第24話 続 スローライフ転生者を始末ですわ!
動きがあったのは表玄関。転生者の方から自主的に、という訳ではなく、来訪者があったようだ。店であればそれも当然。の、はずなのだが。なにやらその様子が少しおかしい。
馬車から足を下ろすその男。旅人や商人といった身なりではない、高貴な印象を漂わせる。一介の村の薬屋に訪れるには明らかに場違いな様相。単なるお遣いではなさそうだ。
入口で挨拶を済ませると、店内に招き入れる転生者。開く扉に合わせて、店内への侵入を試みる。
雑談程度の会話をする二人。明らかに身分は違うはずなのだが、その表情や身振り手振り、そこから男が転生者に対して敬意を払っていることが見て取れる。
「では、そろそろ本題なのだが。実は、我が国の民の間で、そなたの薬が良薬と評判でしてな。それで以前、遣いの者に買いに行かせたのだ。
あまり大きな声では言えんのだが、我が国の王女は病弱でな。藁にもすがる思いで、その噂に懸けてみることにしたのだよ」
「ほう、それでいかがでしたか?」
「それがな! なんと王女の病は立ちどころに回復したのだよ! おまけに体質まで改善され、今ではなんと城を出て外で遊び始める始末。とんだおてんば王女になってしまってな。城内皆困り果ててしまっておるのだよ!」
そう話す遣いの者。迷惑だとも言ってるように聞こえるが、笑顔に溢れ、意気揚々と話すその様子。仕える王女への愛情の裏返しだ。心底回復を喜んでいるように見える。
「それでな。王と王妃が、是非ともそなたに礼をしたいと仰っておる。元気になった王女とも会って頂きたい。それで迎えに来た訳なのだが、実はもう一つ、お願いがありましてな」
「なんでしょう?」
「そなたのその薬。国として買い取ろうと思っておるのだよ。兵士や、我が国の民にも使って欲しい。もちろんそれなりの額を支払うつもりだ。悪い話ではないと思うのだが……」
「かしこまりました。ぜひ王国に一度行かせて頂きたく思います。つきましては薬の準備もあるので、出発はまた明日にでも」
トントン拍子で進む話。ある事柄が、偶然権力のある者の目に留まり、そこからはじまる出世街道物語。これはこれで良くありそうな物語でもある。
しかし、それにしても随分大きな取引だ。王国絡みとなれば、その数は一介の村など比較にならない。
おまけに出発は翌日だ。予めストックがあるのか? いやいや、国単位のストックなど溜め置く訳がないだろう。つまりそれを、一晩で用意しきるということなのか?
「なんだか、すごい忙しそうだな――」
転生者の能力の本領は分からない。もしかしたら、その能力の前では造作もないことなのかもしれない。だけど、俺の本音が、ふと言葉として出た時。
僅かに、右手が輝きを放ったように見えた。
え?
一瞬のできごと。単なる見間違いの可能性が高い。だけどもし、これが錯覚ではないのなら。俺は、俺の気付かない無意識レベルで、何か”らしくない”ことを感じ始めているのだろうか。
その後話はまとまり、結果として、遣いの者はこの村で一晩過ごしていくことになった。普段は城で過ごすであろう身分の使者。それが、お世辞にも清潔とは言い難い村で一夜を過ごすわけだが、嫌な顔一つせずその場を後にする。この手の者は嫌味な奴と、決めつけていた自分が少し恥ずかしい。
これまでの闘病ドラマと成功譚。誰しもめでたしめでたしと、大団円で締め括りたいところだが、そうはルディアが卸さない。
「これは、まずいですわね。転生者の力が王国にまで加担するとなると、調和への影響は甚大ですわ。
兵士と言っていましたが、もし戦に転生者の薬を使われてしまったら、相手国は為すすべもなく惨敗を喫するでしょうね。病はおろか、体質まで改善してしまう薬。傷薬の効果も推して知るべし、ですわ」
たった一人の転生で、一つの国の存亡にまで関わってきてしまう。
物語の裏の部分だ。一見ハッピーエンドな話でさえ、モブ役の生死、敵役の家族、それを語り始めてしまえば、いかなる物語も大団円を迎えられない。その指摘は正論ではなく野暮というものだ。
だが、目の前の事態はフィクションではない。現実に起こりうるのなら、関わる者達の人生を、決して野暮と言ってはならない。
転生者はというと、依頼に対しての準備を着々と進めていた。だがその仕事、調合の末にボンと黒煙が舞うような、そんな地道な作業とは全く無縁だ。
まずは、大量の薬の容器となる瓶を作り始める転生者。この時点で明日の出発など到底間に合うものではないのだが、素材となる石や砂、草木を集めたかと思うと、両手を添えて、はいおしまい。あれよあれよと、ガラスの容器が精製されて積みあがっていくのだ。
まるで魔法というよりマジックショーだ。
関心しながら眺めていると、また、右手が少し熱くなるのを感じた。
俺は一体何に対して違和感を……
「あと、もう一押しといったところですわね」
「なんだよ、気付いていたのか」
「キラの様子は、転生者と同じくらいに気にしていますわ。あなたは私の大事なパートナー……に、なりうるかもしれないのですから」
「おいおい、パートナーって……」
「その、パートナーじゃないですわよ。仕事仲間、ね」
「わ、分かってるよ」
「とにかく今は、まだ心で感じている程度の違和感のみ。だから主人公パワーも十分に吸収しきれていない。でもあと少し――
あなたの気付かぬところで、答えは既に出ているのですわ」
それって――
ゴーン ゴーン
それは突然だった。突如村中に金属を叩くような音が響き渡る。
一瞬きょとんと呆けてしまったが、辺りの家から飛び出る人々を見て、それが警鐘であることをすぐに理解した。容器を精製していた転生者も、村の通りに飛び出してくる。何事かと周囲を見渡していると、そこに村娘が慌てた様子で駆け寄っていった。
「た、大変です! 村に魔物の群れが来ていると!」
「なんだって!? 分かった! すぐに向かおう!」
村娘と共に現場にへと向かう転生者。
すぐさまその後をルディアと共に追っていく。
次から次へと、何が何やら――
そういえば、この転生者って、一体何者だったっけ?




