第41話 突っ込まないなんて耐えられない!
アンジェリアとの騒動から数日後——
あの後、アンジェリアは今までの執念が嘘のように大人しく天界へと帰っていった。ルディアのお仕置きはかなり過激だったが、それがかえって彼女の欲望を存分に満たすことができたようだ。俺は途中から見るのをやめたが。
半ば空気と化していた令嬢はというと、事前に得ていた主人公パワーにより”無事?”に異世界からの排除に成功。一度目の悪役令嬢よろしく魂のみが現実世界に戻り、残った身体には本来の所有主である令嬢の意思が再び宿った。
ルディアがぶち抜いた床の穴を親子揃って不思議そうに覗く姿を見て、本当の父と子、似たもの同士だなと、そう感じた。
それからというもの、ルディアもいつもの調子に戻った。俺もそれを望んでいた訳だし、それはそれで喜ばしいことなのだが――
「な、納得できないのですわぁあああ!」
威勢の良い悲鳴が部屋の中に響き渡る。いつも通りということは、つまりはそういうこと。ゲーム一つで喚き立てるルディアの相手をしなくてはならない、ということだ。
机に向かう手を止め溜め息一つ。アンジェリアに連絡先でも聞いておけば良かったかもしれない。あのしおらしい姿が逆に恋しい。彼女には週一くらいでルディアをネガティブモードに叩き落として貰いたいものだ。
「はいはい、今日は何事ですかね?」
「何事と言われれば大事なのです! これを見てくださいまし!!」
俺の目の前に”ある物”を突き出すルディア。それは、今まさにルディアがプレイしていた携帯ゲーム機の画面。
中身はロールプレイングゲーム。一人用なら勉強の邪魔にならないと鑑み、俺がルディアに貸したものだ。その物語は勇者が主人公の王道ファンタジーという訳ではなく、ゲットしたキャラクターを育てて戦わせるタイプのRPG。異世界で中世の世界観など見飽きているルディアを思って配慮したチョイスである。
てっきり物語の進行にでも行き詰ったのかと踏んでいたが、差し出す画面には、ルディアが育てたであろうキャラクターがずらりと並んでいた。
「おぉ、すげぇじゃん! カンストレベルのキャラが何体も——」
「レベルではなく! ステータスの方を見るのですわ!」
言われるがままにステータスの項目に目を通す。が、特におかしな様子はないように見える。バグのような異常も見られない。首を傾げていると、答えを待たずにルディアは言葉を続けた。
「自分のゲームなのに気付かないとは、キラの目は節穴なのですか!?」
不満に気付かない俺に痺れを切らしたルディアは、ゲーム画面を操作する。そして再び俺の眼前にゲーム画面を突き出した。そこに映るのは先と同じくステータス画面。違いは、それが俺の育てたセーブデータだということ。
「キラのキャラクターは、私と同じカンストレベルでも遥かにステータスが高いのです! 全く同じキャラクターなのに! これは一体、どういうことなのですか!?」
「あ、そういうことね……」
一見すれば理不尽なこと。だがそれにはこのゲームのシステムが深く影響している。このゲームを俺は一時期相当やりこんでいた。一般視点で見ればルディアのキャラクターのステータスはいたって普通。なのだが――
このゲームには裏システムとして”苦労値”というものがある。経験値の高い敵を倒して”楽”にレベルを上げるより、経験値の低い敵をたくさん倒し”苦労”してレベルを上げたほうが、レベルアップ時のステータスの上昇値が高くなるのだ。
俺はそのシステムを知っていたから、各キャラクターの能力値を限界まで引き上げていた。
「――ってことなんだ。普通にクリアする分には必要ないやりこみ要素だったから言わなかったけどさ」
「なぜ! なぜ言わないのですか!? 私はやりこみ勢です! 今からでもなんとかならないのですか!?」
「まぁその、言いにくいんだけど……最初っからやるしかないよね!」
「ざけんなぁあああ! ですわぁあああ!!」
キレたルディアはゲーム機を俺に向かって投げつける。
「だから! ゲームは優しく扱えって!」
「なによッ! 廃人御用達のマゾ向けなゲームに相応しい扱いをしてやったまでですわ!」
いや、その理屈ならばゲーム自体はドSなのでは?
「くそ……かくなる上は——」
そう言うなりルディアは、かくもヘッドバンキングのように、頭を上下左右に振り回しはじめた。おいたわしやルディア。狂ってしまうとはなにごとじゃ。いやまて、アンジェリアの陰に隠れただけで、元々狂っていたから問題ないか。
その奇行に真顔でもって応対する。すると、右斜め四十五度あたりでぴたりと頭を静止させるルディア。
「この方向に、転生者波動を感じるのです」
「――そうか」
「この怒りを発散する為に転生者を探し出した、という訳ですね」
「それは良かったな。じゃあ行こうか」
「キラ――」
「なんだ?」
「反応してくれないと寂しい……」
「そんな方法で転生者探せるならはじめから使えよッ! ていうかストレス発散に転生者を使うなッ!!」
「ただのパフォーマンスですわよ! 偶然見つけたに過ぎないですわ! 調和を乱す転生者をどう扱おうが私の自由ですわぁあああ!」
嬉々とした様子で言葉を返すルディア。ゲートを作り出すと、一言残して先に飛び立った。
「ありがとう、キラ……」
礼には及ばない。
だってこれは、単なるギャグの流れなのだから——




