第42話 モブ役転生者を始末ですわ!
行きついた先は草原。屋外からのスタートは今までにも何回かあったが、森や洞窟といった陰鬱とした場所ではなく、解放感溢れる自然の楽園。見渡す限りに緑の絨毯が敷かれ、青い空がどこまでも続く。こと人工物はほとんど見当たらないが、唯一、遠目には町というには心許ない、村のような集落の存在が見て取れた。
人の手の行き届かない自然。辺りにはもちろん人間以外の生き物もいる。現実世界でも馴染みのあるような小動物から、異世界外の人間からすれば魔物にカテゴライズされる、スライムのような液状の生命体まで。
だがモンスターといえど、それらが獣と共存できているということは、この地域には生態系を狂わすほどの圧倒的な捕食者がいないということを示唆している。
「のどか、だな」
「それでも、キラの世界でいうところの熊くらいの獣はいてもおかしくはないのです。決して、私の側を離れるのではないのですわよ」
草をかき分けて辺りの捜索を行う。足元にはスライムがのろのろとゆっくり流動している。正直言って、俺ですら倒してしまえそうなレベルのモンスターだ。だが仮に弱くても、獣が捕食したところで栄養価も特に無さそうに見える。自然界における強さは戦闘能力だけではない。弱肉強食の世界で、肉にならない術を持つ種は現実世界にも数多存在する。天敵の少なさ、というところで、スライムは種の保存においては強者に当てはまるのかもしれない。
生い茂る草は、深いところでは俺の背丈ほどある。ルディアでようやく頭が出るような高さだ。このままでは効率も悪いし、なにより転生者キラーを扱う俺が見えないのでは話にならない。近くに小高い丘を見つけたルディアは、一旦俺をそこまで誘導した。
「これで、草原の全体感は見渡せるな——って、どうしたんだ?」
しきりに自身の身体を見回すルディア。胸元を引っ張り、服の中まで覗きはじめる。
「体中草だらけなのですわよ。服にも入ったかしら——」
そう言うなり、突然服をバサバサと煽ぎだした。あわや恥部まで見えかねない大胆な行動に赤面して顔を逸らす。気配を消しているとはいえ俺には見えているんだぞ。姉や妹を持つと、こういう感じなのかもしれない。
すると、逸らした視線の先に一つの人影が見えた。布の服を着て、こん棒のような武器を持つ、みずほらしい姿の青年。勇者や冒険者といった風体ではないが、転移してから割と近くにおり、且つ草原を一人で彷徨っている。これが今回の転生者に違いないはず。
「見つけたぞ、転生者を」「見つけましたわ、転生者を」
どうやらルディアも同じタイミングで転生者を見つけた様子。早速、その行動の観察に入っていく。
「勇者とか、そういう感じの見た目じゃないよな。スローライフ系の転生者っぽくもあるけど」
「うぅん、考えられないことはないですが、彼らはあまり狩りをするイメージじゃないのですわよね」
「こん棒だと狩り辛そうだな。護身用なのかもしれないけど」
「こん棒? 持ってるのは弓矢でしょう?」
「ん?」「え?」
振り返り、互いに顔だけ見合わせる。しかし身体は別の方向を向いていて——
「おい、転生者はこっちだぞ……」
「何を言いますか、転生者はこちらに……」
瞬間、俺とルディアは気付いた。互いの転生者を見る訳でもなく、双方周囲に目を凝らす。すると、転生者だと思った人間以外にも、草むらから頭を覗かせる者が、一、二……三人はいる。
「そっちはどうだ」
「四人はいますわね。どの気配も雑魚すぎて気付きませんでしたわ」
「それって、転生者なのに強くないってことか?」
「スローライフや悪役令嬢のように戦闘能力が高くない、若しくは皆無な転生者もおります。一概に強い、イコール転生者とも限らないのですわ」
ルディアと合わせれば計七人。どれも同じような服装に背格好。群衆を構成する一人のように、一晩もすれば顔も忘れる地味な見た目の者達。その者達は一様に、何かしらの簡素な武具を持っていた。動きは目的地を目指すような規則正しいものではなく、何かを探すように行ったり来たり。
「村人の狩りっぽいな」
「そうですわね……」
暫く様子を見続けると、次第に狩猟を行う村人達。集団で大きい獲物を狩るという訳ではなく、あくまで個々で狩りに来ているようだ。狩り終えた者は村へと足を運んでいく。
「全然分からないんだけど」
「そうですわね……」
一人、二人と徐々に草原から姿を消す。そしていつしか、残るははじめに俺が発見した、こん棒を持つ者ただ一人。
「これ、先に帰った六人の中に転生者がいる可能性の方が高くないか?」
「そうですわ——」
「おい! さっきから同じことばっか言って、ちゃんと考えてるのかよ!」
機械的に言葉を返すルディア。まだ突っ込まれ足りないのかとでも思ったが、振り返るルディアの顔は真剣そのものだった。
「考えてない訳ではありません。分からないのは本当ですし、先に帰った六人に紛れている可能性が高いのも事実です。ですがね、残った一人は少し不可解なのですわよ」
「不可解……」
見るとその男。草むらをかき分け、足もとのスライムをこん棒でなぎ払い、草むらをかき分け、足もとのスライムをこん棒でなぎ払い、草むらを——
「繰り返し何してるんだろうな。獲物を探しつつ、邪魔なスライムを倒してるようにも見えるけど」
「そうなのです。そういう風にも見える。ただ、私にはそのルーティーン自体が目的のようにも見えるのです」
「つまりそれって……」
「えぇ、雑魚狩りってことですわね」
雑魚狩り。雑魚敵をひたすら延々と狩り続ける。RPGではよく見られる行動だ。経験値だったり、お金稼ぎだったり、あとはドロップアイテム狙いだったりと目的は多岐に渡る。
「確かに奴の行動は、ゲームの存在を知る転生者っぽいような動きだけど。でも相手は村人だぜ? 令嬢のような華もなければ、何かに特化したスキルも今のところ使ってないよ」
「そうなのです。だから私も断定しきれない。ですが、もし彼が転生者なのであれば、恐らく今回の転生者は”モブ役転生”。村人という、群衆の役回りに転生した者なのですわ」
モブ役とは物語に出てくる脇役だ。いや、正確には脇役ですらない。名前すらつかない群集——それがモブ。
「宿屋に武具屋にアイテム屋に。スローライフと交わるケースも多いですね。亜種として、回復役、盾役、バフ役。本来主人公足り得ないような役回りを中心に添えるサブキャラ転生もあります。この場合は大概にしてパーティを追放されるケースが多いですわ」
まぁた種類が増えたよ。一体どれだけの転生者が世の中にいるってんだ。
兎にも角にも意外性を突くことだけが目的になっている感が否めない。闇鍋風で、それはそれで面白いのだが、肝心要の味の方もしっかりしてくれないと困りものだ。
「にしても、お前の言うように転生者と断定はしきれないんだよな。単にスライム駆除をするだけの人かもしれないし——」
「ですわね。なので今回はてっとり早くいきましょう。私たちは転生者を狩る立場。雑魚狩りというのは、往々にして効率を求められるものなのですわよ」




