第44話 続々 モブ役転生者を始末ですわ!
ルディアと共に一行の後を追跡していく。遠目に見える村への距離は、舗装されていない道に比べて実際以上の距離を感じた。
むくみでぱんぱんになった足を引きずり村へ入る。以前のスローライフ転生者の時と比べると、若干栄えているかなといった程度の村。
飯場に入った一行を追い席に着く。料理を頼み終えた一行は、早速転生者である村人へ、質問の集中砲火を浴びせるのであった。
暫くの間、話に耳を傾ける。その内容から察するに、転生者は雑魚敵を倒すことで得られるドロップアイテムで日銭を稼いでいたとのこと。気付いたらいつの間にか強大な力を得ていたらしいが、本人は無自覚で、それが強いのかどうかもあまり分かっていないようだった。加えて現状に不満があった訳でもないので、なんの気なしにここでの生活を続けていたそう。
「モンスターって、なんでアイテム持ってたりするんだろうな。金とか落としたりもそうだけど……」
「知らないですわよ。ゲームの設定などもってこられても。倒したご褒美とかあったほうが映えるからじゃないですか。素材くらいですわね、まだ納得できるのは」
その後も転生者の来歴を話したり、冒険者の中の力自慢と腕相撲したりと、強さの秘密に関連した事柄が続いていたが、次第に話題は別の方向へと流れていく。
「なあ、せっかくそんなに強いのに、この村にこれからもずっと残り続けるのか?」
「分からないけど、今のところは出ようとなんて考えたことはなかったなぁ」
「残らなきゃいけない理由があるのかい?」
「いや、そういう訳ではないよ」
冒険者の話題が、明らかに転生者をパーティに加えようとする方向に持っていっている。
「まずいですわね。このまま勧誘が進んで、それをOKしてしまえば、転生者はこの村を離れてしまいます。奴の世界が広がれば、それだけ調和に与える影響も大きくなっていく。なんとかこの村にいる内に、とっとと片付けてしまいたいですが……」
そうは言うが、俺だって、できることならそうしたい。調和の為とかではなく、単純に旅に付いていくのは骨が折れる。
行動すれば生まれる”らしくない”はあるが、もちろん行動することで、どんどん主人公らしくなっていくことだって考えられる。むしろその方が自然かもしれない。
ルディアには悪いが、もし転生者が旅のお供をOKしてしまったら、この転生者の始末は一旦諦めてしまった方が効率は良いのかもしれない。
「なぁ、最悪の場合、今回の転生者は諦めた方が良くないか? さすがに旅となると、ルディアはともかく俺には準備も必要――」
「それは駄目ですわッ! この私が諦めるですって? アンジェリアの呪縛にも打ち勝ったこの私が、地味で陰気なジミーの転生者に敗北するなど、神が許しても、このルディアは絶対に許さないのですッ!」
そう言うと思ったよ。プライドの塊だからな、こいつは。
だがしかし、”らしくない”と断定するような物事は起きる気配を見せない。そして話題は遂に、パーティへの勧誘そのものへと移り変わっていく。
「もし、よかったらなんだけどさ。この村への未練がないなら、俺達と共に外へ出てみる気はないかい?」
「それって、君たちの仲間になると、そういうことか?」
「そう、君には、俺達のパーティに入って欲しいんだ」
「断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ断れ……」
呪文のように一つの言葉を繰り返すルディア。
なんだか呪われそうで怖いのだが……
「ああ、よかったら是非! 俺も仲間に入れてくれ!」
「ちくしょぉおおお!!! キラが私と一緒に祈らないせいですわ!」
「いやいや、俺に当たられても……というか、そもそもこの要因を作ったのは奴を転生者かどうか試したお前に責任があってだな」
「なによッ! 私のせいにするつもりですか!? 転生者かどうか断定できなければ困るのはキラも一緒でしょう!? 私はそんなキラの為に――」
ルディアは恐るべき早口で俺への罵倒を開始する。だが待てよ。転生者かどうか断定できなければ困る。その言葉、俺も普通に鵜呑みしていた。でも――
地道に雑魚を倒して強くなる。
これって果たして神の恩恵なのか? この世界の誰でもできうることではないのか? であれば、強ければイコール転生者という図式も崩れることになる。
「そもそもキラが――」
「悪い! 俺が悪かった! だから話を止めて、俺の質問を聞いてくれ!」
「な、なんですか、急に……」
「あの村人って、本当に転生者で間違いないのか? この方法なら、強くなるのは誰でもできるんじゃないのか?」
自身の確信を疑われ不満な面持ちのルディア。口を尖らせ俺の言葉に反論する。
「いや、転生者ですわよ。地味な役回りにスポットを当てる。転生神ジミーの十八番ですわ。そもそもね、キラ。普通の人間ならいくら時間をかけようが、雑魚敵倒して強くなんか……」
「あっ!」「それだっ!」
気付いたのは同時。結論から言えば、こいつは転生者で間違いはなかった。
だがこの転生者の場合、村人だからとか、イベントの有無だとか、最強だからとか、今この時点での状態や結果が問題ではなかったのだ。
問題なのはその過程、転生者が強い理由に”らしくない”ことは存在した。確かに転生者は長きに渡り雑魚敵を倒し続けた。それを続けるのは大変なことかもしれないし、苦労もしたのかもしれない。だが極論を言ってしまえば――
赤ん坊を倒し続けた人間が強くなるか?
小学校の算数ドリルを十年続けて天才になれるか?
答えは、なれる訳がない。レベルに合わせて課題もステップアップしなくては、人は強くなることなんて、レベルを上げることなんてできないのだ。
ヒントは途中にもあった。ルディアはレベルについてこう話していた。強くなって、レベルが上がるが正しいと。まさにそういうことなのだ。奴は強くなってないのにレベルは上がる。雑魚敵を倒して得られる経験値など、とっくのとうにゼロになっていなければおかしいはずなのに。
奴の恩恵は何を倒そうが、一定の経験値を得られること。普通に見えて、それが特別。それがあらゆる人間にはできない理不尽な力。そしてその力は”らしくない”
なぜなら主人公は、強敵に打ち勝ち強くなるものだからだ!
俺は光り輝く右手を、座する転生者に差し向ける。そして、トドメの言葉をルディアと共に言い放った。
「雑魚を倒して、強くなれるかぁあああ!!!」
主人公パワーとは、理不尽を許さぬ正義の鉄槌! その力が転生者の胸を貫くと、仕留めた続けたスライムのように、瞬時に身体を蒸発させ跡形もなく消し去った!
「ヤリマシタワァアアア!!!」
高らかに声を張り上げるルディア。アンジェリアとの争いにも最終的に勝ち越したルディアの無敗記録は依然継続中。諦めることも、長期戦になることもなく、なんとか無事に始末を終えることができたのであった。
家に戻ると、俺の机の上には出掛けに置いていったゲームが置かれていた。ルディアに貸したゲーム。これも転生者と同じく可笑しな話なのかもしれない。
本来は、雑魚敵を倒し続けた俺のキャラクターより、強敵と戦い続けたルディアのキャラクターの方が強くあるべきなのだ。俺のハマったゲーム、やり込んだゲーム。その大好きだったゲームを取り出すと、そっと引き出しの奥へとしまった。
「どこなのですかぁ」
翌日、机に向かう俺にルディアがまたしても尋ねてくる。今回は何かを探しているようだが、果たして――
「何がだよ」
「何がって、貸してくれたゲームに決まってるでしょう。どこに隠したのですか?」
「人聞き悪いな。それならしまったよ。だって、もうやらないんだろ? それにあのゲームのシステムは転生者と同じで――」
「ゲームはゲーム、転生者は転生者なのです。それに私はやり込み勢なのですわ! やはり、最強キャラクターを作らないと気が済まないのです!」
そっか、そうだよな。ゲームはゲーム、現実とは違うから面白い。
違う楽しみ方があって、当然だよな。




