第46話 続 恋の女神は転生者を繋げたい!
ルディアとの仲を取り持つ代わりに、俺とマヒロの恋を協力する。アンジェリアとの悪魔の取引に応じた俺は、本来あるべき始末より、よほどやる気に満ち溢れていた。
「私の恋の成就率は百パーセントよぉ! 全ての恋を実らせてきたのぉ。まぁ、途中で始末されてしまった転生者は除いて、だけどぉ」
ひゃ、百パーセント……
これが恋おみくじや占いであれば過剰広告もいいところだが、なんせ相手は恋の女神。つまりは俺のマヒロへの片想いも、百パーセント実るということなのか?
想像すると期待に胸が高鳴り、次第に顔は紅潮していく。
「キラ、過剰な期待は禁物ですわよ」
無言でゲームに集中していたルディアだが、ここにきてようやく口を挟んだ。
「アンジェリアのやり方。それはキラも知っているでしょう? 相手の意志なんてなんのその、邪魔者の排除や、場合によっては記憶や感情の操作も厭わない。結びつけると決めた者は何がなんでも結びつける。百パーセントも当たり前ってことですわね。結ばれることでハッピーエンドを迎えられるかは別物なのですわ」
「な、なんだって!?」
話題の当人であるアンジェリアの方に目を向けると、片目を瞑り、舌先をチロっと出した。テヘペロじゃねぇんだよ。なんて危険な女なんだ……
「ですが、安心なさい。当然!『転生者であるキラが、神の恩恵を受けて、記憶操作されたチョロインを落とす』なんて展開は、調和を保つこの私が許しません。その場合は容赦なくキラを始末対象にしましてよ。神の力を抜きにした助力程度なら大目に見てあげますがね」
全然安心できることではないのだが……
冗談とは思えないルディアの釘を刺す言葉に思わず息を吞む。
だが、どちらにしろそんな恐ろしい方法を使ってまでマヒロと付き合いたいとは思わない。後ろめたさもなく、ちゃんとした形で付き合いたいのだ。
「ルディアにそう言われてしまったら仕方がないわねぇ。でも、そんな力を使わずとも私は恋愛には精通してるのよぉ。大船に乗ったつもりで安心して頂戴ねぇ」
こちらも……全然安心できそうにはないのだが。大船は大船でも、海賊船にでも乗ったかのような危うさを感じる。
とりあえず先に朝飯代わりの昼食を済ませる。準備も整ったところでいざ出航!
と、言いたいところなのだが今日は休日。学校のように、必ずマヒロと出会えるようなシチュエーションではないのだが。
「大丈夫よぉ。これが恋愛物語かラブコメなら、何気なく外に出ても意中の女子と出会えるでしょぉお? そして私は恋愛を司る神様。私と共にいるだけで、恋愛運は高まるのだからぁ」
「それって、神の恩恵に当てはまるんじゃ……」
「こればっかりはどうしようもないものぉ。私も意図的に引き合わせてるのではないわぁ。自然と、不思議に。そういう星の下にあるとしか言えないのだからぁ」
だとすれば、それは避けようのない不可抗力。さすがのルディアもそれは許してくれるだろう。アンジェリアのご縁に期待して、とりあえず何の予定も無しに家を出る。今回ルディアはお留守番だ。俺の恋愛などに興味はないし、ゲームをしてた方が有意義とのこと。
アンジェリアと並んで行く当てもなく街中を歩く。なんだかとても妙な気分だ。少し前までは殺意を向け合った相手と仲良くお出かけするなんて。とはいえ、こうして話すのは初めてのこと。何を話していいかも分からないので、とりあえず神様のことについて尋ねてみた。
「そういえば、アンジェリアは恋の女神で転生神って言ってたよな? ルディアも調和の神で転生神だろ? 神様って掛け持ちできるのな」
「いいえ、できないわぁ。私もルディアも今は転生を司る神。私は”元”恋の女神で、ルディアは”元”調和の神よぉ。今は誰かしらが現役でやっていると思うわぁ」
「なんでルディアは転生神に?」
「ルディアはねぇ。十二神の結束後に来たのよぉ。で、当時の十二神の一人を解任にまで追い込んで、十二神入りを果たしたの。そのやり方がグレーゾーンギリギリでねぇ。それでついた二つ名が鬼畜転生神。
転生神は人気なのよぉ? 普通はなかなか入れない。当時は人気が故に入りたいんだろうとしか思わなかったけどぉ、今回のことで、転生神入りをしたかった理由が分かったわねぇ」
ルディアは調和の神の称号を捨ててまで転生神になった。だがそれは、決して調和の神としての矜持を捨てた訳ではない。むしろ逆で、調和を重んじるからこそ、自身の手の届かぬところで行われる乱れに我慢ならなかったのだろう。だからルディアは転生神になった。敵を知り、かつ打倒する為に。
「でねでねぇ! ルディアが十二神入りした際に行われた緊急集会。私も勿論参加したわぁ。昔から素敵だと思っていたけれど、やはり間近で見ると尊くて……会議中ずうぅっとルディアの姿を眺めていたわぁ……」
感慨深そうに宙を見つめるアンジェリア。歪んだ愛ではあるが、その気持ちは分からないでもない。俺だってマヒロのことを想うと幸せを感じるし、自然と目で追ってしまうことだって多分にある。マヒロの魅力を語り出したら、俺だって止まらなくなるに違いない。
その後は夢中になって、一方的に話し続けるアンジェリア。適当に相槌を打ちながら歩を進める。すると、繁華街の交差点に差し掛かるところで、見覚えのある立ち姿が目に見えた。
「マ、マヒロ?」
振り返る女性。麗しいボブヘアを靡かせると、アメジストを思わせる煌びやかな紫目をこちらに向ける。
「キラくん?」
突然のことで驚いたように目を見開いていたが、声の主が誰だか分かるや否や、その顔には眩しい笑顔が輝いた。
「偶然だねっ! キラくんもお買い物かな?」
「そ、そんなところだよ!」
「そっかぁ。ところで、お隣にいるその方は?」
「……え……あっ!」
マヒロの視線は、アンジェリアに向いている。しまった、今のアンジェリアは誰の目にも見える素の状態だ。普段ルディアには気配を感付かれないようにお願いしているが、アンジェリアに対して忠告することをすっかり忘れていた。
「こここ、この方は! その、あれだよ! 道案内してた外国の女性の方だよ!」
「ふぅん、そうなんだね」
マヒロが、天使のようなマヒロの顔が。今まで見たことのない疑惑の表情に変わっていく。
ままま、まずい。動揺し過ぎた。どどど、どうしよう、どうしよう……
「どうもデース! 私、アンジェリアといいマース。ニッポンに興味があってきまシタァ。よろしくデース!」
突然自己紹介をはじめるアンジェリア。きっと助け船を出してくれたに違いないのだが。その言葉は、母に対するルディアとノリがまったく一緒。神々の中での外国人のモノマネは、皆同じものなのだろうか。
「はじめまして、日本の高校生のマヒロといいます。日本の分化を是非楽しんでいってくださいね」
丁寧に挨拶するマヒロの顔には再び笑顔が戻る。だが、その笑みはどこか不自然だ。あわあわと狼狽える俺を差し置いて、両者はぎこちない握手を交わしている。
「丁度よかったのデース! 私、日本のJK文化も一度見てみたかったのデス。よかったらマヒロも案内してくれませんかぁ?」
アンジェリアの突然の誘い。俺とマヒロも驚きの表情を隠せない。思わず二人で目を見合わせる。
「わ、私は大丈夫ですけど……」
「じゃあ決まりデース! さ、みんなで一緒に出掛けましょぉお」
踵を返し先を行くアンジェリア。意図が全く読めない俺は駆け寄ると、小声で理由をアンジェリアに尋ねる。
「こ、これは一体どういう――」
「駄目よぉ。みすみす帰してどうするのぉ? ここで一気に距離を縮めないとぉ。それにねぇ、さっきのあの子の反応、とても順調よぉ」
「じゅ、順調だって!? どこをどうみればそんな……不機嫌なようにしか見えなかっただろ!」
アンジェリアはやれやれといった面持ちで一息吐く。
「目に見える態度だけが全てじゃないのよぉ。恋愛はねぇ、複雑なの。相手をモノにするにはね、”好き好き”だけでは駄目なのよぉ。大切なのは嫉妬心。放っておけない存在にならなければいけないの。恋愛はね、相手の心を奪うことが要なのよぉ」
やはり、俺の乗った大船は略奪船で間違いなかったようだ。海賊船アンジェリア号は、俺とマヒロを乗せて、恋という荒波へと航路を進めるのであった。




