第54話 終 TSF転生者を始末ですわ!
転生者の始末の方法が思い浮かばない。焦りを感じながらも、一縷の望みをかけて王への謁見の場に同行する。
もし王が私利私欲で魔法を使う旨の発言をし、それを転生者が承諾するのであれば、それはきっと”らしくない”ことと言える。暴君であることを期待するのは癪であるが、もはや転生者を直近で始末する方法はそれしか無い。
だが、一研究者の謁見にも応じる王の姿は威厳に満ち溢れながらも、どこか筋の通った正義感を漂わせていた。
「この度は突然の謁見に応えて頂き感謝申し上げます」
「よいよい、急用ということは重要ということだ。それに応じぬ王など為政者の器ではあるまい」
初見で分かる器の大きさ。くそ、この王の政治は善政だ。下衆な門番の件で少しは国家の揺らぎを期待していたが、だからこそあの門番は告発をあれほど恐れたのだ。善き王であることを悔しがるのは少し違う気がするが……他に何か手は?
「有難うございます。実は、私の横に控えるこの者のことでお話がございます」
「ほう、してこの者は?」
鋭い眼光を向けられ萎縮する転生者。魔道士は転生者に代わり話を続けていく。
「この者は出自も知れぬ難民ではございますが、かの”創造魔法”の使い手でもあります」
魔道士の言葉に周囲はざわつきを見せはじめる。王自身も驚きを隠せない様子ではあったが、場を諌めると一息ついて言葉を返した。
「創造魔法だと? あれは伝説上の夢物語。信じてやりたいのは山々だが、そう簡単には——」
「論より証拠。今よりこの場で、伝説の創造魔法をご覧に入れましょう」
転生者に場の全員の視線が集まる。跪く転生者は、緊張からかぎこちない動きで立ち上がる。瞳を閉じて眉間に皺を寄せるその姿は、きっと頭に何かしらのイメージを浮かばせているのだろう。すると間もなく、転生者の前には一つの林檎が現れた。
「え、えと。創りました」
厳しい顔を浮かべる王は、林檎と転生者の双方をじっくりと眺める。その後にたった一言、言葉を発した。
「剣」
転生者は首を傾げたが、その意味に気付くと目を瞑り、今度は剣を産み出した。
盾、鎧、黄金、馬——
王の発する言葉が次々と形となってその場に現れていく。それを見る者達は当然驚きの声を上げる。しかしそれは、俺達のような危機感ではなく感嘆や賛辞の声。
「いかがでしたか? 私の言葉、信用足るものになりましたでしょうか?」
「う、うむ。これを見せられては信ずる他あるまい。しかしだ、この力、なんとも手に余る。してお前はこの力をどのように使うべきだと思う?」
唯一、王だけはこの能力の危険性を加味し、使用法について考えあぐねているようだ。調和という観点を抜きにしても、転生者の存在が知れれば究極の争いの火種となるのは明白。そもそも、大勢の前で公開して良い事柄ではなかったのだ。
「私はこの国に仕える身、この国の発展の為に使うべきと考えます。この力があれば飢える者はなくなるでしょう。資材に困る者もなくなるでしょう。病や怪我に苦しむ者、果ては老いや死も克服できることとなるでしょう!」
「老いや、死ですらか?」
「えぇ、万能薬に若返りの薬。例え死しても、この者は人体すら創り出し蘇らせることができるのです! 死者のいない世の中、きっと争いもなく平和な世界が訪れると信じております」
違う、それは違うぞ。
死のない世界は生きる目的を見失う。
それはきっと、生きながらにして屍であることと変わらない。
「だがしかし、かような力は我が身を——」
不老不死を前にしても躊躇いを見せる王。通常なら善政を敷く国家に仕えてくれた方が良いが、俺達に限っては悪政についてくれたほうが”らしくない”ことを見つけやすい。このまま転生者を手放してくれると有難いのだが……
「王! 何を迷われておりますか! このような力はまさに天恵。善き王の為に授かった力なのです! この力が他国に渡れば、世界は瞬く間に滅びるでしょう。この力は決して手放してはなりません!」
く、くそ。だが手中に収める利点と、手放すことで被るリスクを鑑みれば、捨て置く訳などなかったか。
「う、うむ。確かにな。この力を暴君に渡す訳にはいかぬ。だが、慎重にな。決して私利私欲の為に使ってはならぬぞ」
「存じております。誓って私欲に溺れるようなことは致しません。必ずや、この国の為に——」
胸に手を当てる魔道士は跪き頭を垂らす。
これで、この国は創造魔法転生者を受け入れることになってしまった。考える時間が欲しいが、きっと今すぐにでもこの力を使った実験や実践が行われることだろう。
「私利私欲を度外視しても、創造魔法は意図せず被害をもたらすのですわ! おまけに不老不死や人体精製ですって? そんなことは論外も論外! キラ、早いところ思い付きませんこと!?」
「俺も考えてるさ! でもいまだ憶測の域を出てないッ! それに何より、創造魔法を扱う転生者自身の意志が分からないんだよ。あくまで話してるのは魔導士であって、転生者じゃない! 奴自身がどうしたいのか、そこの部分が分からないッ!」
「くっ……」
く、くそっ! 一体どうしたらいいんだ。実際に何かしらの被害が出始めるまで待つしかないのか? どこでどのような被害が出るのかすら分からないのに?
もし被害が見えたとしても、それ以上に救われた人達を実際に目の当たりにしてしまったら、俺はそれをらしくないと思えるのか? 創造魔法に頼り切りの堕落した世界になるまで待つなんて、それこそいつになるか分かったものではない。
ルディアの言うように強くはない。だがこの転生者、か弱い女の子だと思っていたのに、これほどまでに厄介な存在だったとは……って、こいつは男だったんだ。まあそれは置いておいて————ッ!?
「ル、ルディア? 俺達、一番大事なことを忘れてないか?」
「な、なんですか唐突に。創造魔法をどうにかする。それが最も重要なことでしょう?」
「じゃあ聞くけど、この転生者って一体何の転生者だ?」
「それは創造魔法を扱う転生者————って、あれ?」
そうなのだ。あまりに強烈な能力の為にうっかりしていたが、よくタイトルを見て欲しい。この物語の根源は、TSF——
俺の右手は既に輝きを放っている。創造魔法に於いて”らしくない”ことを見つけることはできなかった。だが、奴はTSF転生者であり、決して創造魔法転生者などではなかったはずなのだ。
転生者に向かって輝く右手の狙いを定める。そして奴の犯した決定的な失態を、ありったけのパワーに変えてその身に打つのだ。
「別にッ! TSFじゃなくても良かっただろうがぁあああ!!」
おっさんが美少女に転生する。おっさん臭いのは初めだけで、後は真っ当な主人公。別に、おっさんである必要はなかった。
ニートが勇者に転生する。タイトルに堂々と書かれているが、ニートという設定は転生前の軽い説明程度で、物語の中では生きてこない。
果たしてこのTSF転生。女性に生まれ変わったのは良い。しかし結局は、風呂場の流れをやりたいが為だけの設定なのでは? 性転換をすること、それがこの物語の意外性であり、醍醐味であるはずなのに。
海賊の頂点を目指す者が世界の果てへと冒険するように。
忍者の長を目指す者が修行の末に忍術を極めるように。
TSFが主軸の話ならば、それを前面に押し出さなければならないのだ。ましてやタイトルやキャッチコピーに使うのであればなおさら。たかが数十話に一話載せるような、おまけのお色気シーンの為の要素であってはならないはずなのだ。
タイトル詐欺とまではいかない。だが過剰広告であることは否めない。そんな本質から外れてしまった主人公は、光の粒子となって異世界から消え去っていったのであった。
「ヤ、ヤリマシタワァアアア!!!」
何がなんでも定番の流れをぶち込むその精神。嫌いじゃないぞ、ルディア。
「戒めですわね。私達も転生者を始末することを蔑ろにしてはならない。それが、私とキラの物語の本質なのですから」
メタい話だが確かにそうだな。俺としてはもう少しマヒロとのお話を増やしてくれてもよいのだけれど。
「そして、私が鬼畜ってことも忘れるんじゃないですわよ! キラ、今回の件がブーメランにならないよう、今日から鬼畜三倍増しでいくから覚悟なさいましッ!」
「ちょ! それは今のままで十分だっての!!」
巨大な火炎弾を片手に俺を追い回すルディア。それは鬼畜ではなく、ただの理不尽なのでは?
必死の形相で逃げる俺を余所に、いじるのが面白いのか、はたまた無事に転生者を始末できたからなのか、ルディアは純粋無垢な子供のように、悪戯な笑みを浮かべているのであった。




