第43話 続 モブ役転生者を始末ですわ!
「手っ取り早い方法だって?」
「そうなのです。久々に私自ら身体を張り、奴が転生者なのかどうかを暴いて差し上げますわ!」
腕を組むルディアは得意げに鼻を鳴らす。今までは俺に気付かせるように誘導する物言いが多かったが、一体どういう風の吹き回しなのやら。
「どうしたんだよ、いきなり。今までと違って、いやに協力的じゃんか」
「今まではキラの育成に重きを置いていただけですわ。以前よりキラも成長しましたし、これからは二人で力を合わせて、効率を上げていこうと思ったまでです」
確かに、当初に比べれば考える力は身に付いたと思う。的外れをどやされることも少なくなってきた。ルディアは何気ない面持ちでさらっと言ったが、それでも成長を褒められるのは素直に嬉しく感じた。
「ちなみに暴くといっても、一体どういう手を使うんだよ?」
「それは単純明快。転生者に足る最強の力を村人に提示させればよいのです」
「ま、まぁ確かにそれなら分かりやすいけども、お前の見立てでは、村人からは特別な強さを感じなかったんだろ?」
先程ルディアは、弱すぎるという旨で村人たちの気配を感じ取れていなかった。令嬢やスローライフのようなケースがあるとも。
「それは魔力に限っての話ですわ。体表を纏うエネルギーから判断してますから、内包される腕力や技術まで判別できる訳ではありません」
「でもそれって憶測だろ? なんで最強かもしれないって予測がつくんだよ」
「本音を言えば、試しです。ですが、試すからには一番確立の高いものから選ぶのがセオリーですわ。目的はなんにせよ、雑魚敵狩りを習慣的に行い続けている村人は、同時にレベルも向上させている可能性が高いのです」
レベルというシステムはゲームをやる方には馴染み深いと思う。もちろん例外もあるが大抵は力を表す指標になり、高ければ高いほどに強くなる。
「異世界にはレベルもあるんだな。ゲーム好きとしては、カンスト目指して頑張りたくなる気持ちも分かるけど」
「それはあくまでゲームでしょう。だから成り立つシステムなのです。私に言わせれば、レベルなど可笑しな強さの概念ですわ。皆一様に、レベルが上がって強くなった。と言いますでしょう?」
「そりゃそうだろ。何か変なことあるか?」
「ですが実際は”強くなる”が先だと思うのです。強くなってレベルアップした。が、正しい在り方でしょうに」
一瞬、頭の中にハテナマークが浮かんだが。要はレベルを空手の帯とするならば、強くなるからこそ黒帯を得られる訳で、黒帯を与えたら強くなる訳ではない。たぶんそんなニュアンス、ルディアはそんなようなことが言いたいんだと思う。
「無駄話が過ぎましたね。では早速やりますか」
「ちなみに、どうやって強さを測るんだ?」
俺の問いに不敵な笑みを浮かべるルディア。知略を駆使した頭脳戦なのか、はたまた色気を使った作戦なのか。
「突っ込みます」
「――は?」
「私が奴に特攻すると言ってるのです」
な、なんて単純明快。確かにルディアの力なら、相手が誰でも本気を出さざる負えないだろう。だが――
「神だと知らない相手からすれば、ルディアは人間の女だろ。まともに相手をしてくれない可能性があるんじゃないか?」
「確かに、このままの姿では戦うどころか魅了してしまう可能性が高いでしょう。恐らくアンジェリア同様、危害を加えることができなくなると踏んでます」
ふざける様子もなく、真面目に考察を語るルディア。
馬鹿かこいつは。なにを論理的に自分の美を解説してるんだよ。
「ですので! 対峙すれば迷わず攻撃を選択するような、話の通用しない化物の姿で特攻するのですわ!」
「ちょ、ちょっと待て! はじめて聞いたぞ、そんな能力! お前、そんなことできたのかよ!」
「何を今更。そもそも、あなたの肉体は私が創り出したのですわ。化物の肉体を創造し、そこに私の精神を宿らせる。転生技術の応用という訳ですね。あまり褒められた使い方ではないですが、誰かを犠牲にするよりマシでしょう」
するとルディア、地面を擦るようにして足を広げると胸の前で両手を合わせる。身体からは蒼きオーラが昇り立ち、黄金の長髪がゆらゆらと逆立った。ルディアを中心に放出されるエネルギーは、草木を激しく揺れ動かす。
圧倒的なパワーを感じるがアンジェリアのような負の圧力はなく、俺の身体への影響も無さそうだ。
「な、なんか凄そうな雰囲気だな」
「キラの為に、ちょっと格好よくしてますから——ねッ!」
語尾の強調を合図に、目の前には巨大な魔方陣が描かれる。光の紋章から天にも届く光の柱が立ち上がると、次第に円の内側に大きな影が映し出されていく。
それは、ネコ科のモンスター。ネコと言っても家ネコのような可愛らしい様相ではなく、虎やライオンといった猛獣の類の生物だ。だがその大きさはまるで大型トラック。それこそ虎やライオンが仔猫に見えてしまう程の迫力の化物。
動きはない。息すらしていないように見える。身体だけ創り出して、魂は宿っていないのだから当然といえば当然なのだが。
光は次第に終息し、化物だけが草むらに横たわる。次は魂を宿らせると言っていた。ふと、ルディアの方へと振り返ると――
まるでショックで失神してしまう乙女のように、ルディアは崩れ落ちるようにパタリとその場に倒れ込んだ。
咄嗟のことに慌ててルディアに駆け寄る。抱き上げた身体に力はなく、自重をそのまま預けるような死者の身体を連想させた。
「お、おい! 大丈夫かよ! おいッ!」
身体を揺さぶるが全く反応を示さないルディア。すると、突然辺りに暗い影が差す。恐る恐る顔を上げると――
「うわぁあああ!!!」
先まで横になっていた怪物が、俺とルディアを見下ろしていたのだ。
「それは私の抜け殻です。今はこちらに魂を宿しているのですわ」
「あ、あぁ。もう魂の移動も済んでいたんだな」
分かっている。頭では理解できているが、やはり恐ろしいものは恐ろしい。唯一、こんな凶悪な見た目にも関わらず人語を、かつルディアの口調で話すことだけが滑稽で、俺の恐怖を緩和させてくれた。
「魂を移すと、やっぱり本体の方は動けないんだな」
「できないことはないですわ。分魂といって、魂を分割する技術ですね。古の技で神の中でも使える者は僅かです。そもそも知らない者が大多数でしょう。一見すれば便利そうですが、下手すると分けた魂の方に別人格が芽生えてしまう危険もある禁忌の魔術。力も半減しますし、デメリットも多いのですわ。なにより、存外自分とは仲良くできないものなのですよ」
同族嫌悪の究極版ってことか。趣味も好みも全てが同じ、なにせ自分自身なのだから。
「では、そこで私の麗しい身体を預かっていてください。無抵抗だからって、妙な悪戯をするんじゃないですわよ」
そんな気など毛頭無かったのに、言われると意識してしまうだろうが。だが抜け殻のルディアに悪戯すれば、それは異能力転生者の時間停止と変わらない。あれと一緒になるのなら、死んでも触らんと心に決めた。
「では、死んできますわね!」
これは多分、数多の世界の歴史上、最高にポジティブな自殺だろう。
”神の視点”を解除すると、強靭な四肢で野を駆けるルディア。これは中々迫力のある——
「がおーー!」
大根役者め。
気付いた村人は化物の方へと振り返る。しかしそこに慌てふためく様子は見られない。腰を沈め、地面に手を着いたかと思うと、再びその場に立ち上がる村人。ルディアは、そんな村人目掛けて地を蹴り上げ、飛び掛かるようにして襲い掛かる。
ボゴンッ!
地に響く鈍い音。それが地面を通じて身体に伝わる。強烈な打撃音にも聞こえたが、まだ両者は近接格闘の間合いには入っていない。だが、二足立ちのまま動きを止めるルディア。ゆっくりと前のめりに倒れ込むと、そのままピクリとも動かなくなった。
身代わりとはいえ殺害に近いその場面。しかもそれが気心知れる相手となれば。固唾を吞んで見守るその手にも自然と力が入る。
「ほぉらやっぱり」
ふと、耳に届く声。その声はとても近くから聞こえる。抱える両手の負担も僅かに軽くなったような――
「そんなに強く抱きしめて、一体ナニをするつもりなのですかね」
下を向くと、目を細めるルディアの顔がそこに。既に魂は元の身体に戻ってきていた。そんなルディアを、俺は意図せず強く抱き寄せている。
「ち、違うんだ! これは状況反射的なあれで、お前の身体には全然興味なんかなくって――」
「それはそれで失礼な言い種ですわね。それはさておき、やはり読み通りに、奴の力は常識の範囲を超えるものでしたわ」
あの巨体を一撃で葬り去るほどの攻撃だ。確かに異常な強さといえるだろう。だが結局、俺にはルディアが何で仕留められたのかが分かっていない。
「お前は結局何をされたんだ?」
「抱き締められました」
「馬鹿……」
呆れる俺の前にルディアはそっと手を差し出した。その掌には一つの石ころが乗っている。
「まだ何かふざけてんのかよ」
「これが凶器ですわ」
「な……石ころが? 何か特別な力を持ったアイテムじゃなくてか?」
「えぇ、ただの石ころです。実際に使ったものは遥か彼方に飛んでいってしまったでしょうが、これも実物と大して差はありません」
驚きはしたが、確かに俺が投げたって、石は当たればそれなりに痛い。それを、転生者の力でもって投げたのであれば……
それは銃弾をも凌駕する、無限にして最強の投擲といっても過言ではないだろう。
「奴はどうやらモブの中でも、雑魚敵を狩り続けてレベルカンストしてしまった村人、という立ち回りのようですね」
「それって、あのスライム討伐のことかよ! ああやって村の近くの雑魚敵をちまちま倒し続けてたら、いつの間にか最強になってたってことか?」
「まさしくそれ。意外なキャラクターを最強に仕立て上げる。それがモブやサブキャラ転生者に共通することですわ。今回の転生者は村人、よって、魔法やスキルといった冒険者らしい能力はない。攻撃手段は”たたかう”一択の脳筋プレイ」
まさに、レベルを上げて物理で殴る。を体現したような奴だ。ここまで極まれば、最早魔法や技も必要ない。
「どうです? あくまで正体を探る為のデモンストレーションでしたが、何か”らしくない”ことなどは感付きましたか?」
それを意識して場面を見てはいなかったが、少し頭を捻ってみる。期待の眼差しを向けるルディア。そんなに見つめられると、あまり集中できないんだけれども――
「そうだな。まず、村人が主人公という点。これはダメだ。スローライフ転生者だって村人という役回りだったしな。それだけで主人公ではないとは言い切れない。
次に強さ。これもダメだ。奴はレベル上げを行ってる。地道に狩り続けることによってね。神の恩恵に頼った理不尽な力って訳でもない」
眉を下げ、少し残念そうな顔を見せるルディア。失望という訳ではなく、まあ仕方がないかというような面持ち。だが俺がルディアに習ったのは考える力だけではない。それは、エンターテイメント性。
「まあ、転生者かどうかを見分けるのが目的だった訳ですし、これから順に——」
「まだ、三つめがあるよ。そしてそれは”らしくない”」
ルディアの顔に再び明るい表情が戻っていく。なるほど、これは確かにやってみたくなる気持ちも分かる気がする。
「三つ目、それはイベントの有無だ。最強だろうが何だろうが、主人公ならばイベントが起きなきゃダメだろ? じゃなきゃ物語が進まない。今のところ奴は雑魚敵始末に明け暮れてる。正直言って俺も見飽きた。このままもう少しの間何も無ければ、主人公パワーは奴の力を上回れる気がする」
「なるほど! 自分でイベントを起こしてしまったので、うっかりしてましたわ」
「でもそれは部外者の俺達の手によって引き起こされたに過ぎないことだろ? この異世界の者の関わるイベントじゃない」
「キラがそう思えるのなら、それはそれで大丈夫なのですわ」
よし、あとは何事もなければ、それで今回の転生者の始末はおしまいだ。
じゃあ残りの観察を再び――って……
改めて転生者の方に振り返る。するとそこでは、いかにも冒険者といった身なりの男女数人が転生者と話をしていた。
なんでもない村人との会話かと思いきや、やけに盛り上がるをみせるその様子。冒険者の一人は化物の亡骸に指をさし、興奮気味に転生者にまくし立てている。
どうやら、この草原を通っていた冒険者達。転生者が化物を倒すシーンを目撃してしまっていたらしい。そして稀なる力を持つ転生者に興味を示してしまったようだ。
「イベント、発生してるな」
「…………ですわね」
手っ取り早くと思って行った作戦が、まさか裏目に出てしまうとは。異世界人まで絡んでしまうと話は別だ。頭を悩ましている内に、転生者は冒険者一行と共に村に向かって歩き始める。このまま旅に同伴するような流れになれば非常にまずい。地平線の向こうまで観察を続けるなどやってられるか。イベントが発生してしまった以上、なんとか別軸で”らしくない”ことを探さなくては……




