのか、特に睨みを利かせることもなく素直に見送る。
まだ確定した訳ではない。だが今回の転生者が行方不明の男児である可能性は十分にある。今までの始末に於いて、異世界から現実に帰すことに些かの迷いやためらいが生じる場面は多々あった。だが、この男の子ばかりは何としてでも帰してやりたい。
両親の悲しむ顔が頭からこびりついて離れない。
一家の笑顔を再び取り戻す為にも——
俺の心は、かつてないやる気に満ち溢れているのだった。
――――――――――
「ルディア。最後に一つ、いいかしらぁ?」
「? 何かしら?」
一人やる気に燃え滾るキラを余所に、アンジェリアはルディアだけを呼び出すと耳元で囁くように語り始める。
「実はねぇ、ショーコの転生させたその子供。異世界へ訪れたことに嬉々としていたそうよぉ? 普通、六歳の子供が親と離ればなれになったら泣き喚いてもいいものでしょぉお? 少し、おかしくないかしらぁ?」
確かに妙だと、ルディアもそう考える。
子供なので単に状況判断ができていないという可能性もありうるし、あるいは——
「ショーコ自身、自らの転生談を美化する為に子供の様子を騙ったという可能性は?」
「ゼロではないけどぉ、でも私は本当だと思うわぁ。なんとなく分かるのぉ。愛する者を語るその口上、目付き、心情。”子供を幸せにしてやった”と語るショーコの悦に浸る表情に嘘はないと思うわぁ」
アンジェリアの勘はショーコのものとは質が違う。根拠のない憶測ではあるが、数多くの転生者、とりわけ複雑な恋愛感情などの奥深い心情を取り扱う転生者を専門としている。故にアンジェリアの感覚は捨て置けず、考慮の余地が生まれてきた。
そしてそれが事実であるのだとすれば、親と離れて悲しむべきはずの例の子供は、異世界に行けたことを真に喜んでいるということになる。
「キラが張り切っているから言いづらいのだけれどぉ。私、その”親御さん”っていうの、少し調べてこようかしらぁ?」
アンジェリアのこの発言に、ルディアは一つの仮説を見出した。もしそれを調べれば、仮説に裏付けが取れることだろう。だがしかし——
「いえ、結構ですわ。ショーコの見張りが優先されますし、知ったところでどのみち転生者である以上は始末しなければならない。キラには言わなくて正解でしたわね」
気合い十分に自らを鼓舞するキラに、ルディアは励ましとも憐れみともつかない眼差しを送る。
「今回は、”慈善事業”とはいかないかもしれないですね」




