第55話 触らぬ神に祟りなし!
転生者の失踪。それについては依然、犯人の目途は立っていない。
失踪の理由はルディア曰く、転生神の席を空ける為のスケープゴートを立てるというもの。だが、よくよく考えれば、そもそも転生神が転生者を消す理由が明確でなければ、濡れ衣を着せようにも動機が不十分だ。
それならば過去にルディアが十二神入りを果たした裁判のように、転生神ミラ=ノアとその転生者を嵌めて陥れたように、転生者に不祥事を起こさせ、その責任を転生神に取らせる方が現実的ではないのか? それはただの責任取りの尻拭きで、動機も何も必要ない。
転生者を消すことは目的への手段だと認識していたが、その実、本当のところは、転生者を消すこと自体が目的であるのかもしれない。
「難しい顔してどうしちゃったのよぅ? ショーコ?」
本日は定例会でも、ましてや緊急集会でもない。だが、ショーコは常日ごろから下界を見下ろしており、その場所に行けば基本的にはショーコに出会える。
そしてサギーも転生神の中では比較的下界を確認する方であり、見た目とは裏腹に常識的なサギーは、ルディアの発した緊急集会での決定事項から、頻繁にこの場所を訪れるようになっていた。
「いや、なんでもないさ。ところで、性転換した転生者が消されたそうだが、お前の転生者だったかい? サギー」
「いいえ、違うわよぅ。アタシ、性転換を望む者しか転生しないもの。きっとエーブイの転生者ね。許せないわぁ」
サギーの言う”許せない”。果たして彼の仕業なのか? と、ショーコは考える。だが、それはないだろう。犯人はきっと強かだ。嫌悪感を顕わすような言動は表に出さないだろう。
「今のところ被害にあっていないのは、あたしとサギー、そしてヘラクレスとルディアの四人のみ。後々調べさせて、ダークネスとエーブイの転生者が消されているのは分かったからね」
「ショーコはその中に犯人がいると思うの?」
さぁ? とでも言いたげに掌を返し、肩をすくめるショーコ。お手上げといった様子にも見えるが、その目は降参を物語るような諦めの眼力とは思えない。
「疑いを散らす為にも、自身の転生者に手を掛けるということは十分あり得る。始末された経験があるかどうかということは、あまり意味を為さないだろうね」
「じゃあ、探しようがないじゃない。でもまぁ、アタシらも転生者を生み出し過ぎた。それは到底管理しきれないほどに。始末することの良し悪しはともかく、転生神が転生者を想う気持ちというのは薄れて————ッ!?」
サギーは、それほど深刻には考えていなかった。残酷に思えるかもしれないが、幾千・幾万と生み出した転生者達。その中にはとっくの昔に寿命を迎えて死んだ者もいるし、転生者といえど異世界で敗れて死した者も大勢いる。
サギーに限らず、生み出した者より必然的に長生きする神にとって、一つ一つの別れを重く捉える方が難しい。その中でたったの数人、行方知れずの者がいる。これを機に気を引き締めようだとか、その程度のことは思うかもしれない。
だが、我が子を殺された恨み、晴らさでおくべきかと、そこまで感じる者はいないだろう。
この女、ショーコ・ハレルヤを除いては——
「あたしをなぁ。他の転生神と一緒にするな……。あたしの転生者を消したなら、犯人は地獄の底まで追い詰める。そして、この上ない屈辱を味わわせた上で、必ず殺す」
一見すれば幼い少女にしか見えないショーコの容姿。だがその圧気を孕んだ佇まいは、とても姿かたち相応のものとは思えない。
ショーコの身体には秘密があり、それを知る神々は存在しない。顔の広いショーコは数多の神に認知されている。だが、そのショーコがいつから存在するのか。そのことを知る神は一人としていないのだ。
「わ、わかってるわよぅ。ショーコ。あなただけは特別だってことくらい。あなたの生み出した転生者達。いえ、子供達は、あなたの大切な我が子だものねぃ。それを知ってて消すなんて、そんな間抜けはいないわよぅ」
サギーの言葉に、ふんと鼻を鳴らすと下界の観察に集中しはじめるショーコ。こうなるともう、ショーコの耳に周囲の言葉は入らない。
ショーコは見つめる、彼女の愛する転生者達を。笑みを浮かべて、腹を痛めた我が子のように愛でるのだ。
ショーコ・ハレルヤ。
彼女は子供を生み出す転生神。少年・少女だけを愛し、ネヴァーランドを夢見る。正太郎コンプレックス及びロリータコンプレックス、いわゆるショタコンとロリコンを患う、究極のペドフィリア——




