第47話 続々 恋の女神は転生者を繋げたい!
「ここのお店は日本に上陸したばかりで、今とっても人気なんですよ!」
JK文化を知りたいと言うアンジェリアの為にマヒロが案内した場所。流行に疎い俺でも知っている、巷で話題の人気フルーツドリンク店。その行列の待ち時間は遊園地の人気アトラクションさながら。とはいっても、正直俺はそこまで興味はない。普段ならどこへ行こうとマヒロと一緒ならばそれで幸せなのだが、今日のマヒロはなんだかちょっと怖い雰囲気。長きに渡る待ち時間の話題に困ったが、なんとか持ち堪えて購入に至ることができた。
「んじゃ、いただきまぁ――」
「待ちなさぁい」
「へ……?」
一体これ以上何を待つと言うんだ。そして時々、口調が元に戻ってる点も非常に気になる。
「まだ写真を撮ってないのデース! 日本のJKは写真を載せる為だけに流行りに乗っかると聞きまシタ。イマドキのカワイイ私がメインで、流行りの物自体は”ついで”なんですよ、ねぇ?」
「そ、そんなことは……ないですよ?」
アンジェリアの煽り文句にマヒロの口角はヒクヒクと震え、笑顔がよりぎこちないものへと変貌していく。
先は嫉妬心とか言っていた癖に。あぁ、なんでそんな嫌味なことを言うんだ。間に挟まる俺の気持ちにもなってくれ。
陰鬱な気持ちに耐え切れずに俯く。すると突然、傍らに寄ってきたアンジェリアがするりと俺の手を取り腕を絡ませてきた。身を寄せるアンジェリアの控えめな胸が二の腕に触れている。
「お……おい!」
「……な!? アンジェリアさん!?」
あまりに突飛な展開に、俺もマヒロも付いてこれない。そんな二人を余所に、アンジェリアは満面の笑みを浮かべてマヒロに向かいポーズを決めた。
「じゃあマヒロ! 私とキラの写真を撮ってくだサーイ!」
「や、やめろって! よりにもよってマヒロの前で……」
そんな俺の悲痛な訴えにも全く耳を貸さないアンジェリア。更に腕を引き寄せると、触れている胸を強く押し当てた。細身な体型なので控えめに見えていたが、これは意外と――
って! そんなこと考えてる場合じゃない!
弁解しようと、カメラを構えるマヒロに目を向ける。
そのマヒロの手が、震えている。ぶるぶると、手振れとは思えないレベルで震えているのだ。心なしか、握りしめる端末がメキメキと歪んでいるようにさえ思えた。
パシャ
「あ、ダメですねー。カメラの調子が悪いのかなぁ? ぶれちゃってうまく撮れないですー」
いやいや、マヒロさん? 完全にあの震えのせいではないですか?
だがそんなことより、無機質な棒読みの台詞、張り付くように凍りついた笑顔、その二つが何よりも恐ろしい。頼むよ、頼むから俺の天使をこれ以上怒らせないでくれ……
「そうデスかぁ。じゃぁあ、私とマヒロの写真を撮ることにしまショウかぁ」
マヒロが写真を撮れないと分かると、今度は俺に撮影を任せるアンジェリア。先のポーズと同じように、むくれるマヒロの腕に絡み付く。
「わ、私はいいです……」
「んもぅ、そんなつれないこと言わないでぇ……ね? 可愛い子」
「!?」
何か二人で囁き合っている。よく聞こえないが、喧嘩じゃなければいいんだけど。
とりあえずはアンジェリアの要望通りに写真を撮ることにする。だがカメラ目線のアンジェリアに対して、マヒロは目を逸らし顔を赤らめている。やっぱりさっきの会話は揉めごとだったのかな?
パシャ
「どうデスかぁ? 上手く撮れましたぁ?」
撮影するや否や、即座に端末を奪いとるアンジェリア。写真を確認すると、またすぐに俺の手に返してきた。
「キラのも写真ブレブレですよぉ? どうしたというんですかねぇ」
見ると、確かに俺の撮影した写真はぶれてぼやけていた。
あれ? おかしいな? 普通に撮ったつもりだったんだけど。
「もう写真はいいのデース! 次はショッピングにいきましょぉお!」
先頭に立つアンジェリアは次にファッションビルへと歩を進める。もはや舵はいうことをきいてくれない。この航海は荒れ狂う大海原だ。
「なんか、ごめん。変なことに巻き込んじゃって……」
「……いいよ。キラくんが悪い訳じゃないし……」
俯くマヒロの顔はほんのり紅潮している。やっぱり、怒ってるんだよな。
辿り着いたビルの中は、異世界とはまた違う煌びやかな洋服店や雑貨店が立ち並んでいた。自分の住む街だが、普段お洒落に興味の無い俺はあまり立ち寄ることのない場所だ。これはこれで、ある種異世界と言えるのかもしれない。
田舎者のように辺りをきょろきょろと見回していると、店内マップを持ったアンジェリアがマヒロに問いかけはじめる。だが、その距離がやたらと近い。吐けば息すらもかかる距離まで顔を寄せるアンジェリア。
「マヒロはいつもどのお店で買い物するのデスかぁ?」
「え、えと……こことか、ここですかね?」
選んだお店は所謂ギャル系とは違う、割と落ち着いたデザインのカジュアル店。婦人服店ということもあり、肩身の狭い俺はすごすごと二人と離れないように黙って後を着いていく。
「み、店の前で待っててもいいかな?」
「駄目よぉ。キラは私とマヒロのファッションチェックをしないとぉ」
場違いな雰囲気に戸惑う俺を余所に、店内の洋服を物色し始める二人。はじめこそ各々で回遊していたが、そこに店員も加わることで段々と賑やかな雰囲気に様変わりしていく。ずっと不機嫌そうにしていたマヒロも、自然と笑顔が零れ、アンジェリアと共に楽しそうに試着を繰り返していた。
「今年の流行りはこれとこれ! とっても可愛くないですか? お客様にもお似合いだと思います!」
「だそうよぉ、マヒロ! ちょっとセクシーじゃなぁい? 着てみなさいよぉ」
もうさ、外国人の設定完全に忘れてるよね?
「えぇ……私にはちょっと大人っぽすぎないかなぁ」
「いいからいいからぁ! 私が着せてあげるわぁ」
女子はこういうところではしゃぐよなぁ。
そんな、傍観者としての意見が頭を過ったその時、試着室に入るアンジェリアがちらと俺の瞳を流し見た。
その目は、赤黒く淀んだ狂気の眼差し。ルディアとの騒動で見せた時と全く同じ、歪んだ愛に塗れた盲目的な瞳。
そ、そういえばアンジェリアの趣向って……
いや、まさか。あいつはルディアのことが好きなんだよな?
「ひゃあ!」
思考が混乱しかけている最中、突如試着室の中からマヒロの悲鳴が聞こえた。
「マ、マヒロ!!」
まさか、俺の予感は!
焦った俺は急ぎ試着室の前まで駆け寄る。そして試着室内との境界になる一枚の布をひっ掴むと、そのままの勢いで、力いっぱいカーテンを開いた。
「だ、大丈夫か!?」
そこに広がる光景は、アンジェリアがマヒロを襲う決定的瞬間!
ではなく――
マヒロが着ようとしているワンピース。その背中のジッパーを上げようとしているアンジェリアの姿があるのみであった。
「え? キラ……くん?」
「あ、いや……悲鳴が、聞こえたから……」
「手がマヒロの背中に触れただけよぉ。私の手、冷たいからぁ」
う、嘘でしょ……
一気に冷え込む体温とは裏腹に、背中には刺すような熱い視線を感じる。
その殺気を感じ取った俺は、ゆっくりと、背後に振り返る――
「お客様ぁああ? お客様のアタマの方が大丈夫でしてぇえええ?」
怒りに満ちた営業スマイル。矛盾ではない。だって笑顔で怒ってんだから。
後方では無情にもサッとカーテンの閉まる音が聞こえた。どうやら、荒れ狂う海へと転落した俺への助け舟は無いらしい。
俺は、死を覚悟した。
結局マヒロの服を一着買っただけで、その店でのショッピングは終わった。買い物の前と後では打って変わって、二人は楽しくお喋りをしている。粗相をやらかし、こっぴどく叱られた俺はもはや蚊帳の外だ。前を行く二人を羨ましげに眺めていると、アンジェリアが何気なく、ごく自然に――
マヒロの手を取り歩き始めた。
しかも指の一本一本が交差するあの手の繋ぎ方。あれはまさか伝説の、恋人繋ぎ、というものではないのか!? 一度は誤解と思った心の不安。それが再び膨らみ始める。先程頭を過った、アンジェリアの趣向、それは――
女の子が好き。
アンジェリア。まさか、あの女はマヒロのことが――




